1 / 493
プロローグ
プロローグ:異世界でも言葉やお金が通用すれば、意外と馴染めるもんだ
しおりを挟む
「っぷはぁ! アラタぁ、冷たい麦酒、おいしいわよー? ……と言っても、アラタはお酒だめなんだっけか?」
「晩飯食う前にいきなり麦酒一気はどうなんだ? 飲み過ぎるなよ? 久々の外食だから羽目を外したい気持ちは分からなくはないが」
俺は三波新。
生粋な日本人だ。
木製のテーブルを挟んで向かい合って座っている女性はヨウミ・エイス。
彼女の名前の表記はカタカナなんだが、生粋の日本人。
けれど俺とは全く違う。
俺が生まれたところは日本民国で、彼女の生まれはここ。すなわち日本大王国。
俺はいわゆる異世界転移の現象に、今から一年と半年前に巻き込まれた。
その転移先がここ。
同じ日本って言うだけあって日本語が通じるし、紙幣や硬貨も同じ物が使われてる。
肖像画も同じだから、異世界でも同じ人物がいたんだろうな。
その点は安心したけど、それ以外は戸惑うどころか、身の危険を感じることばかり体験した。
この国、いや、この世界には電気がない。
けど魔力ってもんが身近に存在する。
それを操る人や生物も存在し、魔力だのなんだのを使って暴れる魔物も存在する。
「今日は長雨の後の久々の天気だったから、アラタのおにぎり、飛ぶように売れて助かったわー」
「雨も三日くらい続いたか? 荷車の中も狭くはないからしのげはしたけど、外食ばかりじゃなく宿の寝室でものんびりしたかったから、今日は晴れてくれて助かった」
その魔物を討伐や退治を仕事とする冒険者という職業がある。
それに就くことができるのは、当然それだけの力量がある武術者や魔法使い達だ。
。
俺とヨウミはそんな冒険者達を相手に、荷車を引きながらの行商をしている。
扱う品物はおにぎり。
保存がききそうな具をある程度の種類は取り揃え、具のない塩おにぎりや、それぞれ何個かを組み合わせたり、水かお茶とセットで売ることもある。
荷車はボロイが俺たち二人が中で眠れるくらいには広い。
商品を陳列する棚も荷車の中にあり、雨風はしのぐことはできるから天気の良し悪し関係なく商売はできる。
そして俺達が今いる場所は、そんな冒険者達や近所の住民達が利用する酒場。
宿屋も兼業していて、行商の人達も宿泊できるように、荷車の預り所まである。
今はちょうど酒場が賑わう時間。
冒険者の何人かはいい気持で酔っ払っているようで、あちこちで会話の大声が響いている。
「でもさぁ……同じこと何回も言うけどさ、いくら地形が分かるからって、地図も持たずに行商するってあり得なくない? 仕入れなきゃ手に入らない物は、道端で会う他の行商の人が売ってくれるからいいようなもののさぁ」
「でも見知らぬ場所でも店を始めると、毎回儲け出してるからいいだろ?」
「でも荷車はアラタが引くでしょ? 雨のときはずっとそこで足止め食らうじゃない。宿が近いか遠いかまでは分からないでしょ」
路面はすべて、土や砂利。
岩肌の上を行くこともある。
平らに整備された道路は、大きな町の中くらい。
アスファルトやコンクリートなんてのは、物どころか言葉も存在しなかった。
スムーズに進むことは、珍しくはないが多くはない。
凸凹に引っかかってなかなか進めない路面の方が多い。
他の人の荷車は、馬や牛、あるいはこの世界特有の動物や飼い馴らされた魔獣に引かせている。
天候を気にせず普通に走る荷車の前で立ち往生するわけにいかない。
だから雨の日は道端に車を停めて大人しく雨宿りをすることにしている。
「けど収支上で困ることはないだろ? 足止め食らってる間の食料だって、不足になったことはないし」
「まぁ店を開くときは、不思議といつもいつも繁盛するから、売り上げ的には文句のつけようはないんだけどねぇ」
ヨウミには、別の世界の日本からやって来たと言うことは伝えてある。
でも思い出したくもない俺の世界での生活は言いたくないし、この仕事が成功している心当たりも伝えてはいない。
ヨウミがそれを知ったら、俺はこいつにこき使われるんじゃなかろうか、と恐れてるからな。
実際俺が就職した先では、雑用ばかりさせられ、罵られ、そして辞めさせられたからな。
まぁでも今は、ヨウミがいなくてもこの行商は成功できるだろうし、余計なことを言わなくて済むならそれに越したことはない。
「晩飯食う前にいきなり麦酒一気はどうなんだ? 飲み過ぎるなよ? 久々の外食だから羽目を外したい気持ちは分からなくはないが」
俺は三波新。
生粋な日本人だ。
木製のテーブルを挟んで向かい合って座っている女性はヨウミ・エイス。
彼女の名前の表記はカタカナなんだが、生粋の日本人。
けれど俺とは全く違う。
俺が生まれたところは日本民国で、彼女の生まれはここ。すなわち日本大王国。
俺はいわゆる異世界転移の現象に、今から一年と半年前に巻き込まれた。
その転移先がここ。
同じ日本って言うだけあって日本語が通じるし、紙幣や硬貨も同じ物が使われてる。
肖像画も同じだから、異世界でも同じ人物がいたんだろうな。
その点は安心したけど、それ以外は戸惑うどころか、身の危険を感じることばかり体験した。
この国、いや、この世界には電気がない。
けど魔力ってもんが身近に存在する。
それを操る人や生物も存在し、魔力だのなんだのを使って暴れる魔物も存在する。
「今日は長雨の後の久々の天気だったから、アラタのおにぎり、飛ぶように売れて助かったわー」
「雨も三日くらい続いたか? 荷車の中も狭くはないからしのげはしたけど、外食ばかりじゃなく宿の寝室でものんびりしたかったから、今日は晴れてくれて助かった」
その魔物を討伐や退治を仕事とする冒険者という職業がある。
それに就くことができるのは、当然それだけの力量がある武術者や魔法使い達だ。
。
俺とヨウミはそんな冒険者達を相手に、荷車を引きながらの行商をしている。
扱う品物はおにぎり。
保存がききそうな具をある程度の種類は取り揃え、具のない塩おにぎりや、それぞれ何個かを組み合わせたり、水かお茶とセットで売ることもある。
荷車はボロイが俺たち二人が中で眠れるくらいには広い。
商品を陳列する棚も荷車の中にあり、雨風はしのぐことはできるから天気の良し悪し関係なく商売はできる。
そして俺達が今いる場所は、そんな冒険者達や近所の住民達が利用する酒場。
宿屋も兼業していて、行商の人達も宿泊できるように、荷車の預り所まである。
今はちょうど酒場が賑わう時間。
冒険者の何人かはいい気持で酔っ払っているようで、あちこちで会話の大声が響いている。
「でもさぁ……同じこと何回も言うけどさ、いくら地形が分かるからって、地図も持たずに行商するってあり得なくない? 仕入れなきゃ手に入らない物は、道端で会う他の行商の人が売ってくれるからいいようなもののさぁ」
「でも見知らぬ場所でも店を始めると、毎回儲け出してるからいいだろ?」
「でも荷車はアラタが引くでしょ? 雨のときはずっとそこで足止め食らうじゃない。宿が近いか遠いかまでは分からないでしょ」
路面はすべて、土や砂利。
岩肌の上を行くこともある。
平らに整備された道路は、大きな町の中くらい。
アスファルトやコンクリートなんてのは、物どころか言葉も存在しなかった。
スムーズに進むことは、珍しくはないが多くはない。
凸凹に引っかかってなかなか進めない路面の方が多い。
他の人の荷車は、馬や牛、あるいはこの世界特有の動物や飼い馴らされた魔獣に引かせている。
天候を気にせず普通に走る荷車の前で立ち往生するわけにいかない。
だから雨の日は道端に車を停めて大人しく雨宿りをすることにしている。
「けど収支上で困ることはないだろ? 足止め食らってる間の食料だって、不足になったことはないし」
「まぁ店を開くときは、不思議といつもいつも繁盛するから、売り上げ的には文句のつけようはないんだけどねぇ」
ヨウミには、別の世界の日本からやって来たと言うことは伝えてある。
でも思い出したくもない俺の世界での生活は言いたくないし、この仕事が成功している心当たりも伝えてはいない。
ヨウミがそれを知ったら、俺はこいつにこき使われるんじゃなかろうか、と恐れてるからな。
実際俺が就職した先では、雑用ばかりさせられ、罵られ、そして辞めさせられたからな。
まぁでも今は、ヨウミがいなくてもこの行商は成功できるだろうし、余計なことを言わなくて済むならそれに越したことはない。
1
あなたにおすすめの小説
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした。今さら戻れと言われても、もうスローライフ始めちゃったんで
ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。
家族も、家も、居場所もない。
そんな俺を拾ってくれたのは、
優しいSランク冒険者のパーティだった。
「荷物持ちでもいい、仲間になれ」
その言葉を信じて、
俺は必死に、置いていかれないようについていった。
自分には何もできないと思っていた。
それでも、少しでも役に立ちたくて、
誰にも迷惑をかけないようにと、
夜な夜な一人でダンジョンに潜り、力を磨いた。
仲間を護れるなら…
そう思って使った支援魔法や探知魔法も、
気づかれないよう、そっと重ねていただけだった。
だけどある日、告げられた。
『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』
それは、優しさからの判断だった。
俺も分かっていた。だから、何も言えなかった。
こうして俺は、静かにパーティを離れた。
これからは一人で、穏やかに生きていこう。
そう思っていたし、そのはずだった。
…だけど、ダンジョンの地下で古代竜の魂と出会って、
また少し、世界が騒がしくなってきたようです。
◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる