164 / 196
四人目の相棒は許嫁
彼女の名は って何で名前を聞くのにこんな苦労を!
しおりを挟む
朝一番に工事の依頼をした。
流石に大掛かりな工事のため、すぐには取り掛かることはできなかったようだった。
数日たってから工事が始まった。
前回と違って、工事現場は屋根裏部屋との間に、防音を施しているプレハブがある。
いくらかは音は抑えられているが、振動までは止められない。
「建物を建てる作業なのに、結構静かなんですね」
「窓の外見るの禁止な。中を見られると、工事の人達仕事にならなくなっちゃうかもしれないからな」
俺の忠告にびくっとして窓から遠ざかる鬼の娘。
普段は理性的な面を強く押し出してるから、感情が先に立って動くちょっとした仕草が妙に可愛い。
「でも、至る所が四角い場所って珍しいですね」
たしかに天井、床、壁、どこを見ても四角が基準だ。
「私の所では、例えば天井は上向きの曲面になってたりしますから」
いわゆるドーム型だな。
二階、三階と上に伸ばすには、直方体とか立方体にしないと作れないからな。
「ま、いずれ外を見るのはしばらく勘弁してくれ。ここよりも広い窓をつけてもらうことにしたから」
「コウジさんの世界が、今までよりも広く見ることができるんですね」
まぁな、と短く答える。
今までだって、外は見れたじゃないか。
もっとも山に迫る方向だから、パノラマって訳にはいかないがな。
そんなことよりもだ。
「外で何があっても、中で何が起こっても、やって来る怪我人は途切れることはないぞ。一度に二升の米研ぎも楽じゃないだろ? 楽じゃない分時間もかかる。頼むぜ?」
何があっても、普段と変わらない一日は常にあり、それが続く。
故に仕事の手は抜けられない。
そしてこれまで通り、押し掛け共もやって来る。
が、初めて来る者達でも、何かの作業中ということは分かるようで、前回きた緑色の女ほど強烈な奴はいなかった。
喜ばしい事ではあるが、そもそもそんな奴には来てほしくはない。
※※※※※ ※※※※※
とうとうその日がやってきた。
その日の午後、雑貨屋の方で客が来た。
と言っても店の客じゃない。
プレハブを作ってくれた業者からの請求書。
しっかり一括で現金払い。
そして残る作業は、プレハブの方から出入り口を作り……。
「ふう……。扉はこれで完成。鍵は南京錠でいいだろ。俺とお前と一つずつ。もっとも俺はここを毎日使うかどうか分からんがな」
名目は一応彼女の部屋だ。
好き勝手にしていい。
なんせこの世界での、こいつの生活拠点。
唯一くつろげる場所だからな。
だからこそ、いくら俺と二人でも使える部屋と言っても、軽々しく俺が足を踏み入れていい場所じゃあない。
そして、そんな場所であることを、ここに来る連中にも知らしめる必要がある。
「表札付けとかないとな。でないと、またこないだみたいな奴が来て勝手に使われる。俺の家なら異世界の連中は誰も入って来れないが、そんな感じにしたらお前も入れなくなっちまうしな」
「表札、ですか」
ないのかな?
世界が違えば文化も違う。
知らなくて当たり前のことも多いからな。
「自分の名前とか苗字を書いて、入り口の見やすい所に付けておくんだ。その人の許可なくして自由に立ち入りはできないという主張になる」
名前を書いて貼るだけだから、とりあえず紙に筆ペンか何かで書くか。
レタリングはあまり上手じゃないし、筆の文字の方が見栄えはいいだろう。
お金に余裕があれば印鑑屋さんにでも注文してもいいし。
「で、名前は?」
「あ、えーと……。あ……」
「ん? どした」
「……私……コウジさんに初めて名前、聞かれました……」
いや……、あのさ……。
赤面する場面じゃないだろ、今は。
※※※※※ ※※※※※
ミュウワ=エズ。
カウラの曾孫は、彼女の玄孫の俺にそう名乗った。
けどな。
何で名前を聞き出すのに、三十分以上時間かかっちまったんだよ!
カウラに直接聞きに行った方が早かったわ!
握り飯作りで追われる毎日の中で、ゆっくり休める僅かな自由時間を削られた。
もうやめてくれ!
俺の今日の残りの自由時間はゼロ……。
「あ、あの……」
「うるせぇ、米研げ」
顔を真っ赤にしたままのミュウワと俺の口調が、普段と逆になっている。
こんなことになれば、流石の俺の目も座るわ。
ということで、扉の横の壁に、ミュウワ=エズと筆で書いた紙をペタリと貼る。
本日のイベントの残りは、夕方の握り飯タイム以降だ。
で、今回の教訓。
今後深く関わりそうな相手の名前を聞くタイミングは、初顔合わせの時以外は、人生において大きな損害をもたらすぞ!
流石に大掛かりな工事のため、すぐには取り掛かることはできなかったようだった。
数日たってから工事が始まった。
前回と違って、工事現場は屋根裏部屋との間に、防音を施しているプレハブがある。
いくらかは音は抑えられているが、振動までは止められない。
「建物を建てる作業なのに、結構静かなんですね」
「窓の外見るの禁止な。中を見られると、工事の人達仕事にならなくなっちゃうかもしれないからな」
俺の忠告にびくっとして窓から遠ざかる鬼の娘。
普段は理性的な面を強く押し出してるから、感情が先に立って動くちょっとした仕草が妙に可愛い。
「でも、至る所が四角い場所って珍しいですね」
たしかに天井、床、壁、どこを見ても四角が基準だ。
「私の所では、例えば天井は上向きの曲面になってたりしますから」
いわゆるドーム型だな。
二階、三階と上に伸ばすには、直方体とか立方体にしないと作れないからな。
「ま、いずれ外を見るのはしばらく勘弁してくれ。ここよりも広い窓をつけてもらうことにしたから」
「コウジさんの世界が、今までよりも広く見ることができるんですね」
まぁな、と短く答える。
今までだって、外は見れたじゃないか。
もっとも山に迫る方向だから、パノラマって訳にはいかないがな。
そんなことよりもだ。
「外で何があっても、中で何が起こっても、やって来る怪我人は途切れることはないぞ。一度に二升の米研ぎも楽じゃないだろ? 楽じゃない分時間もかかる。頼むぜ?」
何があっても、普段と変わらない一日は常にあり、それが続く。
故に仕事の手は抜けられない。
そしてこれまで通り、押し掛け共もやって来る。
が、初めて来る者達でも、何かの作業中ということは分かるようで、前回きた緑色の女ほど強烈な奴はいなかった。
喜ばしい事ではあるが、そもそもそんな奴には来てほしくはない。
※※※※※ ※※※※※
とうとうその日がやってきた。
その日の午後、雑貨屋の方で客が来た。
と言っても店の客じゃない。
プレハブを作ってくれた業者からの請求書。
しっかり一括で現金払い。
そして残る作業は、プレハブの方から出入り口を作り……。
「ふう……。扉はこれで完成。鍵は南京錠でいいだろ。俺とお前と一つずつ。もっとも俺はここを毎日使うかどうか分からんがな」
名目は一応彼女の部屋だ。
好き勝手にしていい。
なんせこの世界での、こいつの生活拠点。
唯一くつろげる場所だからな。
だからこそ、いくら俺と二人でも使える部屋と言っても、軽々しく俺が足を踏み入れていい場所じゃあない。
そして、そんな場所であることを、ここに来る連中にも知らしめる必要がある。
「表札付けとかないとな。でないと、またこないだみたいな奴が来て勝手に使われる。俺の家なら異世界の連中は誰も入って来れないが、そんな感じにしたらお前も入れなくなっちまうしな」
「表札、ですか」
ないのかな?
世界が違えば文化も違う。
知らなくて当たり前のことも多いからな。
「自分の名前とか苗字を書いて、入り口の見やすい所に付けておくんだ。その人の許可なくして自由に立ち入りはできないという主張になる」
名前を書いて貼るだけだから、とりあえず紙に筆ペンか何かで書くか。
レタリングはあまり上手じゃないし、筆の文字の方が見栄えはいいだろう。
お金に余裕があれば印鑑屋さんにでも注文してもいいし。
「で、名前は?」
「あ、えーと……。あ……」
「ん? どした」
「……私……コウジさんに初めて名前、聞かれました……」
いや……、あのさ……。
赤面する場面じゃないだろ、今は。
※※※※※ ※※※※※
ミュウワ=エズ。
カウラの曾孫は、彼女の玄孫の俺にそう名乗った。
けどな。
何で名前を聞き出すのに、三十分以上時間かかっちまったんだよ!
カウラに直接聞きに行った方が早かったわ!
握り飯作りで追われる毎日の中で、ゆっくり休める僅かな自由時間を削られた。
もうやめてくれ!
俺の今日の残りの自由時間はゼロ……。
「あ、あの……」
「うるせぇ、米研げ」
顔を真っ赤にしたままのミュウワと俺の口調が、普段と逆になっている。
こんなことになれば、流石の俺の目も座るわ。
ということで、扉の横の壁に、ミュウワ=エズと筆で書いた紙をペタリと貼る。
本日のイベントの残りは、夕方の握り飯タイム以降だ。
で、今回の教訓。
今後深く関わりそうな相手の名前を聞くタイミングは、初顔合わせの時以外は、人生において大きな損害をもたらすぞ!
0
お気に入りに追加
433
あなたにおすすめの小説
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
王家から追放された貴族の次男、レアスキルを授かったので成り上がることにした【クラス“陰キャ”】
時沢秋水
ファンタジー
「恥さらしめ、王家の血筋でありながら、クラスを授からないとは」
俺は断崖絶壁の崖っぷちで国王である祖父から暴言を吐かれていた。
「爺様、たとえ後継者になれずとも私には生きる権利がございます」
「黙れ!お前のような無能が我が血筋から出たと世間に知られれば、儂の名誉に傷がつくのだ」
俺は爺さんにより谷底へと突き落とされてしまうが、奇跡の生還を遂げた。すると、谷底で幸運にも討伐できた魔獣からレアクラスである“陰キャ”を受け継いだ。
俺は【クラス“陰キャ”】の力で冒険者として成り上がることを決意した。
主人公:レオ・グリフォン 14歳 金髪イケメン
セラルフィの七日間戦争
炭酸吸い
ファンタジー
世界と世界を繋ぐ次元。その空間を渡ることができる数少ない高位生命体、《マヨイビト》は、『世界を滅ぼすほどの力を持つ臓器』を内に秘めていた。各世界にとって彼らは侵入されるべき存在では無い。そんな危険生物を排除する組織《DOS》の一人が、《マヨイビト》である少女、セラルフィの命を狙う。ある日、組織の男シルヴァリーに心臓を抜き取られた彼女は、残り『七日間しか生きられない体』になってしまった。
異世界に転生したら俺が二人になってた。[新生版]
TOYA
ファンタジー
長編 [異世界 王道冒険ファンタジー]
「異世界・努力・勝利」な展開!
剣術特化の俺と、魔法特化の俺! 双子だけど両方俺の物語。
異世界に[ヒト族]フィアンとして生まれた俺。
双子のネビアと共にこの世界で最強の種族[天族]に覚醒する為に奮闘する物語。
ネビアも異世界から転生してきた人物だったが、なんと元は同じ俺だった!
何度も敗北しながらも成長していく二人の行動は、徐々に国を巻き込み、世界全体にも大きな影響を与え始める。
そしてこの世界の歴史や真実、フィアン達の生まれ変わった理由が物語が進むにつれ、徐々に明らかになっていく。
※この作品[異世界に転生したら俺が二人になってた。」を大幅リメイクした作品です。
異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。
みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・
サフォネリアの咲く頃
水星直己
ファンタジー
物語の舞台は、大陸ができたばかりの古の時代。
人と人ではないものたちが存在する世界。
若い旅の剣士が出逢ったのは、赤い髪と瞳を持つ『天使』。
それは天使にあるまじき災いの色だった…。
※ 一般的なファンタジーの世界に独自要素を追加した世界観です。PG-12推奨。若干R-15も?
※pixivにも同時掲載中。作品に関するイラストもそちらで投稿しています。
https://www.pixiv.net/users/50469933
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
転生王子の異世界無双
海凪
ファンタジー
幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。
特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……
魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!
それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる