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未熟な冒険者のコルト

言葉は大事だが、行動の方がうれしいこともある

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 それは、弓戦士がコボルトの少年の頭を拳骨で殴った音だった。
 殴られた子供は頭を抱えながら、驚いて弓戦士を見上げてた。

 殴りてぇ。
 確かに俺はそう思った。
 けど流石に、そんなでかい音を出すほどに強く殴りたいとは思ってなかった。
 コルトも俺と一緒に弓戦士のことを呆然となりながら、ただ見ていた。

「どこかの店の店員と一緒にすんじゃねぇ! この人の握り飯で何人の命が助かったと思ってる!」
「知るかよっ! それより……」
「知らねぇなら教えてやる! この人はな、いろんなところで救世主なんて呼ばれてる人だぞ! 偉そうなことしか言えねぇお前が、馬鹿にしたり見下したりしていい人じゃねぇ!」

 俺のいない所で救世主呼ばわりされてることは知ってたが、臆面せずに堂々と言われるとほんと恥ずかしい。
 勘弁してくれ。
 けど周りの冒険者達は、みんな弓戦士に同意の態度。
 コボルトの子供の目にはみるみる涙が溜まる。

「コウジさん……」
「ん?」

 コルトが俺の方を見ている。
 なんか、目がキラキラしてるんだが。

「私、コウジさんのお手伝いができて光栄ですっ」
「やめんか」

 どいつもこいつも俺に振り回されっぱなしじゃねぇか。
 かく言う俺はこの子供に呆れてる。
 ある意味、俺はこいつに振り回されてるんだよな。

「うるせぇ! 俺の父ちゃんの方がもっとすごいんだ!」

 出たよ、斜め上の発想の……

「だからどうした! お前の父親はすごい人だろうよ! けどそれがここで何の役に立つ?! この部屋の中じゃどんな奴だって助けてもらう側! コウジは俺達全員を助けてくれる側なんだよ!」
「はぁ? 何を言って」
「お前だってこいつの作る握り飯で命を救ってもらっただろうが!」

 うるせぇ!
 こいつにでかい声を張り上げるのはいいが、俺らの耳にも入って来るんだっつーの!

 ……で、子供の方は何も言い返さない。
 言い返したくても言い返す言葉がない、そんな感じだ。

 ようやく静かになったけどさ。

「……おい、お前」
「……何だよ」

 こういう時は定番の一言が付きものなんだがな。
 ちょっと突いてみるか。

「『誰も助けてくれなんて言ってねぇよ』の一言が出るのを待ってるんだが」

 自虐の燃料投下してみる。

 俺の袖が何度か軽く引っ張られた。
 そっちを見ると、コルトが怖い顔して睨んでくる。
 その顔も可愛げがあるが……。

「コウジさん、ニヤついた顔で変な事言わないでください」

 声が冷たくて怖い。
 弓戦士も他の冒険者も俺の方を見てる。
 ごめんなさいもう変な事言いません勘弁してください。

 それにしても、子供は全く何も言わなくなった。
 叱られた相手によっては説得力が増すってことかね。
 餅は餅屋……とは違うか。

「コホン。あー……、まず名前のことだがな、覚えたってあまり意味ねぇんだ。何度もここに来る奴はいる。けど一回きりしか見てねぇ奴もいる。むしろそっちの方が多い。俺と顔見知りになって得することはまずない。だから覚える気はない」

 微妙な空気にしてしまった。
 やっぱ、俺がこの場を何とかしないといけないんだろうな。

「こいつだけは別だ。貢献してくれてるからな。お前が欲しがるうどんをこいつにだけ食わせてるのも、俺からの厚意だ。っていうか」

 むしろ俺が何とかしてやりたかったわけだが、周りからの言質が欲しかったんだよ。
 だから。

「給料とかが出せないなら、何か手当て出してやったらどうだって責められたんだよ。俺が出来ることと言ったらそれくらいしかないからしただけ」

 コボルトの子供は、俺の真正面にいる弓戦士の方を向いてうなだれてる。
 俺の話を聞いてるんだろうが、俺は別に聞いてもらおうが聞いてなかろうが気にはしない。

「誰もしようとしなかったことをしてくれた。多分こいつにしかできないことをしてくれてる。毎日だ。お前は父親のことを自慢してたな。自分の子供が自分のことを自慢してるって知ったら、喜ぶだろうな」
「当たり前だ! 世界一の父ちゃんだからな!」

 俺の方を振り向いてムキになっている。
 何を基準に世界一と言うのか分からん。
 子供特有の世界に浸ってるんだろうな。
 可愛いもんじゃないか。
 けどな。

「その親、家族から故郷から追い出されたんだよ。このエルフっ子は」
「お、追い出された?」
「そ。そして冒険者仲間からも見捨てられた。元の場所に戻るにゃ、こいつ一人じゃとても手に負えない魔物が待ち構えている」

 よくよく考えると、どっちを向いても絶望的じゃないか。
 自分の世界に帰るのが一番いいとは思うが、こうして理路整然と考えると、このままここで老いるってのも不正解じゃないかもしれん。

 老いるまであと何年かかるか分からないけどな!

「お前には、お前の父親という帰れる場所があるんだろうが。お前の帰りを待ってる人がいる。お前の自慢の父親に、あまり無駄な心配させるんじゃねえよ。ここに来たこと自体、現地じゃ大慌てどころの話じゃないだろうからな」

 ……何か微妙な雰囲気は変わらないままって感じがするな。
 どうしようこれ。
 まぁ俺が変なことを口走ったせいだけどな。

「本当の話かどうかは知らない。だが、故郷を追い出されたという話は聞いたことがあるんじゃないか? ここにずっと居続けるよりは、ここで十分休養を取って、それから現地の窮地を脱出する方がマシだろ? けどその子はその窮地を抜けて日常に戻れたとしても、そこでも人より苦しい毎日が続く。無事に戻ってくることを待ってる人もいない。ならコウジさんのそばにいる方が幸せな毎日を送れるというのも納得できる。お前はどうなんだ?」

 弓戦士の顔と声がさっきまでと違い、穏やかになった。
 締める時は締めるねぇ。

 子供からの反応は特にない。
 横を向いてしょげたまま。
 俺から見えたそいつの顔は悲しげに見えた。
 それだけで十分だ。

「コルト、いつも通りの仕事頼むわ。握り飯作って来る」
「あ、はい。行ってらっしゃい」

 コボルトの子供からは謝罪の声はなかった。
 別に謝ってほしいなんて思っちゃいない。
 むしろ、気持ちを改めて、それをあの部屋にいる間、そして部屋から出た後の行動に表してくれりゃ文句はないさ。
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