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未熟な冒険者のコルト

以蔵のおかげの、屋根裏部屋の秘密

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 俺にとっちゃ些細なことだったから気にしなかったんだよ。

 屋根裏部屋の真下は雑貨屋の売り場。
 でも面積は部屋の方が狭い。
 けど建物の外壁は垂直でまっ平。
 狭い分壁が凹んでるってことはない。
 でもそこに部屋が一つ作ることができたとして、何の役に立つかってな。

「コウジ……。お主、指輪は受け取っておるのかの?」

 また訳分かんないことを。
 指輪?
 一体何の話だ?

「すまん。何言ってるのか全く分からん」

 ……そんな申し訳なさそうな顔をされてもな。
 それに俺が知らねぇこの部屋の秘密を知ってるってのはどういうことだ?

「ひょっとして、元々この店はあんた……サーニャっつったか? の物、とか言うんじゃねぇだろうな?」

 首を横に振ってる。
 流石にそれは違うか。

「……恩をいつまでも忘れぬように、いつもその指輪の予備を携えておるのだが……」

 縁がある者が死んで大分経つ。
 面識がないから特に何の感情も湧きあがらないが、こいつはそうじゃないんだよな。
 喪に服したい気持ちは分からんでもない。
 けど気になることを言われたら、それは後ででもいいじゃないかと思わなくもなかったり。

「これがその指輪じゃ」

 ……何と言うか……。BCGのあれ?

 丸い縁。真ん中が窪んでいて、五本の短い針が中にある。

「こっちに来て見るがよい」

 俺の家を他人に案内されてる俺。
 それを見守る異世界人達。

 何だこのシチュエーション。

「コウジ。この壁を観察したことはあるか?」
「いや、そんな暇はなかったし、触ったことは何度もあったけど何の変哲もない壁だった、としか……」
「……ここに穴があるのは気付かなかったか?」

 小さい穴が五つある。
 電気のコードとかを止めるための針の穴か何かとしか思ってなかった。
 そうでなければ、虫が齧るなりしてできた穴かと。

 ってことは、その穴の位置は……。

「この指輪を指にはめて、その穴に押し当てる。すると……」

 壁の一部が透明に……。
 その向こうに部屋が……。

「こ……れは……」
「……妾が幼き頃、イゾウが助けてくれた。二度も三度も。礼を言っても、その気持ちが伝わらんように思えた。礼を聞いた先から受け流す、そんな感じだったのぉ……」

 ……分かる。
 礼をいくら言われても、それをいちいち聞いてたら時間の無駄。
 そんなことが何回もあった。
 だからもう聞き流すしかなかった。

 時代が進んでもやることは変わらない。
 なら、世代を越えてもその気持ちは何となく分かる。
 祖母ちゃんは喜んでそんな苦労は受け入れてくれたようだったが。
 孫が増えた、って感じだったんだろうけどなぁ。

「だから、イゾウの力になりたい、と心の底から思うた。だからイゾウの仕事を観察しておった。そのうち食糧の工面で悩むことが多いことに気付いてな」
「……それが……ここと何の関係がある?」
「イゾウにも伝えたが、複造の間と呼ぶがよい」
「フクゾウ?」
「うむ。同じ物を所望する物をここに半日置いておけ。一つの物が二つになる。五つの物は十になる」

 倍になる?

「ただし空きを半分以上にしておくこと。でないと部屋が壊れるからの」
「……つまり、米が詰まった米袋を入れると……」
「一袋入れると二袋になるということだの」

 いつまでも増え続けるってことじゃねぇの?
 米の心配しなくてもよくなるんじゃねえか!
 何でそんな大事な事、俺に教えてくれなかったんだよ!

「ただし、腐った物を入れれば腐った物も増える。毒物を入れるとそれも二倍になるということじゃ。処分に困る物は入れないようにな」

 万能じゃないってことか。
 賞味期限内に消費できる物以外は入れちゃまずいな。

 ……コルトを入れたらどうなるんだろうか。

「食べ物以外は効かないからな? いたずらしそうな顔をしておるぞ?」

 バレた。
 いや、だがマジな話、これは助かる。
 米……いや、具や海苔も余分に買わなくて済むってことだよな。

「ここに迷い込む者がいたずらに入られても困るじゃろ? イゾウだけが入れるように、イゾウにこの指輪を託したのだが次の代には伝えられなかったか……」
「だが、俺はあんたに何もしてやってねぇんだが。……それでもこの指輪を俺に?」
「左様。この部屋があり、この部屋で多くの者を助ける主がいる限り支えよう、とな」

 自分でそう決心したらしい。
 俺は当事者じゃないからピンとこないけどさ……。
 それだけ感謝の気持ちが厚いってことなんだろうな。

「……倍増するってのは正直助かる。有り難く使わせてもらう」
「うむ。……それから、いい相棒を迎え入れたようだの。いつまでも末永くな」

 おい。
 言い回し。

「はいっ!」

 コルトっ!
 お前が答えてどうする!

「末永くって……俺の世界の住人じゃねぇし。あ、女王ならあんたに匿ってもらえたらいいよな……って」
「無理に決まってるでしょっ! その扉、開かなかったまま入ってきたんだから」

「噂は聞いておる。欲しい人材ではあるが、住む世界が違えば流石に妾とてな」

 ムリだよなぁ。
 ま、いっか。
 長きにわたって俺の頭を悩ませ続けてきた難問が解決しそうだからな。
 期間内に間に合うなら、今までの三分の一とか四分の一の食料で賄えるってことだよな。
 有り難い話だ。

「……時々様子を見に来なければ、余計な苦労をさせてしまいかねんな」
「まぁ……人はいつ死ぬか分かんねぇからなぁ。年に一度くらいでいいんじゃねぇか? …つってもそっちが忙しくなければ、だが」
「ふふ。問題ない。ではまた来るまで達者でな。……あぁ、妾の世界の者がこの中にも何人かおるようじゃ。他の者と同じように扱ってくれて構わぬからの? ではな」

 ボディガードと思しき者と一緒に去っていった。
 冒険者達はようやく緊張から解き放たれたって顔をする。
 そんなに畏れ多い相手だったんか?
 ま、いいけどさ。

「良かったですねっ! コウジさんっ!」
「……あぁ。まぁな」

 俺のことを喜んでるコルトなんだが、何となくいつもと違う印象が……。

 ……まぁ、気にすることでもないか。
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