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三波新、放浪編
こだわりがない毎日のその先 その11
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※
翌朝。
宿屋の親父は複雑な心境を顔に露わにしている。
昨夜手にしたススキから採れた米でおにぎりを作った。
宿屋の親父を拝み倒し、自宅で食う米を見せてもらい、選別した米を貰っておにぎりを作った。
朝飯の時に食べ比べてもらった。
「どっちも美味しいぞ? でも朝ご飯のは昨日の晩ご飯とおんなじだ。美味しくないな」
マッキーは相変わらず、デリカシーというものがなさそうだ。
いや、人間の機微というものに疎いだけなのかもしれない。
一日二日で身に付けろってのは無理な話。
修正期間中は周りに不快な思いをさせてしまうかもしれんが、きちんと身に着けてもらわなけりゃいろいろと困る。
まぁマッキーの言動はともかく、だ。
宿屋の親父の心中が複雑な理由はおそらく。
ここで行商人に卸している米は、それなりに知名度は高いらしい。
つまりブランド物というわけだ。
当然地元の人達の自慢であり、誇り。
そしてそれを昨日の夜からケチをつけられた。
誇りを傷つけられた者の機嫌は推して知るべし。
ところが、そのブランド米よりも、普段口にしている米の方が質が良いと断言された。
その米は、各家で育てている稲から採れたもの。
人任せではない。
だからブランド米よりも、自分達が手塩をかけて育てた稲を高く評価されたというわけだ。
褒められてうれしくないはずはない。
しかも地元の誇りよりも上。
ところが当の本人には、その違いが分からないときたもんだから、それが本当かどうか疑わしくて喜んでいいのやら怒っていいのやら分からない。
宿屋の親父はそんな顔をしている。
「……で……その米の違いが分かって、あんたらは何がしたいんだ?」
日本大王国の端の田舎。
ギルドもほとんど来ない上、王家など、権力者からもノーマークだろう。
せいぜい行商人が来る程度。
いくらブランド米がこの村の売りと言っても、消費者からの注目度は決して高くない。
なぜなら米のことだけを考えて生活しなければいけないわけじゃないから。
と、いうことは。
「初級冒険者達が割と頻繁に来るって話を聞いた……という話はしたっけか? そのサポートめいたことができそうなことが分かったから、ここで仕事できないかと。勧めてくれた人も何人かいたしな」
「だったらあ、俺が掘った穴のそばに家建てたらどうかなあ? 俺も休憩場所できてありがてえしよお」
「おめぇの都合で賛成かよ。まぁおめぇが言うなら問題ねぇんだろうな」
ノロマ、などと悪態をついてた奴があっさりと、その相手の意見に同調した。
俺のことだし、俺が望んでいたことなんだが、こいつら騙されやすいタイプじゃないだろうな?
逆に不安になってくる。
「え? ちょ、ちょっと、そんな簡単に決めていいの? 私達のこと、もっと知りたいとか……」
「あぁ、別にいらねぇよ。ノロマの奴がいいってんなら問題ねぇのさ」
俺もヨウミに同意見。
だが親父の返事は一体何だ。
モーナーの意見に全く疑いの余地なしって感じじゃねぇか。
「お前の掘った穴のそばつったか? 誰かの招致か?」
「みんな欲しがらなかったんだあ。岩盤あったし、山の麓に続いてるしい。だから穴掘ったんだあ。誰からも文句なかったぞお?」
何と言うか、おおらかというか……。
まぁ俺の方じゃ、土地はすべて誰かの物としているのが前提だったはずだからな。
「待て。山の麓っつったな? だったら洞窟掘って建物みたいにしたらいいんじゃねえか? あの山からは特に鉱物とかは取れなかったはずだしよぉ」
「そりゃいいなぁ。掘るだけなら俺だってやれるし、道具があれば部屋作りもできるしよお」
なんかとんとん拍子で話が進んでいく。
「だ、だが親父さんに不快な思いまでさせちまったし……」
「あー? ……俺が気に入らなくても、こいつがいい奴だって判断したらいい奴なんだよ。逆に俺が気に入った奴でも、こいつが悪い奴だと判断したら、長く村に置いとけねえ奴ってことだ」
そんなんでいいのかよ……。
まぁ俺には有り難い話だがな。
「んじゃお前ら四人はあ、俺の仕事手伝ってくれなあ。アラタ達はあ、ここで待っててくれなあ。部屋の数……六つくらいでいいかなあ?」
穴を掘るだけだから、部屋を増やしたければさらに奥に向かって掘り進めばいい。
最初からたくさん部屋を作っても、持て余すだけだろう。
トイレは相当下に向かって深く掘れば問題ないという。
「農地があるからさあ。肥料になるんだよなあ。臭いも吸い込んでくみたいなんだあ。けど、風呂場は作れねえなあ。川は村の中に流れてるけどお、量が少ねえし、無理に水路作ったら水が止まっちゃうかもしれねえんだあ」
「風呂なら週一ぐれぇならロハで使わせてやる。もっと使いたいなら有料でな」
身だしなみに無関心な人に言われてもなぁ。
まぁいいけども。
そんな話をしながら簡単な設計図を書いて完成。
それをモーナーに見せると大体把握できたようで、四人の冒険者と共に宿を出た。
「とは言ってもすぐにできあがるわけじゃねぇ。できるまでここで待ってんのか?」
「いや。その辺りを散策してみる。その辺りの地理的なことは知っとかなきゃな」
ここに腰を据えるということは、いつまでもこの村の客のままでいるわけにはいかない。
村人にいろんなことを教わることも必要だろうが、自分たちだけでできることがあるなら、自分達で事に当たることも必要だ。
俺は俺の世界でいろんなことを押し付けられた。
人に頼ったその見返りを期待された、ということもある。
モーナー達の掘削作業は、彼らの自発的な善意であって、俺が縋ったわけじゃない。
何も言われなかったら土地の所有者を探して自分で何とかするつもりだったが、彼の申し出は有り難かった。
いずれ、俺の再スタートとしてはいい環境に恵まれたな。
つくづく、捨てる神あれば拾う神あり、だ。
翌朝。
宿屋の親父は複雑な心境を顔に露わにしている。
昨夜手にしたススキから採れた米でおにぎりを作った。
宿屋の親父を拝み倒し、自宅で食う米を見せてもらい、選別した米を貰っておにぎりを作った。
朝飯の時に食べ比べてもらった。
「どっちも美味しいぞ? でも朝ご飯のは昨日の晩ご飯とおんなじだ。美味しくないな」
マッキーは相変わらず、デリカシーというものがなさそうだ。
いや、人間の機微というものに疎いだけなのかもしれない。
一日二日で身に付けろってのは無理な話。
修正期間中は周りに不快な思いをさせてしまうかもしれんが、きちんと身に着けてもらわなけりゃいろいろと困る。
まぁマッキーの言動はともかく、だ。
宿屋の親父の心中が複雑な理由はおそらく。
ここで行商人に卸している米は、それなりに知名度は高いらしい。
つまりブランド物というわけだ。
当然地元の人達の自慢であり、誇り。
そしてそれを昨日の夜からケチをつけられた。
誇りを傷つけられた者の機嫌は推して知るべし。
ところが、そのブランド米よりも、普段口にしている米の方が質が良いと断言された。
その米は、各家で育てている稲から採れたもの。
人任せではない。
だからブランド米よりも、自分達が手塩をかけて育てた稲を高く評価されたというわけだ。
褒められてうれしくないはずはない。
しかも地元の誇りよりも上。
ところが当の本人には、その違いが分からないときたもんだから、それが本当かどうか疑わしくて喜んでいいのやら怒っていいのやら分からない。
宿屋の親父はそんな顔をしている。
「……で……その米の違いが分かって、あんたらは何がしたいんだ?」
日本大王国の端の田舎。
ギルドもほとんど来ない上、王家など、権力者からもノーマークだろう。
せいぜい行商人が来る程度。
いくらブランド米がこの村の売りと言っても、消費者からの注目度は決して高くない。
なぜなら米のことだけを考えて生活しなければいけないわけじゃないから。
と、いうことは。
「初級冒険者達が割と頻繁に来るって話を聞いた……という話はしたっけか? そのサポートめいたことができそうなことが分かったから、ここで仕事できないかと。勧めてくれた人も何人かいたしな」
「だったらあ、俺が掘った穴のそばに家建てたらどうかなあ? 俺も休憩場所できてありがてえしよお」
「おめぇの都合で賛成かよ。まぁおめぇが言うなら問題ねぇんだろうな」
ノロマ、などと悪態をついてた奴があっさりと、その相手の意見に同調した。
俺のことだし、俺が望んでいたことなんだが、こいつら騙されやすいタイプじゃないだろうな?
逆に不安になってくる。
「え? ちょ、ちょっと、そんな簡単に決めていいの? 私達のこと、もっと知りたいとか……」
「あぁ、別にいらねぇよ。ノロマの奴がいいってんなら問題ねぇのさ」
俺もヨウミに同意見。
だが親父の返事は一体何だ。
モーナーの意見に全く疑いの余地なしって感じじゃねぇか。
「お前の掘った穴のそばつったか? 誰かの招致か?」
「みんな欲しがらなかったんだあ。岩盤あったし、山の麓に続いてるしい。だから穴掘ったんだあ。誰からも文句なかったぞお?」
何と言うか、おおらかというか……。
まぁ俺の方じゃ、土地はすべて誰かの物としているのが前提だったはずだからな。
「待て。山の麓っつったな? だったら洞窟掘って建物みたいにしたらいいんじゃねえか? あの山からは特に鉱物とかは取れなかったはずだしよぉ」
「そりゃいいなぁ。掘るだけなら俺だってやれるし、道具があれば部屋作りもできるしよお」
なんかとんとん拍子で話が進んでいく。
「だ、だが親父さんに不快な思いまでさせちまったし……」
「あー? ……俺が気に入らなくても、こいつがいい奴だって判断したらいい奴なんだよ。逆に俺が気に入った奴でも、こいつが悪い奴だと判断したら、長く村に置いとけねえ奴ってことだ」
そんなんでいいのかよ……。
まぁ俺には有り難い話だがな。
「んじゃお前ら四人はあ、俺の仕事手伝ってくれなあ。アラタ達はあ、ここで待っててくれなあ。部屋の数……六つくらいでいいかなあ?」
穴を掘るだけだから、部屋を増やしたければさらに奥に向かって掘り進めばいい。
最初からたくさん部屋を作っても、持て余すだけだろう。
トイレは相当下に向かって深く掘れば問題ないという。
「農地があるからさあ。肥料になるんだよなあ。臭いも吸い込んでくみたいなんだあ。けど、風呂場は作れねえなあ。川は村の中に流れてるけどお、量が少ねえし、無理に水路作ったら水が止まっちゃうかもしれねえんだあ」
「風呂なら週一ぐれぇならロハで使わせてやる。もっと使いたいなら有料でな」
身だしなみに無関心な人に言われてもなぁ。
まぁいいけども。
そんな話をしながら簡単な設計図を書いて完成。
それをモーナーに見せると大体把握できたようで、四人の冒険者と共に宿を出た。
「とは言ってもすぐにできあがるわけじゃねぇ。できるまでここで待ってんのか?」
「いや。その辺りを散策してみる。その辺りの地理的なことは知っとかなきゃな」
ここに腰を据えるということは、いつまでもこの村の客のままでいるわけにはいかない。
村人にいろんなことを教わることも必要だろうが、自分たちだけでできることがあるなら、自分達で事に当たることも必要だ。
俺は俺の世界でいろんなことを押し付けられた。
人に頼ったその見返りを期待された、ということもある。
モーナー達の掘削作業は、彼らの自発的な善意であって、俺が縋ったわけじゃない。
何も言われなかったら土地の所有者を探して自分で何とかするつもりだったが、彼の申し出は有り難かった。
いずれ、俺の再スタートとしてはいい環境に恵まれたな。
つくづく、捨てる神あれば拾う神あり、だ。
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