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第二章 二件目 野盗を討て!

襲撃と逆襲

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 一方的に蹂躙されていた集落が、俺と言う対抗手段を得てその現場は戦場に昇格した。

 戦場。
 真っ先に連想されるのはおそらく、戦死者、だろう。
 つまり敵に死を与えるという奴だ。
 だが俺はそこまでするつもりはない。
 かと言って許す気もない。
 ただ、面白おかしく暴れ放題の連中に一矢を報いる。それだけのつもりだ。
 彼らの顛末は……。
 まぁそれについては、今はいい。放置だ。

 まずは初手。紙鉄砲。
 白討(はくとう)と呼ばれている野盗のねぐらからは、愛宕神社の境内に集まっている集落民達は見えない。その逆も当てはまる。
 だが、集落民達は俺が何をするかは見えているはずだ。
 その報せは、ななが高台から落とした数々の石で分かった。

 それを十分に理解した上でそれを振り上げる。
 そして力いっぱい振り下ろす。

 スパアアアアアン!
 と大きな音が鳴る。
 しかし俺が望んだ効果は音じゃない。
 その一瞬のタイミングで、紙鉄砲から大量の水の塊が吐き出された。
 水鉄砲なんて可愛いもんじゃない。言うなれば水大砲か。
 学校のプールの半分くらいの水量。それが吐き出される反動はなかった。
 振り下ろす際の重量も感じられなかった。
 そんな大量の水の行き先は、何と五キロ以上俺の正面、西方向に真っすぐに飛んでいく。
 折り紙に対する俺の異能の効果だ。

 その先にあるのは白討のねぐら。
 その洞窟にそんな水量が一気に流れ込む。ただで済むはずはない。
 溺れ死ぬということはないだろう。俺もそんなことを期待していない。

 またも後ろから石がいくつか落ちてくる。
 これもななからの報せだ。

 ※※※※※ ※※※※※

「ねぐらから白討全員が出てきてから投石で俺に報せろ」

「全員?」

「あぁ。全員だ。おそらくは……」

 ※※※※※ ※※※※※

 そう。
 おそらくは全員武装するだろう。
 その中で、いくら文明人の俺でも恐れる物はある。
 それは飛び道具。
 スーパーマンじゃあるまいし、火縄銃だろうが何だろうが、弾丸を受けて平気なわけがない。
 ならば。

「もういっぱあああつ!」

 スパアアアアアアン!

 洞窟から全員が外に出ているはず。
 ならば水量は学校のプールくらいがいい。
 放水でダメージを与えるなら、水流の勢いが強いホースがいいだろう。
 だがその場合、どこから出し続けるかってことが問題になる。
 何もない所から水を出す能力を持っている折り紙だ。
 延々と放水が続くとなると、いかに理不尽な現象が許される力であっても、のちにどんな影響があるか分からない。
 それに、吐き出されるのが水の塊ってところがミソだ。
 到着するころにはいくらか分散されるだろうが、その水圧でダメージを与えるその矛先は……。

 ※※※※※ ※※※※※

「銃は五丁。間違いないんだな? これ、カウント間違えると致命傷になるぞ?」

「何度も確認した。五つだった。でもそれがどうしたの?」

「うん、そいつをな……」

 ※※※※※ ※※※※※

 使い物にならない得物は捨て置くに決まってる。
 日本刀はそう簡単にはダメージは負わないはずだ。
 鉄を叩いて鍛えながら鋭利な刃を入れていくんだからな。

 じゃあ銃身はどうなんだ? いちいち鉄の部分を叩いて鍛えるか否か。
 そして筒になっている。空洞がある。そこに弱点がある。
 とてつもない水圧が一瞬でかかり、無事で済むはずがない。
 無事だったとしても水がかかる。果たして使い物になるかどうか。

 つまり、使い物になるかどうか分からないものを手にするより、日本刀などの刃物を手にした方が効率はいいはず。
 そしてその五丁の鉄砲を連中が手放したら報せるようにななに伝えていた。
 その報せの投石が、俺の後ろで音を立てた。

 そんな遠くでの出来事がなぜ分かる?
 分かるさ。
 そのための、折り紙のカメラを変化させて画面が大きめのデジカメにしてななに渡したんだからな。

 さて、二手目だ。
 テリアの折り紙を地面に放り投げる。
 何に変化させたかというと、秋田犬だ。体高は七十センチを超えている。

「こないだみたいにスライムなんか出したら、それこそ元も子もないからな」

 元も子もない。
 この場で解決できるだろうが、事後処理がヤバい。
 いや、紙から大量の水が出るのを見られること自体ヤバいかもしれないが、被害は住民達に及ばない分何とかなるはずだ。

 そして三手目は折り鶴。
 それをカラスに変化させる。
 カラスってのは、神話の時代にも出てくる。
 日本では八咫烏なんて存在もある。
 そして次に活動させるのは二手目ではなく三手目。

「奴らをしっかりからかって、誘導してこい」

 羽のある存在は、その羽を利用して飛行することは出来る。
 羽があるすべての存在は飛行できるとは限らないが。
 だが、羽のない存在が飛行できない。飛行できる特殊能力を持っている前提以外は。

 同様に、いくら希望しても出来ない能力もある。
 折り紙から出来た秋田犬やカラスは、俺と会話が出来ない。
 だが俺の意思を理解することは、この世界の範疇だ。

 そしてこのカラスへの命令は、連中を攻撃させることではない。そもそも一羽だけで攻撃させて何の効果があるか。
 いきなり住処を水浸しにされ、攻撃の切り札である飛び道具を使用不可能にされる。
 さらにカラスにからかわれ、手が届きそうで届かない周りを飛び回られたら、そりゃ八つ当たりもしたくなるだろう。
 しかも大量の水が飛んできた方角と、カラスが逃げる方向が同じ。その先にあるのは荒らされてない田畑に囲まれた数ある民家。近いうちに襲撃先となる地点でもあるなら、彼らの行動は目に見えている。
 それは、その集団が固まったまま動くことをせず我先に、と感情に任せてこっちに来ることになる。

 その集団の先頭を進むのは五頭の馬に乗った野盗。
 馬だけが先に来るかと思いきや、いくらかは冷静のようで、走ってくる野盗に合わせて移動するが、その先頭グループにだけ付き添うかたち。
 それは俺にとって、そして集落民達にとってラッキーなことだ。
 馬は集落民達の食料になるんじゃねぇか?
 まずは彼らの行動不能になってもらおう。

 馬に乗る五人。その周りには八人の野盗。
 俺の仕掛けの範囲に馬すべてが足を踏み入れる。
 日照りが続いて田んぼの地面が固くなり、馬とて走りやすくなっている。

 ところがどっこい。
 いくら狭い範囲っつっても、サラブレッドよりも太い脚だったとしても、その足が嵌るくらいの範囲はあるんだぜ?
 俺は予め所々に深く、とても深く氷を張らせていた。

 大事なことだから二回言おう。
 日照りが続いてて地面が固い田んぼだ。稲穂の背は高い。地面の異変に気付くはずがない。
 作った氷なんて溶けるに決まっている。
 その結果出来上がるのは、小さな底なし沼ってわけだ。
 馬すべてがバランスを崩す。
 サラブレッドだって五百キロくらいはある。
 そばにいる野盗全員、その巻き沿いを食らい下敷きになる。
 死んではいないが動けない。
 馬すべてが足一本、あるいは二本、底なし沼にどっぷり漬かってるんだから、自ら、あるいは人の手を借りようとしても立てるわけがない。
 ひょっとしたら骨折しているかもな。
 たって沼の縁は日照りの土で角になっている。
 乗っている野盗も打ちどころが悪けりゃ立てないままだ。
 まぁ落下した先にある沼にハマって抜け出せない野盗もいるが。
 格好がY字バランスになってて身動きとれづらそうだ。
 武器も刀みたいな細いものだとその沼に落としたら拾い上げることも無理。
 動けそうな奴もいないこともないが、周りの様子を見たらそりゃ警戒するわな。少しでも足の位置をずらしたら、見えない沼にハマるかもしれない地面は恐怖以外の何物でも無かろうよ。

 だが、俺の仕掛けたエリアはそこからじゃないんだな。
 そこが一番、俺らから見たら手前のエリアなんだよ。
 そして白討全員、すでにトラップのエリアに突入してんだよな。
 そのエリアにカラスが誘導したというわけだ。

 その後方にいる、自分の足で走ってきている連中には、だ。

「雪国ならではの、滑りやすい道じゃ滑りづらい歩き方があるんだよ。だがいくら雪国っつっても、今の季節じゃそんな歩き方、走り方をする奴はいない。そんな中で突然滑りやすい地面が出たらどうなるかなっと」

 踏み荒らされてでこぼこの田んぼの中を進む残りの『白討』の足元を、やはり狭い範囲でアイスバーンに変えてやった。
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