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店の日常編

外の世界に少しずつ その13

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 この日の夜から、村人たちは夜の見回りを始めた。
 顔見せする気は全くなかったが、俺も混ざらないとまずいよなぁ。
 と思ってたんだが。

「アラタさんはそのまま……お店の周りだけに注意を向けてもらえるとありがたいんですが」

 とサーマルに言われた。
 まぁそりゃそうか。
 村の端っこにポツンと一軒家って感じなんだよな。
 俺もその見回りに混ざると、当然俺の店にも見回りの足を向けなきゃならんと。
 となれば、その範囲はとてつもなく広く、見回り当番の村人たちの疲労もかなり溜まる。
 その疲れはすぐに抜けず、日常の仕事に差し支えかねない。
 逆に俺だけ特別扱いっぽくすると、村人たちの見回りの負担はかなり軽くなるんだからそれはそれでいいか。
 こっちの注意の見落としで、村中に何らかの被害があっても、俺らを責めるような真似はしないとも言ってくれた。
 けど寝てる間も警戒するってのは……。
 そう。今まで何度もやってきたこと。
 ましてや今回は、泥棒一味の残りがいないことが判明次第、その態勢は解除されるらしいから、その時が来たら終了ってことになるか。

「まぁ……その残りがいるかどうか次第ってことになるでしょうがな。保安官達からの取り調べの報告待ち。ですが、報復行為はその結果よりも早く来るかも分かりませんからな。ということで、私はそろそろこの辺で」

 その見回りの計画とかを立てたりするんだろうな。
 俺らも他人事じゃないんだろうけどな。

「アラター。晩ご飯これからでしょ?」

 サーマルさんが立ち去るや否や、いきなりテンちゃんが話題を変えてきた。

「お、おう、まぁな」
「あたしこれにするからー」
「これ?」
「背中、背中」

 今気づいた。
 思いっきり干し草を背負ってた。

「あたしの晩ご飯の分だってー」
「ドーセンさんとこで食べてる量の倍くらいあるかな……」

 俺もヨウミと同意見。

「もっと欲しかったけど、わがまま言うのちょっと恥ずかしいかなって」
「乙女心、だねぇ……」

 マッキーの意見には異議を申し立てたい。
 こうしてこの日は終わったわけだが。

 ※※※※※ ※※※※※

 次の日の朝から、何か村の雰囲気が騒がしい。
 異変が起きたんじゃなく、夜の見回りに備えてってとこだ。
 自警団結成、といったところか。
 あぁ……騒がしいんじゃなく、勇ましさが感じられるってとこだな?
 もしくは猛々しさ。
 いや、違うな。
 これは……一致団結して、みんなで何かを成し遂げようとする意志の強さだな。
 農作業とか力仕事に携わってる者達から感じられる、物理的な力強さも感じられる。
 何というか、村中にそんな気配が漂ってるって感じだ。
 だが不思議なことに、何となく頼りがいがあるようには感じられない。
 おそらく、非常事態に備えるということに慣れてないからかも分からん。
 それに比べてこっちは……。
 いや、こっちじゃなくて俺自身か。
 俺自身、非常事態の連続だったからなぁ。
 むしろ俺の方が普通じゃない。
 自分で言うのもなんだがな。

「サーマルさん、あんなこと言ってたけど、あたし達はどうするの?」
「いつも通りでいいだろ。俺の能力は健在だし、そうでなくてもお前らで……」
「助け合い、だもんねっ」

 そうそう。
 テンちゃんの言う通り。

「助け合いはいいんですけど、アラタさん、今までのような無茶は止めてくださいね?」

 うぁ。
 痛いところを突いてくる。

「無茶したって死なないでしょ、こいつ」

 コーティはコーティでぞんざいに扱ってくれるな。

「ウン。ダイジョウブ」

 おい、ライム。

「ライムタチガ、マモルカラネ。コーティモ、タノンダヨ?」
「えぇー?」

 あぁ、そういうことか。
 で、コーティよ。
 嫌そうな顔すんじゃねぇよ。
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