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三波新、放浪編

ここも日本大王国(仮) その11

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 この皇太子の告白は、マッキーが加入する前から始まった。

「母がアラタに会いに行ったのは覚えているか?」

 唐突だな、おい。
 流石にそれは覚えている。

「母って……王妃様のことか?! アラタ! お前一体何者なんだよ!」
「異世界から来たって話は聞いてはいるが……」
「アラタさんって、異世界から来た人なの?!」

 いろいろとな、感情ぶちまけられるとな……。

「お前ら、うっとおしいわ! とりあえず話を聞いてやれよ! ……しなくてもいいけど」
「アラタぁ……そーゆーのやめてよ。めんどくさいから」

 ヨウミから突っ込まれてしまった。
 大人しくしなきゃならんのは俺もらしい。

「その後、旗手の数名と会わなかったか?」

 えーと……確か芦名とこの世界で初めて会った時のことだな。
 確か……まだテンちゃんとライムが同行してた時。
 いや、待て。
 あの時は確か……。

「数名? 旗手全員と遭遇したが? 雨が続いて洞窟で休んでた時だった気がする」
「となると、アラタ殿とは会わなかったのか。町の外で荷車の番をしていた灰色の天馬とスライムの二体と会ったと言っていた」

 え?
 ということはその前。
 俺がヨウミと一緒にどこかの町で買い物したことがあったな。
 確かその前は三日くらい寝込んで、目が覚めてから王妃との面会だった。
 そして買い物に付き合って町の中を……。
 思い出した!
 あの時、一瞬変な気配を感じた。
 芦名とニアミスしてたのか!
 てことは……。

「あいつらはあの時、芦名と接触してていた?」
「そう。そして、詳しい会話は聞かせてもらえなかったが、その魔物を唆すようなことを話したそうだ」

 唆す……。
 それで、戻ってきた時のあいつらの様子が、ずっとどこかおかしかったのか。

「アシナ殿は伝達の旗手。言葉の通じない相手との意思疎通ができ、優位な立場だと何の縁もない魔物相手にも命ずることができる」

 マジか。
 何か言われて、その影響で俺達と別れたがった様子が見えたのか。
 めんどくせぇな。
 なら、マッキーとか……ヨウミにだって影響を及ぼしかねない。

「そんな……。あ、あたしは絶対そんなことにはならないからねっ!」
「アラタには、ある意味命を救ってもらった。それを越える恩人などいやしない。あたしだって……!」

 待て。
 ということは……。

「じゃあ芦名がここに来た時に一緒に来た魔物は……」
「察しの通り。アラタ殿と行動を共にしてきた者達だ」
「あ、テンちゃんとライム……」

 洞窟の入り口に影が見えた。
 ヨウミがそれに真っ先に反応した。
 唆されたとはいえ、どういうつもりなのか。
 いや、どういう状態なのかさっぱりわからん。
 あいつ、ここに来てからは一言も発していなかったんだよな。
 なんか怒ってるし。

「う……」
「う?」

 しかも、なんか唸ってるし。
 と思ったら……。

「うわっ」
「ちょっ!」

 推測体重四百キロを超える体が、俺に向かって突進してきた。
 モーナーはあばらと腕の骨折で済んだが、俺は命を持ってかれる!
 しかも避ける暇もないっ。
 誰もあいつを止めてくれない。
 と思ったら。

「うおぉぉ……お?」

 俺のところに駆け寄って、鼻面を俺の体にこすりつけに来ただけだった。
 背中から上に跳ねて俺の頭の上に乗っかるスライム。
 なんなんだよこいつら。

「う……うわーーーん!」
「うるせえぇぇぇ!」

 今度は号泣し始めた。
 何なんだよ、これ。

「……いろいろと事情が複雑に絡み合ったようで、その天馬はどうやら強烈な嫉妬を感じているようだよ」

 すました顔で解説してんじゃねえよ、皇太子!
 鼻水擦り付けられてるよ!
 引き離せよ!

「だってっ……、だってあたし達のこと、一回も仲間だって言ってくんなかったもん!」
「あ?」

 何なんだよ、この天馬!
 どうでもいいだろ、そんなこと!
 いいから離れろよ!

「そのおっきな人には仲間って言ってた! あたし達にはそんなこと一回も言ってくんなかった!」
「テンちゃん……」

 こいつの言うことにしんみりするより、こいつを引き離せよ、ヨウミ!

「ええい、バッチいだろ、鼻水があ! こんの錯乱天馬があ!」
「テンちゃんだっ! あたしの名前は、テンちゃんだっ!」

 お、押されてるんだが。
 押されて岩壁に押し付けられそうなんだが。
 つか、見える景色が虹色になって、どこに誰がいるんだか分からないんだが?!

「も、もういいでしょ? テンちゃん。落ち着いて、ね?」

 ヨウミに宥められてようやく天馬とスライムは落ち着いた。
 だが。

「ま、まさかその天馬が、アラタと仲間だったなんて……思わなかったぞお」

 一番呆然としてるのはモーナーだ。
 そりゃそうだろう。
 体当たりを食らって大怪我させられたんだからな。

「しかもプリズムスライムまで……。アラタはレアモンコレクターか?」

 珍しいダークエルフのマッキーがそれを言うか。
 ひょっとしてそれはギャグで言ってるのか?

「テンちゃん、誰が悪いってことはないのよ。ただ、間が悪かっただけなのね。だってモーナーも、このダークエルフのマッキーも仲間にしたのは、この村に来てからだったもんね。この村に辿り着くまで一緒に行動してたら、離れ離れになることはなかったのよ」

 天馬は一瞬目をぱちくりさせ、それから再び号泣。
 何でそんなに泣きたいのやら。

「あだしだってぇ! 仲間になりたかったのにいいぃ!」
「おいこら、足を地面に叩きつけるな! 地面が割れたらここに住めなくなっちまうだろ!」

 まったくこの馬鹿天馬は!
 ……馬鹿天馬って、馬から始まって馬で終わるんだな。
 どうでもいいけど。

「だあいじょうぶだあ。ここら面の地面もお、かなり硬い岩盤だからあ」

 いや、そーゆー問題じゃねぇよ、モーナー。

「別れてたのか。一体何が……って、あぁ、旗手の一人に唆されてっつってたな」
「人の話聞いてなさいよ、ゲンオウ」
「そうは言うがな、メーナム。関連性がどこにもねぇじゃねぇか。手配書出回ったり、撤回されたりって、一方的に王家とかに絡まれててさ、アラタは王家に絡んだことってねぇだろ? 異世界から来たことくらいでさ」

 あ……。
 あー……そう言えば、言ってなかったっけか?

「何を言っている? 彼は元々この世界には、旗手として呼び出された一人なのだぞ?」
「はぁ?!」

 全員が目を丸くしている。
 つか、それ、今必要な情報じゃねぇだろ。
 つか、……質問攻めに遭いそうな気配。

「お、落ち着け、みんな。俺は、そんなもんじゃねぇって言われてな」
「で、でも旗手様なんでしょ?!」

 新人冒険者ども!
 食い入るような目で見るんじゃねぇ!

「そ……そんなこと一言も言ってねぇじゃねぇか!」

 ドーセンまで食らいつくな!

「何だ? 何も伝えてなかったのか?」

 皇太子サマは皇太子サマで、何を暢気な……。

「そうだよ。知らなかったの?」

 何で天馬がドヤ顔してんだ!
 つか、お前ら、落ち着けー!

 ※

 一通り説明して、一通り事情の説明を受けて、そしてようやく洞窟内の空気が落ち着き……。

「何だよ」
「……旗手様っ」
「うるせえ!」

 エージがミーハーっぽい目つきですり寄ってくる。
 まったく子供ときたら……。
 子供と言えば……。

「あたしには?」

 天馬がまたすり寄ってきた。

「何だよ」
「……あたしには仲間って言ってくれないの?!」
「痛っ」

 弁慶の泣き所を狙ってどついてくるスライム。
 何なんだよ。
 察してくれとか言われたって分かんねぇよ!

「アラタ。あなた、まだこの二人に、お帰りとも言ってないし仲間とも言ってないし、名前も言ってないわよね」

 そりゃそうだ。
 テンちゃんとライムと同一存在とは断定できなかったからな。

「……あまり意地悪するのは、よくないと思うぞ?」
「俺もそう思うぞお」

 意地悪っつーか、何と言うか。

「あたしはっ! アラタのそばにいたいのっ!」

 それに合わせてスライムもピョンびょこ跳ねている。

「スライムに性別はないし、モーナーは男だがそれ以外は……。モテ期か? アラタ」

 ドーセンまで余計な事言うな!

「改めてお詫び申し上げる。そして、できれば以前のような間柄に戻ってもらえないだろうか?」

 王妃にもだったが、皇太子からも頭下げられた。
 しかも、ある意味公衆の面前だ。
 頭を下げる義理はないだろうし、下げるべき奴は別にいるし。

「アシナとやらとの縁があるだろうから、腹に何か抱えてるかもしれんが……そいつのことはともかく、その二体の魔物については、もういいんじゃねえか? 今まで行商の看板みたいな存在だったしよ」

 確かにゲンオウの言う通りだが……。
 旗手達と一緒に行動を続けられない理由ってのは何なんだ?
 いや、その前に……かなり時間が経って昼飯時じゃねぇか?

「……ドーセン。昼飯のことなんだが……」
「ん? あぁ……。……酒はなしだが、祝勝会でもするか! 俺の宿屋んとこでよ! これくらいの人数なら余裕で入るぜ? 魔物達も入れてな!」

 歓声が上がった。
 ちゃっかりしてやがる。
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