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三波新、定住編
ある日森の中卵に出会った その3
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「ということで、卵を孵すために卵を返しに行くことにする」
「何が何だか分からない……」
「だから、魔物の卵が転がってたの! それを親の元に帰しに行くの!」
洞窟に行ったん立ち寄る。
ひょっとしたらライムとマッキーが戻ってるかもしれないから。
だがそこにいたのは、留守番組のヨウミとクリマーだけだった。
そこで森の現状を報告し、ドーセンから得た情報を伝える。
親は村に危害を加える可能性はまずない。
が、放置された卵が万一孵って、そいつがその辺りを縄張りにしたら、村は間違いなく危険な区域になるかもしれない。
「魔物を扱う業者って……」
「その業者、誰に売るんだ? 冒険者も店も、手伝ってもらうために魔物を飼うこと自体禁止の条例が出た後情報錯綜してるだろ」
だから中堅冒険者が引退して、復帰数もゼロのまま。
俺を何とかしようとした結果らしいが、よく分からん。
「うちらで引き取ったら?」
「親が取り返しに来たらどうする」
どでかい魔物に暴れられても困る。
この世界を破壊するってんなら何としてでも阻止しなきゃならんが、個人的感情で俺達だけを攻撃するとなると、俺達のその行動自体が間違いってことになる。
「で、でも、森の中、山の方に進むと危険って……。親元に帰すんじゃなくて、魔物の領域内に放り込んどく、じゃだめなの?」
「生きてんだよ。一人じゃ生きられない命が、その中で生きてんだよ」
捨てられることを前提に生まれた命。
獲られて食われた後なら、俺達の目にも止まらなかったし気にすることもなかった。
ないもの同然だっただろうからな。
けど、現実として、その命は獲られることなく存在している。
人情としては、やっぱり生まれた場所に戻してやりたい。
「生まれるかもしれない命なら、親に育ててもらうのが一番だろうに。いや、親でなくても、生まれた瞬間から見守られ続けた者に育ててもらうのが一番いいんだ。俺は……」
……くそっ。
三十過ぎて、いつまで根に持ってやがる。
けどな。
こうあってほしかったっていう自分の理想を誰もが持ってて、しかも誰にも当てはまることなら……。
それは、俺のエゴじゃない。
正しい倫理観だと思うんだ。
間違った倫理観に押しつぶされそうな理想論もある。
そんな現実も俺には付きまとってた。
何で俺だけ辛い目に遭って、あの卵はこんなにも気に留められて心配されなきゃいけない?
そんな嫉妬心もないこともない。
けどそんな気持ちなんざ簡単に吹き飛ばせる。
だってこの世界は……。
「俺のことを、いい奴だって言ってくれた人が住んでいる世界だからな」
「え?」
……思わず口に出ちまった。
「何? 何か言った?」
「よく聞こえなかった。なんて言ったの?」
ヨウミにもクリマーにも聞こえてなかったようだ。
うん。
何でもねぇよ。
「……親元に返しに行ってくる。細心の注意を払い、退路を囲まれるようなヘマもしない」
「人の言葉理解できる魔物なんて珍しいよ? 本当の魔物ってば、ライムとテンちゃんくらいなんだからね?」
「そのライムは同行してもらう。通訳的な意味でな。あとは……志半ばに超特急で引き返すためにもテンちゃんは必要だな」
「……もう出発する算段立ててるし……。相談しに来たんじゃなかったの?」
誰もそんなことをするつもりはなかったが?
「私の能力も役に立ちそうにないし。本物と見分けがつかない変身能力は高いけど、気配はまるで違うし必ず同じ能力を持つわけじゃないしね」
「モーナーも屋外には不向きだ。頑丈だが、あいつを犠牲にして逃げるなんて考えたくもない」
動きが遅いから、急いで逃げても真っ先に捕まっちまう。
血も涙もない上司ならモーナーを囮にする作戦を立てることはできるだろうが、俺は即却下。
「マッキーは森林での活動得意そうだし……そのままの面子で行くのね?」
「でも……帰りはいつになるの?」
クリマーの心遣いが新鮮で心に染みるっ。
ヨウミはもうすっかり俺にスレてしまったようだ。
誰がお前を、こんな風にやさぐれてしまったんだ……。
いや、俺の嘆きはおいといて。
「気配の範囲とか考えると……最短で三日か? 俺のその範囲は、調子のいい時は最大歩いて三時間くらいかな?」
平坦な道ならもっと短いだろう。
だが足場が悪い。
斜面が多い。
見通しが悪い。
慎重に進む。
これらがその時間を引き延ばす。
それでも行かなきゃならない理由に、親に育てられるのが一番だというのは含まれない。
行きたい理由ではあるが。
何より、村にあらゆる危険を及ぼさないように予防するってのが一番の理由だ。
そして卵の存在を知っているのは俺達だけ。
その責任者とあらば、率先して動かなきゃならんだろ。
俺が住んでた世界では、責任者だからこそ安全圏に常に身を置くって奴が多すぎる。
そして仕事を他人に押し付けて、ミスはそいつのせいにして、手柄は自分のものにする。
冗談じゃねぇ!
そんな奴と一緒にすんな!
……それも俺が行かなきゃならない理由じゃなくて、俺が行きたい理由かもしれない。
でもそんな理想の姿になるのも必要なんじゃないか?
ま、こいつらにそんな説明を一からするのも面倒だ。
「一応おにぎりを持てるだけ持って行くわ。で、そうだな……五日で戻ることにしよう。それがオーバーしそうで、巣を見つけられなかった時は……残念だがその辺りで放置するか。卵狙いの魔物がついて来ないとも限らないしな」
「……でも、アラタがそんな危険なことをしなきゃならない理由は」
言うな。
議論が堂々巡りするだけだ。
それに気配を察知する能力がある。
これがあるだけでも、危険度はかなり下がる。
なんせ、コミュニケーションがとれそうにない相手かどうかも判断できるかもしれないしな。
「変に引き留めるより、いろんなトラブルを想定して、切り抜ける対策を用意させた方が建設的よ? ヨウミ」
「う……まぁ……そうなんだけどさ……」
「ということでしばらくここを留守にする。モーナーにも伝えといてくれ」
「うー……。分かった。早めに帰ってきてね?」
言われなくたってそのつもりだ。
いくら巣に帰したいっつっても、何が何でもそこに辿り着かなきゃって考えは持っちゃいない。
俺の能力にうぬぼれるつもりはないからな。
「何が何だか分からない……」
「だから、魔物の卵が転がってたの! それを親の元に帰しに行くの!」
洞窟に行ったん立ち寄る。
ひょっとしたらライムとマッキーが戻ってるかもしれないから。
だがそこにいたのは、留守番組のヨウミとクリマーだけだった。
そこで森の現状を報告し、ドーセンから得た情報を伝える。
親は村に危害を加える可能性はまずない。
が、放置された卵が万一孵って、そいつがその辺りを縄張りにしたら、村は間違いなく危険な区域になるかもしれない。
「魔物を扱う業者って……」
「その業者、誰に売るんだ? 冒険者も店も、手伝ってもらうために魔物を飼うこと自体禁止の条例が出た後情報錯綜してるだろ」
だから中堅冒険者が引退して、復帰数もゼロのまま。
俺を何とかしようとした結果らしいが、よく分からん。
「うちらで引き取ったら?」
「親が取り返しに来たらどうする」
どでかい魔物に暴れられても困る。
この世界を破壊するってんなら何としてでも阻止しなきゃならんが、個人的感情で俺達だけを攻撃するとなると、俺達のその行動自体が間違いってことになる。
「で、でも、森の中、山の方に進むと危険って……。親元に帰すんじゃなくて、魔物の領域内に放り込んどく、じゃだめなの?」
「生きてんだよ。一人じゃ生きられない命が、その中で生きてんだよ」
捨てられることを前提に生まれた命。
獲られて食われた後なら、俺達の目にも止まらなかったし気にすることもなかった。
ないもの同然だっただろうからな。
けど、現実として、その命は獲られることなく存在している。
人情としては、やっぱり生まれた場所に戻してやりたい。
「生まれるかもしれない命なら、親に育ててもらうのが一番だろうに。いや、親でなくても、生まれた瞬間から見守られ続けた者に育ててもらうのが一番いいんだ。俺は……」
……くそっ。
三十過ぎて、いつまで根に持ってやがる。
けどな。
こうあってほしかったっていう自分の理想を誰もが持ってて、しかも誰にも当てはまることなら……。
それは、俺のエゴじゃない。
正しい倫理観だと思うんだ。
間違った倫理観に押しつぶされそうな理想論もある。
そんな現実も俺には付きまとってた。
何で俺だけ辛い目に遭って、あの卵はこんなにも気に留められて心配されなきゃいけない?
そんな嫉妬心もないこともない。
けどそんな気持ちなんざ簡単に吹き飛ばせる。
だってこの世界は……。
「俺のことを、いい奴だって言ってくれた人が住んでいる世界だからな」
「え?」
……思わず口に出ちまった。
「何? 何か言った?」
「よく聞こえなかった。なんて言ったの?」
ヨウミにもクリマーにも聞こえてなかったようだ。
うん。
何でもねぇよ。
「……親元に返しに行ってくる。細心の注意を払い、退路を囲まれるようなヘマもしない」
「人の言葉理解できる魔物なんて珍しいよ? 本当の魔物ってば、ライムとテンちゃんくらいなんだからね?」
「そのライムは同行してもらう。通訳的な意味でな。あとは……志半ばに超特急で引き返すためにもテンちゃんは必要だな」
「……もう出発する算段立ててるし……。相談しに来たんじゃなかったの?」
誰もそんなことをするつもりはなかったが?
「私の能力も役に立ちそうにないし。本物と見分けがつかない変身能力は高いけど、気配はまるで違うし必ず同じ能力を持つわけじゃないしね」
「モーナーも屋外には不向きだ。頑丈だが、あいつを犠牲にして逃げるなんて考えたくもない」
動きが遅いから、急いで逃げても真っ先に捕まっちまう。
血も涙もない上司ならモーナーを囮にする作戦を立てることはできるだろうが、俺は即却下。
「マッキーは森林での活動得意そうだし……そのままの面子で行くのね?」
「でも……帰りはいつになるの?」
クリマーの心遣いが新鮮で心に染みるっ。
ヨウミはもうすっかり俺にスレてしまったようだ。
誰がお前を、こんな風にやさぐれてしまったんだ……。
いや、俺の嘆きはおいといて。
「気配の範囲とか考えると……最短で三日か? 俺のその範囲は、調子のいい時は最大歩いて三時間くらいかな?」
平坦な道ならもっと短いだろう。
だが足場が悪い。
斜面が多い。
見通しが悪い。
慎重に進む。
これらがその時間を引き延ばす。
それでも行かなきゃならない理由に、親に育てられるのが一番だというのは含まれない。
行きたい理由ではあるが。
何より、村にあらゆる危険を及ぼさないように予防するってのが一番の理由だ。
そして卵の存在を知っているのは俺達だけ。
その責任者とあらば、率先して動かなきゃならんだろ。
俺が住んでた世界では、責任者だからこそ安全圏に常に身を置くって奴が多すぎる。
そして仕事を他人に押し付けて、ミスはそいつのせいにして、手柄は自分のものにする。
冗談じゃねぇ!
そんな奴と一緒にすんな!
……それも俺が行かなきゃならない理由じゃなくて、俺が行きたい理由かもしれない。
でもそんな理想の姿になるのも必要なんじゃないか?
ま、こいつらにそんな説明を一からするのも面倒だ。
「一応おにぎりを持てるだけ持って行くわ。で、そうだな……五日で戻ることにしよう。それがオーバーしそうで、巣を見つけられなかった時は……残念だがその辺りで放置するか。卵狙いの魔物がついて来ないとも限らないしな」
「……でも、アラタがそんな危険なことをしなきゃならない理由は」
言うな。
議論が堂々巡りするだけだ。
それに気配を察知する能力がある。
これがあるだけでも、危険度はかなり下がる。
なんせ、コミュニケーションがとれそうにない相手かどうかも判断できるかもしれないしな。
「変に引き留めるより、いろんなトラブルを想定して、切り抜ける対策を用意させた方が建設的よ? ヨウミ」
「う……まぁ……そうなんだけどさ……」
「ということでしばらくここを留守にする。モーナーにも伝えといてくれ」
「うー……。分かった。早めに帰ってきてね?」
言われなくたってそのつもりだ。
いくら巣に帰したいっつっても、何が何でもそこに辿り着かなきゃって考えは持っちゃいない。
俺の能力にうぬぼれるつもりはないからな。
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