この僧侶、女子高生っぽい女神の助手 仕事は異世界派遣業

網野ホウ

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第一章 一件目、異世界龍退治

女神 準備万端のようです

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 俺達が神殿に戻ったのは、日付が変わったと思われる真夜中。
 俺は相当くたびれた。
 酒は普通に嗜むが、ここでの俺の体調がどう変化するか分からない。
 なのに周りはどんどん酒を勧めるものだから、相手を不愉快にさせずにすべて断るのは至難の業だった。
 でななはというと、俺とは対照的にご機嫌である。
 酒に酔ってではない。
 女神、ナナ神にそっくりという声が増えていき、本人じゃないか? という声まで上がったものだからつい調子に乗ったと本人の談。
 不敬だの不埒だの無礼だのという声は全く出ないどころか、称賛まで浴びている。

「酔っぱらい達ににおだてられて、調子こいてサービスを踊る踊り子みたいなもんじゃねーか」

「訳分からない事言ってんじゃないわよ」

 ゲームのイベントか何かでそんなのがあったような気がする。
 事前にあれだけ自重しようと自分から言ってたくせに、何という軽々しい心掛け。
 俺はライムに鎧への変化を解除させ、枕代わりのクッションのようにライムの上に上半身を寄りかからせた。

「おい」

「いいじゃない。寝心地良さそう。おぉ、涼しくて気持ちいー」

 鎧を脱いだななは例の姿で俺の隣で、ライムに体を預ける。
 いくら懐いているとは言え、俺のだぞ?

「ライムー。こいつ沈めろ」

 とぷん。
 そんな擬音が耳元で聞こえた。
 ライムの体の中にななの上半身が沈んだ。その後、ぶくぶくとライムの中からあぶくが立つ。
 ライムの体の中で必死にもがくなな。
 頃合いを見てななを体から追い出すようにライムに指示すると、ななの体が急浮上してライムの体の上で弾けた。

「ちょっとっ! ひどいじゃないっ!」

「俺とライムの間柄だからこういうことが出来るの。同じようにしたいなら、俺に一言くらいあってもいいだろうがよ」

 ぜぇぜぇ言いながらななは俺に抗議をするが、俺は別に悪くはないよな?
 ま、その息切れはともかく、この後どうするか何だよな。

「新情報どころか、みんなよく分からん推測ばかりの話。龍がまた暴れ出す不安も何となく感じたが、手の出しようがないって感じだったな」

 とてつもない力を持つ特撮ヒーローの登場でも待っているような、そんな停滞感。
 俺の世界でも、困った時だけの神頼み、なんて嫌味な言い回しもある。
 まぁ彼らも努力はしたんだろうが、町や村を壊滅させるくらいの力を持つ奴が相手じゃ手のつけようはないんだろう。
 仕方のないことでもあるか。

「龍ばかりじゃなく、あの周りにいた魔術師っぽい連中の対処の仕方も考える必要があったからねー。それと私の立ち位置も考えなきゃいけなかったから」

「立ち位置? 願い事を叶えてそれで終わりでいいじゃんじゃねえの?」

 俺、また何か口滑らせたか?
 初めての実践だから少しくらい大目に見ろよ。

「言ったでしょ? 関わる必要がある場合と関わっちゃだめな場合があるって」

「……つまりその見極めが必要だってことか? つーか、どんな前提でその世界を作ったか分かんなきゃ、その場合の線引きも分かるはずないだろうよ」

 ……いや、それもそうね、じゃねぇだろ。
 まずそれを説明しろよ。

「この世界はね、折り紙から出たようにモンスターとか、あるいは魔法とかがある世界なの」

「そりゃあんなどでかい龍がいるくらいだからな」

「うん。その龍に関わることがどうなのかってことを考える必要があったのよ」

 その後いろいろ理屈をこねるななだが、分かりやすく説明するとこんな感じだった。

 モンスターが発生するパターンは二つ。
 自然に発生するか、強引に呼び出すか。

 強引に呼び出した場合、これは人為的な事。
 そこに住む人の意志が先立つ物となる。
 住民達が希望することであるから、いくら創造主がそれを否定しても、その世界が住人たちにとって住みにくい世界であるならば、それを改善する必要がある。

 自然に発生した場合、これは創造主がそのように世界を作ったわけで、それが住人達にとって住みづらい世界であるならば、改善しようとしても出来ないことがほとんどである。
 これが関わる必要がある場合に当たる。

「ってことは、今回は自然に発生したと思えない事態だから関わっちゃならんケースってことか?」

 なんか俺の理解の速さに驚いてるようだが、俺の事より事態の進展についてどう考えるのか言えよ。
 つーか、困った住民達ほったらかしにする気か?
 この世に神も仏もないもんだって言われんぞ?
 まぁ自分らの責任でこうなったってんなら、そりゃとんだ八つ当たりってとこだろうがな。

「普通の生き物だったら私が出しゃばってもいいと思ったんだけど、あの龍、どう思う?」

「どう思うって……どう見たって生き物じゃねぇよなぁ」

 最初は彫刻か何かかと思った。作者らしい人物がそばにいたら、芸術品に見えてもおかしくはない。
 だが俺の世界での出来事に例えるなら、無機物が勝手に動いたってことだ。
 電動式、ねじ式、ゴム動力、ガスやガソリンの動力……。
 だがそれらは、使いたい者が操作して自由に動かしている。
 その動かす目的が破壊活動なら……。

「テロリストの道具か、あるいは……」

 道具でなければそいつが自意識を持って暴れているということだ。
 よく聞く話だ。
 人形が勝手に動き出す、みたいな。
 それこそオカルトじゃねぇか。
 でも禁忌の物が存在するとしたら、それはその世界が想像した者がそれも作ったってことか?

「南君。さっきの酒場では、私達が知ってる情報しか仕入れられなかったわよね?」

 こいつ、酒いくら飲んでも酔わないのかね?
 目と口調に真剣さが帯びてるんだが。
 あれ? 確かうわばみって……。

「一つだけ情報が変化したわ。『火のようなものを吐いて暴れる』龍って情報が『火を吐いて暴れる』龍、にね。ここがミソになるのよ」

 ミソって言い方もなんだかなー。

「魔法が存在する世界にしたのも私。その魔法の中には当然火もある。けどその目的が問題なのよ。火って主に何に使う?」

 随分大雑把な質問が来たな。
 まあおふざけや座布団狙いじゃなければ……。

「まず、暖める。それと明るくする。一番無難な使い方だよな。けど使い方ひとつ間違えるととんでもないことになる……燃焼、だよな」

「そう。生活しやすくするために必要なのは光、そして温度。つまり熱量ね。けど南君の言う通り、火に限らず限度を超えるととんでもないことが起きる」

 そのとんでもない使い道を思いついたのは……神じゃなく人間なんだろうな。
 だが落雷から火事になることもある。うーん……。

「つまり、私が介入できる余地はそこにあるのよ。世界が扱いきれない火力をどうにかするには、住人たちの力ではとても無理。けどそれが自然現象なら」

「女神が舞い降りて火を鎮める、か」

「自然現象でとんでもない火は存在するけど私が一々出張るひつようがないこともあるけど……分かる?」

「マグマか。それがなければ地球上の生物は生きてはいけない。むき出しならなおさら生きられないがな。で、話しはずれたが、結局どう出るんだ?」

「村や町を壊滅した火の根源をなくす。おそらくその龍は人為的に呼び出されたものだと思う。呼び出した者はあのそばにいた魔術師達」

 だろうな。彼らに対しどう出るか。
 まさか天罰を下すとか言うんじゃないだろうな?
 これだけ回りくどいことをして、結局天界からの鉄槌一撃で終わりって、何となく芸がねぇな。

「龍への扱いついでに何とかするわ。って言うかできる。朝が来たらすぐに向かうわよ」

 え?
 突拍子もねぇな。
 っつーかどんなやり方するか教えろよ。
 って思った瞬間、ななのやつ俺に向かっていたずらっ子のように笑いかける。
 まぁいいさ。
 俺は助手であって、この件に責任持つ立場でもないから、ななに全部お任せだ。
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