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三波新、定住編

アラタの店の、アラタな問題 あたしが洞窟で目覚めたら

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「ん……んん……」
「お、起きたかあ? テンちゃあん」
「あ……モーナー……。あ、こ、ここは?! モーナーは大丈……痛っ!」
「落ち着けえ。無理すんなあ」

 目が覚めた。
 見覚えがない石造りの部屋。
 ここはどこだろう。
 何となく見覚えがある。

「ここ、ヨウミの部屋だあ。テンちゃんはあ、体大きいからあ、ベッドに寝せられなくてえ、石畳が痛いだろうけどお」

 あぁ。
 だから見覚えのないベッドがあったのか。
 って言うか、人間の部屋に入ったの、初めてのような気がする。

「痛た……。体中が、何か痛いんだけど……」
「そりゃあしょうがねえぞお。三日も寝込んでたからなあ」
「三日?! 痛たっ」

 痛いのは全身。
 筋肉痛みたい。
 でも足は全部普通に動く。
 確か、左の後ろ足が……。
 って、それどころじゃない!

「み、みんな、どうなったの?!」
「なんだあ? 覚えてないのかあ?」
「え? な、何を?」
「一番ひどい傷を負ってたのはあ、テンちゃんだったんだぞお。次にアラタあ。あとは無傷だったぞお」
「……子供達は? そうだ! ゴーレムは!」
「アラタがあ、ダンジョンに来てくれた時に倒したぞお」
「アラタが? アラタが来てくれたの?!」

 覚えてない。
 けど、そうだ。
 モーナーに、自分の足を食べてくれって懇願したのは……覚えてる……。
 その足が、普通に動く。

「あ、あたし……、モーナーに……」

 そうだ。
 あの時のこと。
 巨人族の特性の話は、他の種族の話と共に、小さい頃に聞いたことがある。

「……あたしの足……普通に……動く……」
「骨え、折れてたっぽかったけどお、くっ付いたままだったからあ、固定しただけで治ったぞお」
「……あの……あたし……」
「テンちゃんはあ、ひどいぞお」
「え?」

 やはり、赦してはいないんだ。
 赦されてはいないんだ。

「巨人族はあ、確かにい、魔物を生きたまま食うとお、暴れやすくなるって聞いたけどお、俺はあ、人の種族混ざってるからあ、巨人族よりもお、暴れることないんだぞお」
「え?」

 じゃあもしあの時、モーナーがあたしの足を食べてたら……。

「それでもお、テンちゃんの足とかあ食べてたらあ、逃げることはできてたと思うけどお」

 ……あたしの指示は間違っちゃいなかったってことだよね?

「そんな野蛮じゃないからあ」

 ……何と言うか。
 誤解してたってことよね。
 それは、それはまぁ、怒られても仕方がないか。

「……ごめん、なさい」
「それとお、あの黒っぽい子はあ、みんなと一緒だと思うぞお。昨日からあ、宿で泊まってるう」

 あの子達が無事なら……。
 いや、ゴーレムは……?
 ゴーレムが地上に出てきたらまずいじゃない!

「三体のゴーレムは!」
「一体はあ、俺とテンちゃんとでやっつけてえ、一体はあ、岩盤に押しつぶされてえ、一体はあ、アラタが斃してくれたぞお」

 あ……そういえば、ライムがアラタを包んで、あたしを助けてくれたこともあったっけ……。
 そうだ。
 あのとき確か、アラタに助けを……。
 来て……くれたんだ……。
 ホントに……アラタは……。

「んー? どっか痛いのかあ?」
「グスッ……。う、ううん、平気……。って、アラタは? アラタは大丈夫なの?!」
「アラタはあ、自分の部屋でえ、すやすや寝てるぞお。ヨウミとお、マッキーとお、ライムで看病中う」

 寝てる……。
 寝てるだけ、なら、怪我はしてないんだね。
 良かった……。

「でもなあ、テンちゃあん」
「ん? な、何?」
「ひょっとしたらあ、あの時い、テンちゃんの足食べたらあ、みんな助けられたかもしれなかったけどお」
「う、うん」
「そんときはあ、テンちゃんの足い、ずっと五本だったぞお」

 そりゃ、そうでしょ。

「みんな助かってえ、それでいいかもしれないけどお、俺のせいでえ、足を失ったままってのはあ、やっぱり悲しいぞお」

 それは違う。
 足を失うことも、あたしの罰だ。

「でも……それは……」
「それにテンちゃんはあ、俺を助けてくれたぞお」
「助けた?」

 助けたこと、あったかな?
 ゴーレムを一体倒したのは思い出した。
 モーナーが吹っ飛ばして、こっちに来たゴーレムにカウンターの蹴りを当てたのを。

「助けてくれたぞお。それでアラタがやってきたんだろお?」
「え?」
「岩の向こうでも聞こえたぞお。アラタ、助けてってえ」
「あ……」

 あの時、あたしは……。
 それしか考えられなかった。
 ただの人間だけど。
 ただの人間に、ちょっとだけ特別な力がついてるだけだけど。
 それでも助けに来てくれるって。
 来るはずなんかない、来れるはずのないただの人間が。
 なのに、来てくれるって、思ってしまった。

「俺はあ、アラタが来るなんてえ、思ってもみなかったぞお。でもお、テンちゃんが呼んでくれたんだぞお」
「そ、そんなわけないじゃない! あたしが呼んで、すぐに来たのよ? 地下十一階に。どんなに急いでもそんな短時間で来るわけが」
「でもお、アラタを呼ぶことを考えたのはあ、テンちゃんだけだったぞお。呼ぶ前に来たくれたかあ、呼んだ後に来てくれたかはあ、問題じゃないぞお」

 そ、それは違うんじゃない?
 私は……。

「それにい、薄暗い中をお、真っすぐ来てくれたっぽかったぞお」

 そう言えば、あたしのところに真っ先に駆け付けてくれたって感じだった。
 ライムも一緒とは言え……。

「テンちゃんの声があ、居場所を知らせたんだあ。それ以外にい、俺達の所にい、来る手掛かりはあ、アラタにはないぞお。だってえ、あの時初めて地下に入っただろお」

 そう言えばそうだ。
 地下に潜ったことがないのは、アラタとヨウミだけだった。
 さらに下に潜るには、その構造を知らなきゃすぐには駆け付けられない。
 行ったことのない場所に行くことを、意外と慎重派のあの人だったら普通なら思いつかないはずだ。
 行こうと決める理由がなければ。
 その理由は……先に逃げた子供達か。
 でも詳しい状況はそれだけじゃ分からなかったはず。
 となると、アラタが地下に潜ることを決めたのは、おそらく二組目の子供達が地上に出てから。
 そんな短時間で、地図も持ってない、行ったことのない場所に行って、私達の場所に辿り着くには……。

「だからあ……テンちゃあん」
「……何、かしら……」
「ありがとうだぞお。助けてくれてえ、助けを呼んでくれてえ、そしてえ……」

 涙が、止まらない。
 手の代わりの羽根で拭えるけど……。
 泣いてるのをどうやっても誤魔化せなくなる……。

「助けてくれてえ、ありがとう、だぞお」
「うぅ……」
「テンちゃあん」
「な、何……?」

 喉がひくついて、言葉が上手く出てこない。
 これ以上、何を言うの?

「悪いことをしたらあ、ごめんなさい、だぞお」
「う、うん」
「けどお、テンちゃんはあ、悪いことをしたと分かってえ、すぐにごめんなさい言ってたぞお」
「え……」

 あの時、か。
 何でそれを今頃。

「悪いことをしてえ、すぐにごめんなさいって言う奴はあ、いい奴なんだぞお」
「うぅ……」
「そんな奴があ、今度は俺を助けてくれたんだぞお。だからあ、テンちゃんはあ、いい奴なんだぞお」
「う……ぅぇぇ……」
「でテンちゃんはあ、俺とお、あの子をお、助けてくれたんだぞお。してくれてうれしかったからあ、ありがとうって言ったんだぞお」
「う……うん……」
「自分の足のことよりい、俺とあの子のことを助けようとしたんだぞお。で、俺はあ、アラタのお、仲間なんだぞお。テンちゃんもアラタの仲間だよなあ?」

 ごめん。
 もう、言葉が出てこない。
 何か言おうとすると、泣き声しか出てこないから。

「だからあ、俺はあ、テンちゃんの仲間だぞお。テンちゃんもお、俺を仲間にしてほしいんだぞお」
「う、うん……な、かま……なって……くれる……の……?」

 うぐっ!
 も、モーナー?
 抱きつかれたっ。
 な、何?

「テンちゃんと俺え、仲間だぞお!」
「?!」

 息が止まった。
 そして息ができたと思ったら……。

「う……うわあああん! モーナあ! あり……」
「うん……うん」
「あり、がとおおぉ! うえぇぇん!」
「仲間、だぞお」
「テンちゃん! どうした……の……って……。何これ……」

 マッキーが部屋に飛び込んできた。
 そりゃ驚くよね。
 でも、今、マッキーのこと気に留めてる暇、ないんだ。
 泣くことしかできなかったから。

 でも、すまないって思ってる。
 ずっと大声で泣いちゃったから、そのせいでアラタを無理やり起こしちゃったぽかったから。
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