上 下
14 / 493
三波新、放浪編

そこは宗教の施設だった そしてそこには大司教と国王もいた けれども俺はそこにいなかった?

しおりを挟む
「お取込み中すいませんねー。ちょいとお聞きしたいことがですねー」

 カマロのやつ、丁寧語は使うが口調が軽い。
 相手は、お前から馬鹿にされてるとしか思われないぞ?

「えっと、すいません。えー、迷子になってしまいまして、自宅に戻りたいんですが、ここはどこでしょう?」

 これくらいの丁寧な言い方をしないと礼儀知らずとか思われるぞ?

「ようこそお出でいただきました。これで旗手の方々は全員揃ったというわけです」

 白い衣装の人達の中で、ちょっと華美な感じがする装飾品を身に着けた男がいた。
 恰幅がいいその男の言う歓迎の言葉が、これまたよく響く声。
 それはいいんだけど、こっちの質問に答えてほしいんだが?
 俺は帰りたいんだけど。

「あの……えーと……」

 どう切り出すか迷ってる間に、またその恰幅のいい男の朗々とした声が、堂内に響いた。

「ここは日本大王国の首都、第一の都にございます、慈勇教本部。私は慈勇教の代表である大司教の任を仰せつかっておりますユウオライと申します。我々、いや、この国の全国民は、皆さまが来られるのをお待ちしておりました。盾の旗手様は前に一度お会いしておりますね。あの時はありがとうございます。またご面倒をおかけして申し訳ありません」
「あ、いえいえ」

 左腕に盾をつけている男は、確かに何となく場慣れしてる感じがする。

「ジユウキョウ? タテノキシュ?」
「そう。慈しみと勇ましさを持つ神を信奉する教えを中心とする宗教、と言った方がわかりやすいでしょうか。皆様方はその神が遣わした勇者。我が国で起こっている、魔物達を討伐する勇気の旗印、すなわち旗手なのです」
「へえぇ。ほんとに勇者みたいなんだな。っていうか、日本大王国って何だよ。日本は帝国だろ?」

 いや、だから日本は民国だろうに。
 って、何か向こうでざわついてる。

「何言ってんだ? 日本連邦だろ」
「え? ちょっと待って。何それ。日本公国でしょうが」
「おい待て。お前ら自分の住む日本大国のこときちんと勉強したのか? 小学校出てんのか?」
「えっと、皆さん、ちょっと待ってください。あのですね……」

 話しが妙に噛み合わない。
 日本って言葉は出てくるが、その後の国名が違うってのはどういうことだ。
 日本語を喋ってるし、言葉の意味は通じてるようだが……。

「あ、あのですね。今は国の名前のことよりも、帰り道のことをお聞きしたいんですが」
「この国……この場所には、我々にとっての異世界から来られるすべての方々に旗手の資質がある、と考えております。事実今まで何人もの旗手の方々に来ていただき、我々の望みを叶えていただき、そしてそれぞれの場所にお帰りいただきました」

 俺の質問はスルーかよ。
 いや、俺の言葉が聞こえないのか?
 っていうか、異世界?
 こいつら、っつーか、この教会? の人達も、日本語を普通に使ってるな。
 地名とかの固有名詞にはちょっと違いがみられるが。
 ってことは何か?
 みんな一見日本人だが……みんなそれぞれ別の世界の日本から来たってこと?
 何だこの展開。

「もちろんそれなりの報酬は用意してございます。それと、ここにいらっしゃる期間、皆様方の世界には不在なわけですが、そちらの方の時間の経過はございません。これは複数回こちらに来られた旗手の方々の証言によるものです」

 いや、話がどんどん進んでいって、なんかついていけないんだが?

「この人の言ってることは確かです。僕は二度目ですが、戻った時はここに来る直前と変わりませんでした」

 縦の若い男はすでに経験済みか。
 嘘じゃないってことは分かるが……。
 そういえば、カマロの持ってる剣の柄にある模様と、あの縦のど真ん中に描かれている模様がおんなじだな。
 旗手の証とかってやつかな。
 でも俺は何にも持ってない。
 俺はどうすりゃいいんだ?

「あの、すいません。俺はどうすれば……」
「詳しい話は、こちらにおられます日本大王国の象徴であらせられますゴナルト国王からご説明申し上げます」

 大司教とやらが、俺の言葉にかぶせてきた。
 なんか会社員時代の待遇と重なるのは気のせいか?

「ここで立ち話もなんですから、私の部屋にお出で下さい。食事も用意しましょう」

 食事があるのは有り難いが、とにかく変える方法をだぶわっ!

 ついて行こうとしたら、大司教の部下ってことか? そいつらに体ごと割って入られて押しのけられた。

「な、なぁ、大司教様よ、あの人も一緒」
「さあ、こちらです。部外者は入ることは許されない区域ですので、どんなことでも……」

 国王が立っていた横の隅にある扉を開けて、ここの人間の数人を残して奥に入っていった。
 てことは何か?

 俺、置き去り?

 残った人はまるで門番のように仁王立ち。
 目線はこの大部屋の出入り口の方に向けられている。

 俺、無視されてる?

 なんだよ、この扱い。

 ──────

「何よ、それ!」

 ヨウミがテーブルを力の限り両手で叩く。
 その音は店内に響くが、酔っぱらいばかりの酒場じゃ誰も気に留めない。
 その酔っ払い達は冒険者。
 そんな音程度で動じるわけがないってことだな。

 ……ビビってるの、俺だけだった。
 人が話をしてる途中でいきなりそんな音を出されたら、誰だってびっくりするよな?

「だって、旗手の召喚魔法を使ったんでしょー?! だったら招き入れた慈勇教の連中に責任があるってことじゃないの!」

 責任?
 いや、召喚魔法?
 何を言ってる?

「待て待て。お前、ちょっと頭に血が上りすぎてないか?」
「何言ってるの、アラタ! あなたも少しは怒りなさいよ! 怒っても許される立場よ、それ!」

 えーと。
 怒っていいポイントがよく分からんのだが?
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

付与効果スキル職人の離島生活 ~超ブラックな職場環境から解放された俺は小さな島でドラゴン少女&もふもふ妖狐と一緒に工房を開く~

鈴木竜一
ファンタジー
傭兵を派遣する商会で十年以上武器づくりを担当するジャック。貴重な付与効果スキルを持つ彼は逃げ場のない環境で強制労働させられていたが、新しく商会の代表に就任した無能な二代目に難癖をつけられ、解雇を言い渡される。 だが、それは彼にとってまさに天使の囁きに等しかった。 実はジャックには前世の記憶がよみがえっており、自分の持つ付与効果スキルを存分に発揮してアイテムづくりに没頭しつつ、夢の異世界のんびり生活を叶えようとしていたからだ。 思わぬ形で念願叶い、自由の身となったジャックはひょんなことから小さな離島へと移住し、そこで工房を開くことに。ドラゴン少女やもふもふ妖狐や病弱令嬢やらと出会いつつ、夢だった平穏な物づくりライフを満喫していくのであった。 一方、ジャックの去った商会は経営が大きく傾き、その原因がジャックの持つ優秀な付与効果スキルにあると気づくのだった。 俺がいなくなったら商会の経営が傾いた? ……そう(無関心)

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

お気楽、極楽⁉︎ ポンコツ女神に巻き込まれた俺は、お詫びスキルで異世界を食べ歩く!

にのまえ
ファンタジー
 目が覚めたら、女性が土下座をしていた。  その女性に話を聞くと、自分を女神だと言った。そしてこの女神のミス(くしゃみ)で、俺、鈴村凛太郎(27)は勇者召喚に巻き込まれたらしい。  俺は女神のミスで巻き込まれで、勇者ではないとして勇者特有のスキルを持たないし、元の世界には帰れないようだ。   「……すみません」  巻き込みのお詫びとして、女神は異世界で生きていくためのスキルと、自分で選んだスキルをくれた。  これは趣味の食べ歩きを、異世界でするしかない、  俺、凛太郎の異世界での生活が始まった。  

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

処理中です...