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三波新、放浪編

俺の仕事を、なんでお前らが決め付けるんだ その1

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「アラタ……。客、減ったりしてねぇか?」
「さぁ? 欲しい客に売る。ただそれだけだからな」

 客である冒険者の一人から心配された。
 翌日からまたいつもの行商が始まって、一週間も過ぎたか。

 行商を始めたその日からついてきたヨウミ。
 ある日突然俺のそばに寄りついてきた野良でレアな魔物、プリズムスライムのライム。
 そして、あの日から仲間になったテン……ちゃん。

 ……本人曰く、テンじゃなく、テンちゃんがいいとか。

 ──────

 俺が泊まる宿にこいつがやってきた夜、そして翌朝はてんやわんやだった。
 翌日の朝、店の主に詫びを入れつつご飯を済ませ、すぐに車庫に戻って、そこで炊飯。
 テンちゃんの食う飯の量の多いこと多いこと。
 俺が作るおにぎりで十分事足りるんだとか。
 お陰で朝から重労働だよ!
 しかも俺だけ!

「じゃあテンちゃんも、これから一緒に行商してくれるの?!」

 昨夜、俺の身に何があったかは伝えてない。
 俺とテンちゃんだけが分かってればそれで十分だからな。

「けど、あくまで手伝いだからな? 荷車が重いから代わりに引いてくれとか、そんな便利な道具扱いは禁止だぞ!」
「えぇ~?」

 なにがえぇーだ。
 荷車引っ張ったの、一回しかないくせに。
 それとだ。

「こいつは女の子らしいからな。無理やり力仕事させるのはかわいそうだろ?」
「女の子おぉぉぉ?!」

 寝そべっていたテンちゃんは険しい顔をヨウミに向けた。

「え? あ、いや、せせ性別があるなんて思わなかったからさ、ご、ごめんごめん」

 慌てるヨウミを見て、少し気分は晴れた。
 ライムは動じる様子もなく、お腹の辺りでポヨンポヨンと跳ねている。
 さすがにライムには性別はないだろ。
 こうしてまたいつものように、営業に適した場所を探す旅。
 旅?
 旅でいいのか? よく分からんが。
 まぁそれはともかく、で、店を開いても良さそうな場所を見つけて営業開始。
 その五日目を迎えた今に至る。

 ───────

「お前のことを心配してるわけじゃねぇんだけどよ、こいつ……灰色の天馬だろ?」

 テンちゃんは……。
 くそっ。
 ちゃん付けで呼びたくはないんだが、無意識に呼ぶと呼び捨てになる。
 するとこいつ、歯をむき出して怒ってくるからな。
 ……で、テンちゃんは、そんな声を聞いても聞いてないふりをしている。
 夢の中での話と、翌朝の、いかにも夢の中のこと覚えてるぞって顔を見て、間違いなく俺達の会話を理解している、と分かった。
 その上で、聞いてないふりをしている。

「同業の中じゃあよ、縁起を担ぐ奴と、まったく気にしない奴の二通りに分かれる。半々じゃねぇかな?」
「でも、それって引退した人達も含めた数なんじゃないの?」

 荷車の奥からヨウミから質問が飛んできた。
 確かに言われてみれば。
 経歴年の層によっては偏ったりするんじゃないのか?

「いや、どの年代も半々だと思うな。誇りを持ちながら仕事をする奴、食うに困るからこの仕事をする奴、自分の力を試すとか伸ばすためにこの仕事に就く奴、そして、それでも危険を避けたいと思う奴、自ら危険に飛び込みたがる奴、いろいろいるからな」

 事情も人の数の分だけある、か。

「ジンクスに立ち向かう奴、逆らわない奴もいるしな。天馬を一目見て立ち去る奴は間違いなく後者だろうよ。まぁそれに是も非もないが……ライムと同じく、珍しいもんを見せてもらった有り難さはある」

 見世物じゃねぇよ、まったく。

「……話はともかく、注文のおにぎりは鮭と梅。それにお茶のセットで五百円。……はい、丁度だな」
「それにしてもアラタ。プリズムスライム、灰色の天馬、そして人間って、お前んとこの仲間、バラエティ過ぎて楽しそうだな」

 人間も見世物かよ。
 流石にそれは笑える。

「こっちの本業はおにぎり売りの行商で専業だ。それ以外で商売する気はないな」

 目に見える利益を与える商売が理想。
 サービス業に手を出すのは、俺の考えではちょっと難しいな。

「移動式の動物園もできそうな気がするけどな」
「ちょっと! 私も檻に入れたいとでも言うわけ?!」

 ヨウミが客に怒鳴るのも珍しい。
 まあ話の繋がりを考えりゃ笑いものにされたような気はするか。
 そいつは慌ててヨウミに詫びを入れるがすぐには収まりそうにない。
 触らぬ神に祟りなし。
 つまり神は客ではなくこっちなのだ、うん。
 それにしても確かにこの客の言う通り、バラエティに富んではいる。
 行商仲間なら大抵人間同士だもんな。
 となると、これはまるで……桃太郎か三蔵法師か。
 もっとも仲間って意識はないかな。
 責任者として、同行するなら世話はしてやらなきゃ、とは思うがな。

「行商中に魔物拾いまくって集める趣味なんかないっての。って言うか、油売ってる暇あるんですか?」
「おぅ、見飽きねぇから時間が経つの忘れちまうな。じゃあな」

 じゃあなと言われるほど親しくはないと思うんだがなぁ。
 何人か順番待ちをしていた客全員が買い物を済ませてそれぞれの仕事場に向かった。
 魔物が湧く気配があっても、そこに冒険者達が来なければこちらも商売にならない。
 あの騒ぎから二か月も経とうとしているか。
 ギルドの目立った動きはないまま。
 冒険者達も、層が増えるのは新人ばかり。
 これはつまり、早期の転職も視野に入れることができる連中とも言える。
 そして魔物退治の範囲は国内中にある。
 外国もあるらしいが、外国は外国で、そっちにいる連中が魔物退治をするから、互いの領域を荒らさないようにしているらしい。

 つまり、俺が店を開いているという目撃者も自ずと少なくなるし、その情報も流れにくい状態が続く、と。
 俺目当ての事案が、結果俺には何の影響もなく、全国民の生活に悪影響を及ぼしている。
 間違いなく悪政の一つだなこりゃ。
 やれやれだ。

「さて……店仕舞い完了したか? あー、テン……ちゃん? 周りに忘れ物ないか確認してくれないか?」

 俺にできないことってのはいろいろある。
 力仕事は苦手だが、自分ができる範囲内のことは誰かに任せる気はない。
 だが、誰かに頼まなきゃならない作業や仕事はある。
 それは、自分の頭で何かを決め付けたりした後の確認作業だ。
 俺の頭の中では無意識に、忘れ物はないと思い込んでしまった。
 草むらの中に道具を置き忘れてしまうと、そこから自然破壊をしてしまいかねない。
 ヨウミに頼むと、同じ種族というデメリットが発生する。
 その思いが伝染してしまいやすいから、やはり確認作業に無意識に手を抜いてしまうことがある。
 本人にはその気はないが。
 ライムに頼むと時間がかかる。
 成長して体は大きくはなったが、身長は俺の半分あるかないか。
 動きは小さい頃とほぼ変わりなく、鈍いわけではないが俊敏というわけでもない。

 テンちゃんは加入初日だが、初仕事としてはちょうどいい仕事ではなかろうか。

「ん? 誰かが近寄ってくるが……。ヨウミ。おにぎりの客なら在庫のみで頼む。こいつらの見物なら……」

 ヨウミに向かってテンちゃんなどと言いたくはない。
 何度も言うが、ネーミングセンスは俺より悪いぞこいつ。

「野次馬なら追い返す、だね。りょーかーい」

 俺は荷車の奥で、道具や残った食材の確認。
 後片付けをしっかりやってこそ、評判を呼ぶってことだ。
 商売をやるからには、そりゃ客はたくさん来てもらった方が有り難いからな。
 それに、ギルドの動きは鈍いままだが、商人達は騒ぎ以前と変わらない動きを見せ始めている。
 行商の仕入れの時に、そんな作業に落ち度を見つけられて一々皮肉を言われたんじゃこっちもまいっちまうからな。

「……アラタぁ……」

 俺を呼んだヨウミは、こっちに困った顔を向けている。

「何だよ」

 顔と気配でトラブルが起きたことは分かったが、ギルド絡みでも旗手や王族絡みでもないのは明らかだった。

「ちょっと……あたしじゃ手に負えない……」

 荷車から顔を出すと、仕事中の間ではめったに見ることのない一般人の姿をした三人組がそこにいた。
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