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三波新、放浪編
幕間:これからの異世界生活、本当は楽しみだったりする
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何か知らんが、ヨウミとテンちゃんはニヤニヤしている。
ライムはポヨンポヨンと小さく跳ねている。
気味が悪い。
「そりゃあ王妃からの要望よりも、あたしたちの方が大事って言われたらねぇ」
「愛されてるなー、あたし達。ねー、ライムー」
そんなこと言ったか?
ま、こんな連中はほっといて。
「あの人の誠実さは分かった。けどその決意や熱意、使命感なんかは、実行されるまでの伝達の途中で消えたりすることもあるから、警戒は常にしとかないとな」
「アラタって人間不信? 同属から見てどう? ヨウミちゃん」
「んー……面倒な性格と言うか、難儀というか……。気持ちは分かるけどね」
「お前らなぁ……。とりあえず……今までとは違う形態で仕事を始めようかと思う」
本人を前にして評価するというのもどうかと思うが。
だが自覚してる部分もある。
俺が異世界から来た人間だという話は、知ってる奴は知ってるしかなりの範囲で広まってると思う。
だから、それを知ってる奴のほとんどは、いずれは俺は自分の世界に帰るものと思ってるだろう。
そして、本来なら旗手としての働きを期待されて召喚された。
けれど、追い出された。
その役目があると知らされず。
その役目を果たしたのち、どんな手順を踏むかは知らないが帰ることができる。
けれど、その事実も知らされず。
だから、俺が自分の世界に帰る方法など、誰からも関心を持たれなかった。
それを理由に拗ねてたら、まるで保護者が必要な子供なんだよな。
帰る方法を探すだけの生活をしていたら、そのうち腹も減る。
何も食わなきゃ動けなくなる。
栄養を得るために食事を摂る必要がある。
いくらその気配を察知することができても、それを食材にできる技量がなきゃダメだ。
栄養満点だからと言って、ドラゴンを単身で狩りに行くなんてできるわけがない。
だから仕事をして金を稼ぐ必要があった。
そう。
俺の世界に帰るためには、それまでこの世界で生活する必要があった。
けど、他の旗手の連中は、おそらくその生活を保障され続けてきたはずだ。
片や俺は、自力で生活を続けてきた。
それをいまさら支度金など用意してもらって、旗手ですから泉の魔物を全滅していただいて戻っていただきます、などと言われてもな。
まぁそれを、もう出せないから勘弁してくれと懇願させてもなお搾り取り、旗手としての役目も適当に力を抜いて当たるのも、それもそれで一つの生き方だろう。
意固地になってそれを拒絶するのもそう。
自分の世界では辛い事ばかり。
そしてこの世界は自分の世界より過ごしやすいからということでこの世界に留まるのもそう。
嫌なことはすべて避けて通れるのであれば、そんな生き方も悪くはないはずだ。
けれどもそんな生き方に非があることを証明されたら……。
「……っと! アラタっ! 何またぼんやりしてるの! 話を途中で止めないでよ!」
「あ……、あぁ」
考えがまとまらないが仕方がない。
とりあえずだ。
「店を持ってきてほしいっていう要望もある。今までは魔物が湧きそうなところで店を開いていた。その場所が見つかるまでさ迷い歩いていたわけだが、来てほしいというからには、何かの仕事がそこにあるってことだ。その仕事をする冒険者達を客層にする行商もやってみようってな」
「目的地を設けた行商ってわけね?」
「そゆこと。けどそんな場所だと、その仕事の目的ってのはどこにでもあるから、そこでの仕事が始まって間もなくっていうタイミングで店を始めるのがベスト」
「そのタイミングに間に合うかどうかが問題よね」
「規模がでかくなきゃ入る人も少ない。やってくる行商人も少ないから来てほしいってことらしい。かち合うことがほとんどないなら、条件が揃えば行ってもいいかなとも思うが」
「それはアラタに任せるわ。ね? ライム」
そう言うテンちゃんの背中で、ライムはぴょこぴょこと動く。
「でも、いつでも来てもらっても構わないって要望もいくつかあるのよね。誰も来なくなったダンジョンで行商したって……」
「魔物相手に商売は成り立たんしな」
「それは言えるー」
テンちゃんが笑いながら羽根をパタパタさせている。
「でもさぁ。放浪生活なのは変わらないのよね? 宿屋以外の夜はすべて野宿よね……」
「そこんとこも見直さないとな。たとえば荷車な。もう少し広くして、宿屋の部屋くらいに出来たらいいな、とか思ってたりする」
「でもあたしたちは変わらないよね。まぁ屋内か屋外かの違いだけだし」
「あぁ、そこまではなかなか名案は浮かばなくてな。すまんな、テンちゃん、ライム」
「ライムが、動く宿屋にしたらどうか? だって。もっとも客はあたし達だけらしいけどね。アハハハ」
「おー。じゃあ上等な寝具を買ってもらわなくっちゃ」
「いや……先に荷車どうするかだろうが」
つーか、理想に向かって暴走真っ最中だな、お前ら。
いずれにせよ、俺達の拠点を考えるくらいには、この世界に腰を据えることにした。
そうなると自ずとこの仕事への意気込みも変わってくる。
旗手の役目を放棄しても、その力を失うことはないようで、その点は安心できた。
けど、旗手は七人で活動するんだよな。
一人の欠員、どうすんだろ?
まぁ俺が心配する筋合いじゃないな、うん。
ライムはポヨンポヨンと小さく跳ねている。
気味が悪い。
「そりゃあ王妃からの要望よりも、あたしたちの方が大事って言われたらねぇ」
「愛されてるなー、あたし達。ねー、ライムー」
そんなこと言ったか?
ま、こんな連中はほっといて。
「あの人の誠実さは分かった。けどその決意や熱意、使命感なんかは、実行されるまでの伝達の途中で消えたりすることもあるから、警戒は常にしとかないとな」
「アラタって人間不信? 同属から見てどう? ヨウミちゃん」
「んー……面倒な性格と言うか、難儀というか……。気持ちは分かるけどね」
「お前らなぁ……。とりあえず……今までとは違う形態で仕事を始めようかと思う」
本人を前にして評価するというのもどうかと思うが。
だが自覚してる部分もある。
俺が異世界から来た人間だという話は、知ってる奴は知ってるしかなりの範囲で広まってると思う。
だから、それを知ってる奴のほとんどは、いずれは俺は自分の世界に帰るものと思ってるだろう。
そして、本来なら旗手としての働きを期待されて召喚された。
けれど、追い出された。
その役目があると知らされず。
その役目を果たしたのち、どんな手順を踏むかは知らないが帰ることができる。
けれど、その事実も知らされず。
だから、俺が自分の世界に帰る方法など、誰からも関心を持たれなかった。
それを理由に拗ねてたら、まるで保護者が必要な子供なんだよな。
帰る方法を探すだけの生活をしていたら、そのうち腹も減る。
何も食わなきゃ動けなくなる。
栄養を得るために食事を摂る必要がある。
いくらその気配を察知することができても、それを食材にできる技量がなきゃダメだ。
栄養満点だからと言って、ドラゴンを単身で狩りに行くなんてできるわけがない。
だから仕事をして金を稼ぐ必要があった。
そう。
俺の世界に帰るためには、それまでこの世界で生活する必要があった。
けど、他の旗手の連中は、おそらくその生活を保障され続けてきたはずだ。
片や俺は、自力で生活を続けてきた。
それをいまさら支度金など用意してもらって、旗手ですから泉の魔物を全滅していただいて戻っていただきます、などと言われてもな。
まぁそれを、もう出せないから勘弁してくれと懇願させてもなお搾り取り、旗手としての役目も適当に力を抜いて当たるのも、それもそれで一つの生き方だろう。
意固地になってそれを拒絶するのもそう。
自分の世界では辛い事ばかり。
そしてこの世界は自分の世界より過ごしやすいからということでこの世界に留まるのもそう。
嫌なことはすべて避けて通れるのであれば、そんな生き方も悪くはないはずだ。
けれどもそんな生き方に非があることを証明されたら……。
「……っと! アラタっ! 何またぼんやりしてるの! 話を途中で止めないでよ!」
「あ……、あぁ」
考えがまとまらないが仕方がない。
とりあえずだ。
「店を持ってきてほしいっていう要望もある。今までは魔物が湧きそうなところで店を開いていた。その場所が見つかるまでさ迷い歩いていたわけだが、来てほしいというからには、何かの仕事がそこにあるってことだ。その仕事をする冒険者達を客層にする行商もやってみようってな」
「目的地を設けた行商ってわけね?」
「そゆこと。けどそんな場所だと、その仕事の目的ってのはどこにでもあるから、そこでの仕事が始まって間もなくっていうタイミングで店を始めるのがベスト」
「そのタイミングに間に合うかどうかが問題よね」
「規模がでかくなきゃ入る人も少ない。やってくる行商人も少ないから来てほしいってことらしい。かち合うことがほとんどないなら、条件が揃えば行ってもいいかなとも思うが」
「それはアラタに任せるわ。ね? ライム」
そう言うテンちゃんの背中で、ライムはぴょこぴょこと動く。
「でも、いつでも来てもらっても構わないって要望もいくつかあるのよね。誰も来なくなったダンジョンで行商したって……」
「魔物相手に商売は成り立たんしな」
「それは言えるー」
テンちゃんが笑いながら羽根をパタパタさせている。
「でもさぁ。放浪生活なのは変わらないのよね? 宿屋以外の夜はすべて野宿よね……」
「そこんとこも見直さないとな。たとえば荷車な。もう少し広くして、宿屋の部屋くらいに出来たらいいな、とか思ってたりする」
「でもあたしたちは変わらないよね。まぁ屋内か屋外かの違いだけだし」
「あぁ、そこまではなかなか名案は浮かばなくてな。すまんな、テンちゃん、ライム」
「ライムが、動く宿屋にしたらどうか? だって。もっとも客はあたし達だけらしいけどね。アハハハ」
「おー。じゃあ上等な寝具を買ってもらわなくっちゃ」
「いや……先に荷車どうするかだろうが」
つーか、理想に向かって暴走真っ最中だな、お前ら。
いずれにせよ、俺達の拠点を考えるくらいには、この世界に腰を据えることにした。
そうなると自ずとこの仕事への意気込みも変わってくる。
旗手の役目を放棄しても、その力を失うことはないようで、その点は安心できた。
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