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三波新、定住編

閑話休題:招かれざる客は夜になっても

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 今日は夜になっても、招かれざる客が来る日、なんだな。
 愛想よく挨拶する気にはもうなれない。
 元々するつもりはないが。
 双子の帰宅に付き添った三人がまだ戻ってこないうちに、さらに一人、来訪者が現れた。

「やあ、こんばんは」
「……今度は馬鹿王子かよ」

 日中は母親。
 夜は息子かよ。
 こんな時間に何の用だよ。
 つか、誰もが寝てる時間だとは思わんのか?

「日中は母上が世話になったようだな」
「知らね」
「実は母上から遣われてきたんだ」
「あそ」
「つれないなあ。……アラタは魔力を持ってなかったな?」
「こんな時間に話さなきゃならないことなのか?」

 事情が事情でないなら、俺達はとっくに寝ている時間だ。
 何でまたこんなタイミングで来たのやら。

「母上はみんな……アラタのことは常に気にかけていてな」
「……もういいっつってんだろ。恩着せがましいことは言いたくもないしされたくもないし」
「……魔力のこもった球を渡してくれ、と頼まれた。受け取ってもらいたいんだが」
「球だぁ? 受け取ったって置くとこねぇよ。ころころ転がって行方不明になること間違いないだろうしな」

 だから適当なところに真ん丸な奴を置かれても……って、何だその財布。
 オバチャンが使うような……がま口ってやつだな。

「こいつに入れるといい。これも母上からの贈り物だ」
「贈り物……って……」
「心を持つ生き物以外は何でも入る。取り出したい物を取り出せる異空間パックだ」
「……財布じゃね」
「パックだ」

 何だそのこだわりは。

「流石に球は無限に差し上げられる物じゃないからこれで許してもらえないかと」
「だから許すも何も、どうでもいいって……」
「業火、爆発、流水、氷結、轟雷、地形変動、礫、落石、烈風。それぞれ二個ずつだ。仲間がいなくなって一人きりになっても身を守れるように、だそうだ。効果や範囲は使用者の意思に依る。だから周りへの被害の心配はしなくていい」

 話聞けよ、馬鹿王子っ。
 それとだ。
 この武装集団の中で一番非力な者に、なんて物騒なもん預けるんだよ、あの母ちゃんは。
 つか、一度に一気に言われても覚えてらんねぇぞ?
 まぁ……球の色で大体は分かるけど。

「これらを、アラタに働いた無礼のお詫びに代えさせてほしい、と」
「これでごめんなさいは終わりってことなんだな?」
「母上の謝罪は、な」

 おい、物の言い方。
 それだと何かは終わってないって話になるぞ?

「私からの詫びはまだだしな」
「いらねぇって……」

 いや。
 頼りたいことがあった。
 だが、貸し借りは作りたくない。
 お詫びをしたいというのなら、頼みごとをして、それでチャラにすればいい。
 うん。

「……詫びはいらねぇ。が、その代わり聞きたいことがある」
「私にできることなら何でも」
「魔物の種族、ギョリュウって知ってるか?」
「ギョリュウ族か? 知ってはいるが、それがどうした?」
「飼育……養育する方法を知りたい。教えてくれるのなら、それを詫び代わりにしよう」
「養育? ってことは……」
「懐かれちまった。まぁ事情はいろいろあってな。何を食うかとか、人の言葉喋れるのかとか、その他いろいろ」

 どうした?
 ぽかんとしてるな。
 馬鹿王子の馬鹿っぽい顔。

「アラタ……お前……」
「何だよ」
「そんなにレアな魔物が好きなのか?」
「変な性癖持ってるように聞こえる言い方止めろっ!」

 まったく。
 こっちは真面目に聞いているってのに、何でこう不真面目な反応が返ってくるかな。
 これで皇太子って肩書なのが驚きだ。

「養育、ということは、ここにいるのか? どこだ?」
「……奥でテンちゃんが寝てる。その腹の上だよ」
「薄暗くて分からんな。お邪魔……」
「するな!」

 そっちは仲間意識があるんだろうが、こっちにゃ全然ないからよ。
 けど百聞は一見に如かずだ。
 見てもらった方が早い。
 洞窟の入り口は月明かりに照らされてるからある程度明るいが、中は暗い。
 足音を忍ばせてみんなに気付かれないようにサミーを抱っこしないとな。
 で洞窟の入り口に戻る。

「……おい、大きな声出すなよ?」
「ん? そりゃもちろん」

 って、これ、大きな声を出すフラグだよな。
 予め説明しとくか。

「今は寝てるが、一見猫だ。だが親はエイ。こいつ……サミーの体型もエイだがな」
「体毛が生えてるのか? 馬鹿な」

 馬鹿はお前とテンちゃんで腹いっぱいなんだよ。
 なんでさらに馬鹿が増えたかな。

「鳴き声も猫。ただし両腕は親と同じようにカニのハサミを持っている。もちろん親に体毛はない。ハサミがなきゃ巨大なエイだった」
「お、おう。で、実物はそれか」
「声、出すなよ?」

 ゆっくりとサミーの体をこいつの前に見せる。
 サミーを見たこいつの目がだんだん大きくなっていくくのが分かる。
 間違いなく驚いてる。
 釘を刺してなきゃ大声を出してたんじゃないか?

「こ……こんなのは初めて見るな……。ましてや成竜じゃなく、子供、というのも……。あ、あぁ、分かった。もういい。寝かせてやってくれ」

 意外と良識あるじゃないか。
 それをなぜ俺の方にも向けないんだ。
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