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三波新、定住編
ある日森の中卵に出会った その10
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おにぎりの店に、まだ客足は戻らない。
だが、それが丁度良かった。
まぁ、卵を返す言い出しっぺは俺。
だから納得はしてるんだが……。
卵を返しに行ったはずなのに、結果は卵を孵す役目になった。
「いいじゃない。もし冒険者達がきても、アラタはその子達の護衛はできないんだからさ」
ぐうの音も出ない。
貯蔵庫があるから、朝起きてすぐにミアーノとンーゴの三食分を一気に作り置きをする。
あとは卵を観察しながら、合間を見てさらにおにぎりを作る。
「おう、元気かー? ゴーアがお姉ちゃんの様子を見に行きたいっつーから連れて来たぜ」
「嘘つけ。ギョリュウの赤ちゃんが生まれるところ見たいだけだろうがよ」
俺達が卵を持ち帰った次の日の昼過ぎ。
ドーセンがクリマーの弟のゴーアと一緒に、泉現象の時以来ぶりにやってきた。
あの時は非常事態だった。
つまり、通常時では初めての事。
間違いなく野次馬根性だな。
「それと、またうちの米の選別頼みに来た」
手が空いた時、ドーセンのとこに行って、山ほど積まれてある米袋を一つずつ開けて仕分けしていく。
それがそろそろ尽きる頃ってことか。
手前でやれよ、と言いたくなるが、それをできるのは俺しかいない。
まぁしょうがない。
けど、本命は卵の雛見にきただけなんだろうが。
「どんな奴が生まれるのか、話を聞いたらそりゃ気になるわな。だが、お前のことも気になったのは確かだな」
「あぁん?」
卵の相談をしに行った手前、ただいまの挨拶はしなきゃ、という話が出たのは昨夜。
ミアーノとンーゴがアラタに仲間入りして、部屋割りとか仕事の担当とかを決めてるうちに晩飯を食い損ねた。
だからその挨拶を兼ねての朝飯を食いに行った。
俺はドーセンに挨拶して卵を持ち帰ったことと俺が孵すことにしたことだけを報告したんだが、他の連中がその顛末を聞かせたらしい。
「それを聞いて俺もお前にいろいろ言いたくなる気持ちもあるが、俺はお前のかーちゃんじゃねぇからな。それにさんざん言われたんだろ? ま、一つだけ言わせてもらえば、無理してでも自分にできねぇことはできねぇもんだ。できねぇことはやろうとすんな。誰かに押し付けちまえ。そんくれぇだ」
「ふん」
ドーセンが持ってきた米袋は二つ。
選ばれし米粒は一袋分あるかどうか。
尽きたというなら、その作業をすぐにでも始めた方がいいな。
そうすりゃとっとと追い出すこともできる。
が……。
目の前に転がっている卵が、触らなくてもころっ、ころっ、と動くことがある。
雛が卵を内側から割ろうとしてるんだろうか。
「へぇ、卵、動くようになったじゃねぇか」
「あぁ。昨日の夜からだな」
「でも……厚めに敷いた藁の上に置くだけでいいのか?」
「温めなくてもいいんだとさ。ギョリュウの奴、巣はでけぇ岩を集めて巣にしてた。
「なんじゃそりゃ。大雑把だなぁ」
ドーセンの反応はどうでもいいや。
まずは米袋。
それと、選別用の袋をドーセンから受け取った。
「ススキモドキから良い米を採るのは楽なんだよ。一度にたくさんの米粒見せられて選別してくれってのは、作業を始める時は流石にうんざりするな」
「だがいつかは終わるだろ。それに選別してもらってから、ほんとに評判が良くなってな」
宿屋の評判なんぞ、こっちはそこまでは知らねぇよ。
「村人の連中も食いに来ることが多くなってな」
「へぇ、そうかい。って、儲けが出る程村人がいるのか」
「おい」
そう言えば、この村の人達とはまだ会ったことはなかった。
この洞窟自体、村の居住区の一番外れだし、村人の職場は宿屋と道路を隔てた向かい側。
村の人口の半分以上はそこで働いているらしい。
人数は三桁という話は聞いたが詳しくは聞く気なかったな。
「で、みんなは?」
「おやっさんのとこにいただろ」
「ヨウミちゃんとクリマーさんとライムはまだいたな。村の連中がみんな店を出た後お前らが来ただろ? ずっと駄弁ってるよ」
「冒険者の連中の足が遠ざかってるからな。んじゃあとはそれぞれのとこにいるだろ。モーナーは穴掘り。テンちゃんとマッキーとミアーノとンーゴはフィールド……」
「その新入りの一人なんだけどよ。俺、まだ見てねぇよな?」
ンーゴのことだな。
見世物にする気はないが?
「でかいんだよ。それに……ミミズのバケモノとしか言いようがないぞ? 力強いし丈夫だし、店に連れてったら間違いなく壊れる」
「そ、そうなのか……。モグラの獣人ってのも珍しかったから、もう一人ってのもそんな感じかなってよ。しかし、ほんと、アラタんとこには珍しい種族が寄りついてんな」
まぁ……。
珍しいかどうかなんてわかんないんだよな。
この世界の住人になるつもりだが、精通してるわけじゃないしな。
「ワーム種っつったっけか。さらに、このギョリュウだろ? どこまででかくなるのかね」
「え?」
「ん?」
……考えてなかった。
あの親と同じくらい大きくなるのか?
……人に懐いてくれてもさ、悪気なく宿屋壊しかねないぞ?
そうなったら……俺、知らねぇぞ……。
だが、それが丁度良かった。
まぁ、卵を返す言い出しっぺは俺。
だから納得はしてるんだが……。
卵を返しに行ったはずなのに、結果は卵を孵す役目になった。
「いいじゃない。もし冒険者達がきても、アラタはその子達の護衛はできないんだからさ」
ぐうの音も出ない。
貯蔵庫があるから、朝起きてすぐにミアーノとンーゴの三食分を一気に作り置きをする。
あとは卵を観察しながら、合間を見てさらにおにぎりを作る。
「おう、元気かー? ゴーアがお姉ちゃんの様子を見に行きたいっつーから連れて来たぜ」
「嘘つけ。ギョリュウの赤ちゃんが生まれるところ見たいだけだろうがよ」
俺達が卵を持ち帰った次の日の昼過ぎ。
ドーセンがクリマーの弟のゴーアと一緒に、泉現象の時以来ぶりにやってきた。
あの時は非常事態だった。
つまり、通常時では初めての事。
間違いなく野次馬根性だな。
「それと、またうちの米の選別頼みに来た」
手が空いた時、ドーセンのとこに行って、山ほど積まれてある米袋を一つずつ開けて仕分けしていく。
それがそろそろ尽きる頃ってことか。
手前でやれよ、と言いたくなるが、それをできるのは俺しかいない。
まぁしょうがない。
けど、本命は卵の雛見にきただけなんだろうが。
「どんな奴が生まれるのか、話を聞いたらそりゃ気になるわな。だが、お前のことも気になったのは確かだな」
「あぁん?」
卵の相談をしに行った手前、ただいまの挨拶はしなきゃ、という話が出たのは昨夜。
ミアーノとンーゴがアラタに仲間入りして、部屋割りとか仕事の担当とかを決めてるうちに晩飯を食い損ねた。
だからその挨拶を兼ねての朝飯を食いに行った。
俺はドーセンに挨拶して卵を持ち帰ったことと俺が孵すことにしたことだけを報告したんだが、他の連中がその顛末を聞かせたらしい。
「それを聞いて俺もお前にいろいろ言いたくなる気持ちもあるが、俺はお前のかーちゃんじゃねぇからな。それにさんざん言われたんだろ? ま、一つだけ言わせてもらえば、無理してでも自分にできねぇことはできねぇもんだ。できねぇことはやろうとすんな。誰かに押し付けちまえ。そんくれぇだ」
「ふん」
ドーセンが持ってきた米袋は二つ。
選ばれし米粒は一袋分あるかどうか。
尽きたというなら、その作業をすぐにでも始めた方がいいな。
そうすりゃとっとと追い出すこともできる。
が……。
目の前に転がっている卵が、触らなくてもころっ、ころっ、と動くことがある。
雛が卵を内側から割ろうとしてるんだろうか。
「へぇ、卵、動くようになったじゃねぇか」
「あぁ。昨日の夜からだな」
「でも……厚めに敷いた藁の上に置くだけでいいのか?」
「温めなくてもいいんだとさ。ギョリュウの奴、巣はでけぇ岩を集めて巣にしてた。
「なんじゃそりゃ。大雑把だなぁ」
ドーセンの反応はどうでもいいや。
まずは米袋。
それと、選別用の袋をドーセンから受け取った。
「ススキモドキから良い米を採るのは楽なんだよ。一度にたくさんの米粒見せられて選別してくれってのは、作業を始める時は流石にうんざりするな」
「だがいつかは終わるだろ。それに選別してもらってから、ほんとに評判が良くなってな」
宿屋の評判なんぞ、こっちはそこまでは知らねぇよ。
「村人の連中も食いに来ることが多くなってな」
「へぇ、そうかい。って、儲けが出る程村人がいるのか」
「おい」
そう言えば、この村の人達とはまだ会ったことはなかった。
この洞窟自体、村の居住区の一番外れだし、村人の職場は宿屋と道路を隔てた向かい側。
村の人口の半分以上はそこで働いているらしい。
人数は三桁という話は聞いたが詳しくは聞く気なかったな。
「で、みんなは?」
「おやっさんのとこにいただろ」
「ヨウミちゃんとクリマーさんとライムはまだいたな。村の連中がみんな店を出た後お前らが来ただろ? ずっと駄弁ってるよ」
「冒険者の連中の足が遠ざかってるからな。んじゃあとはそれぞれのとこにいるだろ。モーナーは穴掘り。テンちゃんとマッキーとミアーノとンーゴはフィールド……」
「その新入りの一人なんだけどよ。俺、まだ見てねぇよな?」
ンーゴのことだな。
見世物にする気はないが?
「でかいんだよ。それに……ミミズのバケモノとしか言いようがないぞ? 力強いし丈夫だし、店に連れてったら間違いなく壊れる」
「そ、そうなのか……。モグラの獣人ってのも珍しかったから、もう一人ってのもそんな感じかなってよ。しかし、ほんと、アラタんとこには珍しい種族が寄りついてんな」
まぁ……。
珍しいかどうかなんてわかんないんだよな。
この世界の住人になるつもりだが、精通してるわけじゃないしな。
「ワーム種っつったっけか。さらに、このギョリュウだろ? どこまででかくなるのかね」
「え?」
「ん?」
……考えてなかった。
あの親と同じくらい大きくなるのか?
……人に懐いてくれてもさ、悪気なく宿屋壊しかねないぞ?
そうなったら……俺、知らねぇぞ……。
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