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四人目の相棒は許嫁

縁談って、どうして本人よりも先に周りが騒ぎ出すんだ?

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「コウジ。お前って独身で身寄りがないんだよな」

 と、唐突に避難している冒険者の一人から声をかけられた。
 俺はこいつらから、自己紹介されたことは一度もない。
 いいかよく聞け。
 自己紹介は初対面の時にしないと、相手がなかなか名前を名乗ってくれないんだぞ。
 肝に銘じておけ。
 俺がそれで苦労したんだ。
 貴重な体験談だぞ!
 などと、言うつもりもないが。

「お前がいなくなったら、この部屋はどうなるんだ?」
「さあな」

 流れでつい軽く返事をした。
 まさか大騒ぎになるとは思わなかった。

「さあなって……子供いないのかよ!」
「子供がいなくても孫はいるだろ」
「いるわきゃねえだろ! おい、コウジ! この部屋の後継ぎはいねぇのかよ!」
「この部屋、なくなったら、ここにいない人達も困るわよ?」
「俺達の死活問題にもなるんだぜ?! お前一人の命じゃねぇんだよ!」

 お前らの都合を俺に押し付けんな!
 大体、俺は毎日お前らの世話と、ここで騒ぎを起こさないように監視しなきゃ落ち着かねぇんだよ!

「みんながここを利用しなくなれば後継者問題について考えてもいいけどな」
「そりゃ意味ねぇだろうよ。いい候補者いねぇのかよ」
「私達の誰かがなってもいいんじゃない?」
「無理に決まってんだろ。米とやらをどうやってここに持ち込むんだよ。ここ、地下二十五階だぜ?」
「そうなんですか? 私達は地下七十……三でしたっけ?」
「四」
「どこまで進んだかの自慢話じゃないでしょう? この部屋どうなるかって話でしょうに」

 ピーチクパーチクうるせぇ連中だ。
 そろそろこのお喋りどもから離れないとな。

「夜の握り飯タイムだから、俺一抜けるぜ。ミュウワ、米、研いでるか?」
「炊飯、蒸らしも終わってます」

 あんだけ夜に乱れても、日中の仕事、やる時はやってくれるから今までで一番頼りになる相棒だ。
 つくづくそう思う。

 ※※※※※ ※※※※※

 俺達の晩飯は、握り飯の余ったやつに、買い出しで買ってきた物の数点を適当に調理した物。
 毎度毎度カレーはやってられん。

「コウジさん」
「んー?」

 カレー以外の食事は、カレーほど乱れることはない。
 そういう意味ではつまらん食事だ。
 いじり甲斐がない。

「夕方の話ですけど」
「夕方?」
「この部屋の後継者の話ですよ」

 あぁ。
 あの話の延長戦、開始ってやつか?

「俺は独り身だからな。まぁ家族がいなくても、『畑中雑貨店』の住人なら後継者の資格は得られるか?」
「無理でしょう」

 いきなり無理って言われた。
 まぁ人望がないのは認めるけどさ。

「コウジさんの作るおにぎりには力が込められてます。私も練習させてもらってますが、まだコウジさんには及びません。コウジさんの世界の人間なら、誰でもできる事なんでしょうか?」

 まぁ……それは、なぁ……。
 それともう一つ問題があるのを思い出した。
 異世界の者達を見て驚いて逃げ出しゃしないだろうか、ってことだ。
 俺は祖母ちゃんに連れてこられて教わった。
 祖母ちゃん、つーか、家族以外の人からだったら、多分怖くて逃げたんじゃなかろうか。
 逆にマニアな奴なら、ある種の者達に執着して、贔屓したりしかねない。
 屋根裏部屋で見る光景が、普通に現実に起きることとして認識できる。
 そんな奴が後継者としての理想の姿だよな。
 そして、ミュウワの指摘だ。
 俺の家族以外の人間の握り飯を食わせて、果たして効果が現れるんだろうか。
 その答えは……。

「カウラお婆様から言われたから。託されたから。確かにそれがきっかけですが……」

 許嫁、か。
 俺もそこら辺に拘ってんだよな。
 あの婆さんが、自分が持ち掛けた縁談を受け入れてくれたという結果しか見てくれなかった場合、そうじゃないんだと説明するのがめんどくさい。

「お婆様には申し訳ないんですが、それとは無関係に、誰かに対して同情とか慰めとか、そんな気持ちもなしにコウジさんには……」

 そっちの気持ち、固まってんのか。
 だが、俺はどうも踏ん切りがつかない。

「俺とミュウワの間に子供ができる、と? 問題は山積みだ。生まれた子供がここを引き継いでくれるかどうか。そのためだけに一緒に生活するということなら、子供が拒否したらその理由がなくなる」

 同じ人間同士の結婚なら、そこまで堅苦しく考える必要はないだろう。
 だがこの場合、俺が父親になるってんなら、その責任を持たなきゃならんからな。

「それは……そうですが……」
「それと、そいつが作る握り飯に、みんなを回復させる力があるかどうか」
「ない、とは考えづらいです。力の優劣の差はあるでしょうけど」
「あと、子育てはここと俺の世界では無理だ。法律上の手続きで手詰まりを食らう」

 どこかの子供を引き取った、ということにしても、追及されたらお手上げだ。
 孤児院から、とでっち上げても、その孤児院自体もな。
 口裏を合わせてくれる人、団体もいやしない。
 何よりミュウワには……遠目から見ても分かるくらいには生えている角がある。
 それを引き継いだとしたら、それこそな。

「……仮に……仮に私とコウジさんが結婚して子供ができても……」
「ここと俺の世界じゃ無理だ」

 となれば選択肢は一つしかない。

「私の……実家で」
「そういうことになるな」

 まぁ……こういう時の独り身は、身軽で実に都合がいい。
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