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近衛兵ギュールス=ボールド

それでも彼は相も変わらず

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 四人は本部に戻った後、ロワーナへ帰還の報告をする。
 外出している間、ロワーナはギュールスのために専用の部屋の用意を手配した。
 彼女の部下はすべて個室を持っている。『混族』としての扱いを受けていただろうが男性だろうが、今はロワーナにとっては部下の一人である。
 部下の一人ナルアを呼び出し、部屋への案内を指示を出す。
 ギュールスは外出前までのようにしり込みするようなこともなく、素直に彼女の後をついていき、部屋から退室する。

 団長室に残ったエリン、アイミ、ティルの三人は、ロワーナへ馬車の中でのギュールスのことを報告する。

「……そうか。調査の結果でも知り得ないことがまだあったのだな」

 生活の環境が違いすぎる皇族と『混族』。
 彼女ら三人からの報告は、ロワーナには想像もしていないこともあった。

「……『混族』という存在自体、我々からすればおとぎ話の世界のような気がしましたが、一人の人物として存在し、命と意思を持っていることを改めて実感しました」

「ただ、やはり彼の周りの環境については、実際に目にしないと信じられませんが」

「エノーラとメイファ、あるいはそのどちらかにも付き添わせるべきだったかと。まぁそれで彼の我々への印象などが変わるわけではないでしょうが」

 エノーラとメイファは、その立場を隠しながら彼を本部に召喚する前に接近した、この部隊の一員である。
 第一部隊が討伐のために出動する前に、一度全員と対面させる必要がある。その前に個々で会うことになるとわだかまりが起きるかもしれないということでそれまでは接触を避ける配慮をしていた。
 しかし記憶にないとなると、ロワーナの計らいも杞憂になる。

「今日の夕食は食堂で彼の歓迎会もかねて夕食会としようか。もっとも彼には一緒に食事をする意思があるかどうかは分からんが、同席ならできるだろう」

「となると、会場はどこにされますか? 個々の食堂にされますか? それとも施設内の食堂にされますか?」

 エリンの言う施設内の食堂とは、ギュールスの防具製造を依頼した防具屋があった辺りのことである。
 利用者の対象が制限されるため首都の繁華街ほどではないが、それなりに賑わいを見せる区域でもある。

「人目が多い所は慣れないだろうし利用者は我々だけではない。ここの食堂を手配してくれないか? それとティル、とりあえず明後日の出撃担当する部隊全員参加ということで夕食会の件を伝えてきてくれ。アイミ、ギュールスの部屋の案内が終わったらここにまた来るように呼び出して、ほかの第一全員にそのことを伝えてくれないか? ギュールスには私から伝えよう」

 ロワーナは続けてアイミにギュールスの部屋の場所を説明し、三人はそれぞれロワーナからの頼みを受けて退室した。

 ティルとエリンはロワーナからの頼み通りに事を済ませる。
 しかしアイミはギュールスを見つけられなかった。
 案内は既に終わっていた。
 案内をしたナルアとたまたま会う。

「彼なら部屋にいるでしょ? 案内終わったもの。物珍しそうに部屋の中見てまわってたけど?」

「じゃあそのあとどこかに出た? 案内板はあちこちにあるけど、どんな場所かまでは分からないから……一人で見学かな?」

「……ちょっと。そんな呑気なこと言ってらんないんじゃない? 無断で本部の外に出るのはまずいでしょ? 私達みたいに外見で近衛兵団の一人ってこと、誰から見ても想像つかないわよ?」

 ナルアの言葉に顔を青くするアイミ。

「本部から勝手に出ないようにって説明は団長から受けてたと思うけど……」

 注意を受けてもその通りに行動するかどうかは本人次第である。
 そして相手は自分たちの予想外の事ばかりをやらかす、問題児と言うには年齢が高すぎる存在である。

「わ、私が探すからナルアは気にしなくていいから。じゃっ」

 その場から駆け足で離れるアイミ。

 もしもどこかからの、いや、魔族のスパイだとしたら大した役者である。
 武力ばかりではなく知力や知性、魔力にも長けた団長を出し抜くことが出来るほどの危険人物ということになる。
 自身も馬車の中でギュールスの涙を見たのだから、その危機感は現実感が増す。
 すれ違う者達の会話が彼女の耳に入る。
 その度に全身から冷や汗が流れるのを感じる。
 そんな危険な事態に、何と呑気な会話が出来るものだろうかと、そんな者達の神経を疑う。

 本部の敷地内に綺麗な花が咲いているとか、他国の情勢とか、今はそれどころじゃないだろう、とアイミは一人、悶々とした思いと焦りで心の中が占められる。
 噴水がある中庭の芝生をきれいに残して雑草だけが除草されるなど、なんと危機感の欠けた話だろうか。

 そこで立ち止まる。
 噴水と雑草……。
 アイミは思い出した。
 ケイナからの報告で、中庭の雑草を食べ、噴水の水を飲もうとしていたことを。
 アイミはまさかと思い、中庭を目指して駆け出した。
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