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紅丸編

トラブル連打 その6

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 一時間以上も地上を離れ、まるまる商会の船の前に着陸してから約十分か。
 中身が見えない箱の運搬作業の手伝いをしていた紅丸を見つけた。

「おや、アラタさんやないですか。あら? ヨウミさん? ライムちゃんも一緒ですかー。今日もゆっくり楽しんでってくださいな」
「すまん。ゆっくり楽しんでる場合じゃねぇんだ。……紅丸。お前、魔物の泉現象……って知ってるよな?」
「そりゃ、まぁ。やたら強い魔物がわしゃわしゃ出てくるあれでっしゃろ?」
「じゃあその現象の魔物を討伐する専門家がいるって話はどうだ?」
「旗手のみなさんのことでっしゃろ? それがどないしましたん?」

 俺からの質問に答えてはくれたが、それだけに留まってしまった。
 俺の疑いは、ほぼ的中したようなもんだ。
 推測した結論を、外堀を埋めるような順番で突き出していかなきゃならん。
 まったく面倒な話だ。

「はぁ? アラタさんに関心がない? わぁしが? いやいやいや、何言うてますのん。わぁしが初めてアラタさんの噂聞いたときゃ、そらワクワクしましてたわ」
「商売以外の話は聞いたことないのか?」
「は? はぁ……ありませんなぁ」

 こんなのんびりしたテンポでいいのか?
 泉現象が待ってるというのにっ。
 何てもどかしい!

「時に、まるまる商会は国の政権……権力者と繋がりがあったんだってな」
「あー……保安部の件ですか? 人聞きの悪い事言いないな。……アラタさん、今日はどしたんです? とげとげしいっちゅーか、なんちゅーか……」

 とげとげしくもなる。
 俺の推測は、外れてるところもあるだろうが大筋はあってるはずだ。
 だがこいつのことを糾弾する気はないんだよ。
 けどその気があると思われても困るしな。

「今政権を握ってるのは誰か分かるか?」
「そら王妃様と皇太子でしょうが。それが」
「その前は?」
「……国王、でっしゃろ? まぁうちらはそれ以前から」
「国王、お前のこと知ってるのか? お前は知ってたか?」
「へ? そらまぁ……」
「国王のことを知っている。そして旗手のことを知っている。そして、お前は俺の身辺調査をした。だよな?」
「身辺調査て……。探偵やないんやから」
「悪かったな。適当な言葉見つからなかっただけだ。お前のことを悪く言ってるつもりはねぇ」

 冗談じゃねぇ。
 言葉を選ぶ気を遣う余裕ねぇんだよ。

「その国王が召喚した旗手の人数、知ってるか?」

 なんでまたそんなことを、と聞き返す反応がうっとおしい。
 最初に会った時は、俺を散々質問攻めにした奴が、質問され続けるのは嫌とでもいうのか。

「六人……あれ? 確か旗手は全員で十四人とか聞きましたな。半分ずつなら七人……」
「その後国王が首都を中心に、一人の人物の手配書を発行したのは知ってるか?」
「噂では聞いてますが、すぐに取り消したとか何とか」
「商人ギルドからも手配書が出されたのは知ってるな?」
「それも噂程度ですな。ただ、そこからゴタゴタが始まったっちゅー話も聞いてますわ」

 やはり……そうだったんだな。

「お前、俺に接近した理由は、俺じゃないな?」
「何か……今日はやたら突っかかりますな。どうしたんです?」
「その二つの手配書、同一人物ということは考えなかったか?」
「はい? 話が見えてこないんですが……ほんま、今日のアラタさん、おかしいでっせ?」

 俺を案ずる気持ちは本心のようだが、隠し事をしているってことも分かる。
 どうやら……俺が今まで感じていた違和感はようやく消えてくれそうだ。

「……俺の思い込みなら謝る。だがお前の今までの言葉に、本心を隠す意図があった」
「な、なんですのん、いきなり! いくらなんでも」
「俺が行商人をする前の事までは知らないよな? 知らないはずだ。知ってたらすべてを察するはずだからな」
「アラタさん、いくらなんでも」

 紅丸の顔が険しくなる。
 だが、少なくとも俺を利用して何かをしようとしてたことは間違いない。
 その何かが、俺に向かって火の粉が飛んでくるようなことだったら、俺の方がもっと不快極まりなしってとこだぞ。

「本船の維持の話を聞いた時、その財源はそんなものでは賄えない。そう思った。他に何か手段があるってな」
「話が飛び飛びですやん。何ゆーてますのん」
「俺の妄想だが、武器商人ってかなり儲かるって話を聞いた。だがお前はそんなものは扱ってないと言っていた。それは偽りなしの言葉だった」
「勝手に人のことを思いこみ」

 思い込みじゃない。
 嘘かどうかの判別は、能力を使えば楽に判断できるんだ。

「だが生活必需品なんかを多くの人に売るってだけじゃ足りないだろう。他に何かどでかい儲けがなきゃ、皇太子だってまともに見たことがないようなでかい船の維持なんかできるはずがない」
「ありませんて」
「……残念ながら、心当たりができちまった。国からの依頼で、犯罪者を収容してるっつってたな」
「そ、それが」
「受刑者が受ける罰は強制労働。まるで、奴隷のような……」
「人聞きの悪い事言わんといてください! アラタさん。あんたとの縁はここまで」
「勝手に切るんじゃねぇ!」

 周りの作業員の注目を浴びてる。
 だが、それがどうした!

「ちょっと、アラタ」
「黙れ、ヨウミ。一刻を争うってのに、こいつがなかなか折れてくれねぇのが悪い」
「わ、わぁしの何が悪いと」
「……俺はこれでも、あんたが納得してくれた上で協力してくれるように話を進めてんだぜ? いきなりこっちの希望を言い出したら、俺の正気を疑うこと間違いないからな」

 狼狽えたり青ざめたりするようなことがないのは、流石大企業を引っ張ってる代表取締役だな。

「灰色の天馬、プリズムスライム、ダークエルフ、ドッペルゲンガー……。この種族名を聞いてどう思う?」
「……珍しい種族、と」
「その珍しい種族を前にした時、何の感動もなく、平然としてたよな? 冒険者達の間でも、レアモンスターの動物園か? みたいに揶揄われるほどなんだが? 大企業の社長なら見慣れてるか? そんなはずはないよな。珍しい種族って口にするほどなんだから」
「……アラタ。それじゃまるで紅丸さん……」
「……あいつらがもし、野良モンスターだったら……珍しいもんのコレクターならどれくらい金を出してくれるかな?」

 ヨウミが両手で口をふさぐ。
 紅丸の片方の眉がびくりと動く。
 間違いないな。
 釣れた。
 気配でも判断できた。

「金を手にするためには、物を誰かに売るのがいい。周りからぼったくりと言われようと、客に正当な額と思ってもらえりゃいい。希少価値が高けりゃ、売る数は少なくても十分だ」
「えらい言いがかりですな。もしそうなら、わぁしをどうする」
「どうするもこうするもねぇよ。俺は警察官でもないし処刑人でもない。こないだ初めてここで携帯電話を手にすることができた、おにぎりを売る商人だよ」
「デンワ?」
「ケーサツ?」

 ヨウミには警察の話をした。
 最初に話をした時は、初めて聞く言葉ということで首を傾げた。
 だから、言葉自体は知っている。
 けど、電話って言葉は声に出していない。
 紅丸もそうだ。
 警察という言葉にキョトンとしている。
 これだけヒントを出しても分からんか。

「電話も警察も、一般的に使われてる言葉だぞ?」
「デンワ……って、通話機のこと?」
「ケーサツ……ってなんや。訳の分からん事」
「そう。お前らこの世界の人間には訳の分からん単語のはずだ。ちなみに警察ってのは、この世界での保安部に当たる」
「この……世界……って……まるでアラタさんが別の」
「別の世界から来た人みたいなことを言うって? 別の世界から来る人ってどんな奴か知ってるか?」
「はぁ? そんな人……っつーより、別の世界なんて……あ、召喚魔法で呼び寄せる魔物は、まぁそうかもしれんけど、人……え? 召喚されてきた人……って」

 ようやく分かったか?
 まったく。
 手順が必要な作業ってのは、実に面倒だ。

「ま、さか……アラタさん……旗手?」
「え? 紅丸さんに、元旗手って話、まだしてなかったの?!」
「な……元旗手、やて?!」

 はい、ようやく正解に辿り着いたようですな。
 だがまだゴールじゃないんだなー。
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