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近衛兵ギュールス=ボールド
夕刻の出撃 急場から窮地へ
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その日の夕方、緊急出動の要請がかかった。
昨夜の出撃があったにも拘らず部隊の消耗がほとんど見られないということで第一部隊が出動。そして外回りから戻ってきたばかりだが、戦力的損害は全く見られないということから、第五部隊も出動することになった。
険悪になりつつある二部隊の出動を決定したのはエリアード元帥の指示。
現場を見ているロワーナは別の部隊をと請願するが、深夜の出撃の報告書のみから判断されたエリアードの討伐計画案が周りからも推され、押し通された。
エリアードも、近衛兵部隊の上位と下位との力の差があり、それが作戦計画の足枷になっていることは分かっていた。
その差をなるべく減らすことでどの部隊にもどんな任務でも充てられるよう、この出撃でも下位の部隊には上位の部隊の戦い方を見て学んでほしいという親心の様な思いを持ったうえでの采配であった。
出撃前の団長室の雰囲気は悪い。
第七部隊の抗議の意の的は、言わずと知れたギュールスに向けられている。
そんな雰囲気を覚悟の上でその指示を了承したのは要請の内容のため。
傭兵部隊が撤退中、魔族の後詰の攻撃に遭う。
国軍の一隊が防戦に当たるがその数五十。
種族は、体を斬られても稼働できる関節がある限り襲い掛かることを止めないスケルトンである。
近衛兵でなくても、普通の飛行部隊などでも応援に駆け付けられるのだが、ロワーナはその現場を知ってうさん臭さを感じた。
その場所は、深夜第六部隊が出動要請をしてきた砂浜に近い林道。
ギュールスが待機していた林の中だが、その林は浅いが広い範囲にわたっている。
「魚の魔族で我々の戦力を測り、今回本腰を入れて襲撃してきたとか……」
「ならば未知の魔族を動かすだろう。スケルトンという知名度の高い魔族だ。対処の仕方も比較的知られている。だが数は多い」
雰囲気の悪い団長室で、長々と憶測の議論を続けていても何の実りもない。
出動要請をしてきた現場の状況を好転させるには、まずは現場に到着しないと何も始まらない。
無駄口を許さずに手順の計画を立て、二部隊はすぐに飛竜の待機所に向かった。
幸い出動命令が出されたのは近衛兵ばかりではなかったようで、そこにはすでに異なる兵科五部隊も移送部隊の飛竜を待っていた。
同じ部隊内なら連携は取りやすいが、現状の近衛兵部隊ではその五部隊とのどれかと連携を組んだ方がむしろ無難である。無理に近衛兵の二隊を一緒に行動させる必要もない。
おそらくエリアードが近衛兵達の様子を聞いて、余計な場外乱闘は避けられそうな計らいをしたのだろう。
自分の報告は決して無駄ではなかったと、ロワーナは飛竜の中で安堵する。
その五部隊がそれぞれ飛竜の移送部隊に搭乗。現場に向かって飛び立ったあと、近衛兵部隊も部隊ごとに飛竜で移動。
海岸が隣接する林を抜けた草原に飛竜は着陸し、二部隊はその場に降り立った。
しかし何やら騒がしい。
巡回していた部隊やその付近に滞在していた部隊から、例の砂浜から新たな魔族が出現したという情報が入る。
間違いなく合流する行動をとっているということから、傭兵部隊の撤退援助と軍への加勢という予め想定された事態への対処のほか、その魔族への攻勢をかける必要も生じたのである。
増援が現れた砂浜で戦った経験があるのは第一部隊のみ。
ロワーナは近衛兵の代表としてその五部隊の隊長達と合流し現場での打ち合わせを始めた。
「スケルトンが六十体……一体どこから次々とそんな……」
「出現しやすい場所ということではないな。ここから現れたという情報は、昨夜と今回の二回だけ。もっとずっと前からしょっちゅう魔族が現れる地点はある。だが……」
「根拠のない推測は、どうしても良くない方向に想像が働くぞ。その辺にしておけ」
打ち合わせを終えたロワーナが近衛兵が集合している場所に戻ってきた。
「第一部隊は砂浜にいる魔族の増援の殲滅。第五部隊は傭兵の救援だ。他の出動部隊の飛行部隊と林間部隊は第一と共同。他の歩兵の武装二隊と魔術兵一は第五と当たることになった。戦力が危ない方に、もう片方が戦力を割いて援軍に行く。大まかな作戦は以上だ」
その草原の全員がいる位置は、その二つの現場の中間位置。
その二つの地点には林に囲まれているため、二か所の現場からは草原の様子は見えず、草原からも現場は見えない位置関係である。
草原の中でそれぞれに近い位置に二手に別れ、各々作戦会議が始まる。
近衛兵第五部隊の方は、単純な段取りである。
まず傭兵部隊を現場からなるべく遠ざける。追手の魔族を足止めしながら軍の部隊に加勢。
傭兵部隊がその場から離脱したら、その後魔族に対して殲滅に全力を傾ける。
第一部隊の方は、林の死角を利用し、各個撃破を狙う。
前回の林間からの攻撃の評価から、林間兵とギュールスが林の中で待機。
飛行兵は一撃離脱を繰り返す。
第一部隊はそれぞれの判断で有効な攻撃を繰り出す作戦をとった。
それぞれ行動を開始する。
第五部隊をリーダーとする四部隊は林の中をなるべく早く突っ切ると広い野道に出た。
そこには撤退をしようとするがけが人が多い傭兵部隊と、その盾になろうと防御の布陣を組む国軍の国内巡回部隊がいる。
スケルトン五十体は遠くない位置にいるとは言え、接近する行動に早さは感じられない。
とは言ってもその距離を引き離すことも出来ない。
このまま迎撃に向かうのも悪くはないが、討ち漏らしがあるとどうなるか予想もつかない。
「おぉ、援軍か! 有難い! 防御に徹することが出来るなら我々だけで何とかなる。後ろの傭兵部隊の援護を頼む!」
巡回部隊の声が近衛兵第五部隊達の方針の維持を後押しする。
まずは傭兵達が負った傷の軽いものはその場で治癒し、少しでも早く移動が出来るための処置を施す。
歩兵部隊達はその場でも防御線を張る。傭兵達を守る防衛ラインが二重になったため、いくらかは彼らにとって安全な時間が増えるはずである。
だが事態は急変する。
スケルトンの進撃速度が急激に上がったのである。
「け、計算がくるってしまいます!」
「落ち着け! まだ距離はある! 傭兵部隊の離脱を優先しろ!」
第五部隊隊長のネーウルは、全員をまず落ち着かせる。
魔族の動きを察知した歩兵全部隊は防御線を押し上げる。防衛線を強化することで傭兵達と魔族との接近する時間を長引かせると同時に、巡回部隊の安全の確保も図る。
しかし軽い怪我でも治癒をする時間をとるのも難しい。
傭兵達を完全に避難させるには、見晴らしがいい野道の撤退より飛竜が到着した、林に囲まれた草原の方がまだ安心できるが、草原に出るまでスケルトンの集団を振り切れるかどうか。
「魔族たちだけで移動の速さを変えることは考えられません」
「指揮する者がいる、ということか……。やむを得ん。団長にその可能性の報告とさらに戦力をこっちにいくつか振り分ける要請を」
「了解です!」
明るい先行きは見えない。
巡回部隊と傭兵部隊に加勢が現れたものの、スケルトンは移動速度を変えただけで、加勢した部隊ごと劣勢に追い込んでいった。
…… …… ……
砂浜では第一部隊が中心となり、火炎による魔法と、氷結からの破壊で各個撃破していく。
その撃破は飛行部隊の戦力も加わる。
しかし二十人も満たない戦力で、その三倍以上ある個体のスケルトン撃破には時間がかかる。
たとえ林の中に林間兵とギュールスが控えていたとしてもだ。
しかし苦戦というほどではない。
ギュールスが作った特製の道具を全員が装備。
いつもの力よりも上回る攻撃力と防御力でうまく立ち回っている。
しかし第一部隊のメンバーには全く想像もしない危機が訪れ始めていた。
林の中で待機しているギュールスに、ロワーナから通信が入る。
ギュールスが作ったティアラに、ギュールスと直接通信が出来る機能を持たせてあった。
「傭兵救出斑から依頼があった。スケルトンの軍勢が新劇速度を上げたらしい。今お前の手が空いているならそっちに回ってくれないか」
ギュールスは躊躇する。
第五部隊には好印象を持たれていない。
そんな自分が合流したら、足並みが乱れるところではない。
かと言って、今魔族の増援軍に対処している第一部隊の誰かや飛行部隊に向こうに回ってもらうことは、魔族の侵攻に勢いを与えてしまう。
林間兵は林の中での移動は早いだろうが、ここでの魔族の侵入を完璧に防ぐことは出来なくなってしまう。
「ギュールスが援軍に回ることは彼女達に報せておく。心配するな」
ロワーナからの通信で意を決したギュールスは、林間兵達にそのことを告げ即時移動を開始する。
しかし、この通信は言葉足らずでさらに混乱に追い込むことになってしまう。
そんなことはこの時点では夢にも思わないギュールスは、救援を望む傭兵救出斑の下に急いだ。
昨夜の出撃があったにも拘らず部隊の消耗がほとんど見られないということで第一部隊が出動。そして外回りから戻ってきたばかりだが、戦力的損害は全く見られないということから、第五部隊も出動することになった。
険悪になりつつある二部隊の出動を決定したのはエリアード元帥の指示。
現場を見ているロワーナは別の部隊をと請願するが、深夜の出撃の報告書のみから判断されたエリアードの討伐計画案が周りからも推され、押し通された。
エリアードも、近衛兵部隊の上位と下位との力の差があり、それが作戦計画の足枷になっていることは分かっていた。
その差をなるべく減らすことでどの部隊にもどんな任務でも充てられるよう、この出撃でも下位の部隊には上位の部隊の戦い方を見て学んでほしいという親心の様な思いを持ったうえでの采配であった。
出撃前の団長室の雰囲気は悪い。
第七部隊の抗議の意の的は、言わずと知れたギュールスに向けられている。
そんな雰囲気を覚悟の上でその指示を了承したのは要請の内容のため。
傭兵部隊が撤退中、魔族の後詰の攻撃に遭う。
国軍の一隊が防戦に当たるがその数五十。
種族は、体を斬られても稼働できる関節がある限り襲い掛かることを止めないスケルトンである。
近衛兵でなくても、普通の飛行部隊などでも応援に駆け付けられるのだが、ロワーナはその現場を知ってうさん臭さを感じた。
その場所は、深夜第六部隊が出動要請をしてきた砂浜に近い林道。
ギュールスが待機していた林の中だが、その林は浅いが広い範囲にわたっている。
「魚の魔族で我々の戦力を測り、今回本腰を入れて襲撃してきたとか……」
「ならば未知の魔族を動かすだろう。スケルトンという知名度の高い魔族だ。対処の仕方も比較的知られている。だが数は多い」
雰囲気の悪い団長室で、長々と憶測の議論を続けていても何の実りもない。
出動要請をしてきた現場の状況を好転させるには、まずは現場に到着しないと何も始まらない。
無駄口を許さずに手順の計画を立て、二部隊はすぐに飛竜の待機所に向かった。
幸い出動命令が出されたのは近衛兵ばかりではなかったようで、そこにはすでに異なる兵科五部隊も移送部隊の飛竜を待っていた。
同じ部隊内なら連携は取りやすいが、現状の近衛兵部隊ではその五部隊とのどれかと連携を組んだ方がむしろ無難である。無理に近衛兵の二隊を一緒に行動させる必要もない。
おそらくエリアードが近衛兵達の様子を聞いて、余計な場外乱闘は避けられそうな計らいをしたのだろう。
自分の報告は決して無駄ではなかったと、ロワーナは飛竜の中で安堵する。
その五部隊がそれぞれ飛竜の移送部隊に搭乗。現場に向かって飛び立ったあと、近衛兵部隊も部隊ごとに飛竜で移動。
海岸が隣接する林を抜けた草原に飛竜は着陸し、二部隊はその場に降り立った。
しかし何やら騒がしい。
巡回していた部隊やその付近に滞在していた部隊から、例の砂浜から新たな魔族が出現したという情報が入る。
間違いなく合流する行動をとっているということから、傭兵部隊の撤退援助と軍への加勢という予め想定された事態への対処のほか、その魔族への攻勢をかける必要も生じたのである。
増援が現れた砂浜で戦った経験があるのは第一部隊のみ。
ロワーナは近衛兵の代表としてその五部隊の隊長達と合流し現場での打ち合わせを始めた。
「スケルトンが六十体……一体どこから次々とそんな……」
「出現しやすい場所ということではないな。ここから現れたという情報は、昨夜と今回の二回だけ。もっとずっと前からしょっちゅう魔族が現れる地点はある。だが……」
「根拠のない推測は、どうしても良くない方向に想像が働くぞ。その辺にしておけ」
打ち合わせを終えたロワーナが近衛兵が集合している場所に戻ってきた。
「第一部隊は砂浜にいる魔族の増援の殲滅。第五部隊は傭兵の救援だ。他の出動部隊の飛行部隊と林間部隊は第一と共同。他の歩兵の武装二隊と魔術兵一は第五と当たることになった。戦力が危ない方に、もう片方が戦力を割いて援軍に行く。大まかな作戦は以上だ」
その草原の全員がいる位置は、その二つの現場の中間位置。
その二つの地点には林に囲まれているため、二か所の現場からは草原の様子は見えず、草原からも現場は見えない位置関係である。
草原の中でそれぞれに近い位置に二手に別れ、各々作戦会議が始まる。
近衛兵第五部隊の方は、単純な段取りである。
まず傭兵部隊を現場からなるべく遠ざける。追手の魔族を足止めしながら軍の部隊に加勢。
傭兵部隊がその場から離脱したら、その後魔族に対して殲滅に全力を傾ける。
第一部隊の方は、林の死角を利用し、各個撃破を狙う。
前回の林間からの攻撃の評価から、林間兵とギュールスが林の中で待機。
飛行兵は一撃離脱を繰り返す。
第一部隊はそれぞれの判断で有効な攻撃を繰り出す作戦をとった。
それぞれ行動を開始する。
第五部隊をリーダーとする四部隊は林の中をなるべく早く突っ切ると広い野道に出た。
そこには撤退をしようとするがけが人が多い傭兵部隊と、その盾になろうと防御の布陣を組む国軍の国内巡回部隊がいる。
スケルトン五十体は遠くない位置にいるとは言え、接近する行動に早さは感じられない。
とは言ってもその距離を引き離すことも出来ない。
このまま迎撃に向かうのも悪くはないが、討ち漏らしがあるとどうなるか予想もつかない。
「おぉ、援軍か! 有難い! 防御に徹することが出来るなら我々だけで何とかなる。後ろの傭兵部隊の援護を頼む!」
巡回部隊の声が近衛兵第五部隊達の方針の維持を後押しする。
まずは傭兵達が負った傷の軽いものはその場で治癒し、少しでも早く移動が出来るための処置を施す。
歩兵部隊達はその場でも防御線を張る。傭兵達を守る防衛ラインが二重になったため、いくらかは彼らにとって安全な時間が増えるはずである。
だが事態は急変する。
スケルトンの進撃速度が急激に上がったのである。
「け、計算がくるってしまいます!」
「落ち着け! まだ距離はある! 傭兵部隊の離脱を優先しろ!」
第五部隊隊長のネーウルは、全員をまず落ち着かせる。
魔族の動きを察知した歩兵全部隊は防御線を押し上げる。防衛線を強化することで傭兵達と魔族との接近する時間を長引かせると同時に、巡回部隊の安全の確保も図る。
しかし軽い怪我でも治癒をする時間をとるのも難しい。
傭兵達を完全に避難させるには、見晴らしがいい野道の撤退より飛竜が到着した、林に囲まれた草原の方がまだ安心できるが、草原に出るまでスケルトンの集団を振り切れるかどうか。
「魔族たちだけで移動の速さを変えることは考えられません」
「指揮する者がいる、ということか……。やむを得ん。団長にその可能性の報告とさらに戦力をこっちにいくつか振り分ける要請を」
「了解です!」
明るい先行きは見えない。
巡回部隊と傭兵部隊に加勢が現れたものの、スケルトンは移動速度を変えただけで、加勢した部隊ごと劣勢に追い込んでいった。
…… …… ……
砂浜では第一部隊が中心となり、火炎による魔法と、氷結からの破壊で各個撃破していく。
その撃破は飛行部隊の戦力も加わる。
しかし二十人も満たない戦力で、その三倍以上ある個体のスケルトン撃破には時間がかかる。
たとえ林の中に林間兵とギュールスが控えていたとしてもだ。
しかし苦戦というほどではない。
ギュールスが作った特製の道具を全員が装備。
いつもの力よりも上回る攻撃力と防御力でうまく立ち回っている。
しかし第一部隊のメンバーには全く想像もしない危機が訪れ始めていた。
林の中で待機しているギュールスに、ロワーナから通信が入る。
ギュールスが作ったティアラに、ギュールスと直接通信が出来る機能を持たせてあった。
「傭兵救出斑から依頼があった。スケルトンの軍勢が新劇速度を上げたらしい。今お前の手が空いているならそっちに回ってくれないか」
ギュールスは躊躇する。
第五部隊には好印象を持たれていない。
そんな自分が合流したら、足並みが乱れるところではない。
かと言って、今魔族の増援軍に対処している第一部隊の誰かや飛行部隊に向こうに回ってもらうことは、魔族の侵攻に勢いを与えてしまう。
林間兵は林の中での移動は早いだろうが、ここでの魔族の侵入を完璧に防ぐことは出来なくなってしまう。
「ギュールスが援軍に回ることは彼女達に報せておく。心配するな」
ロワーナからの通信で意を決したギュールスは、林間兵達にそのことを告げ即時移動を開始する。
しかし、この通信は言葉足らずでさらに混乱に追い込むことになってしまう。
そんなことはこの時点では夢にも思わないギュールスは、救援を望む傭兵救出斑の下に急いだ。
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