slow

本野汐梨 Honno Siori

文字の大きさ
上 下
8 / 13

先生に受験戦争は関係ない

しおりを挟む

 僕は、志望していた私立大学をAO入試で受けることになった。
 地元だし、実家から通えるし。
 あと、実は先生の住んでいる家の近くでもある。

 自分の進みたい学部に関する事で、特に興味があることを調べてまとめて発表する。僕は、悩んだけど農学部に進学する予定だ。


 さほど難しく無い内容だったが、人前で話すなんてあんまり経験がないから、僕は一生懸命練習することにした。

 もちろん、先生に練習を見てもらう。

 2人で生物室に引き篭もって練習する。

 発表用のメモ用紙をできるだけ見ないようにして、喋る。


「先生、どう?」

「君の割にはハキハキしていい感じ。」

 これは褒められたのか?《君の割には》という苦言に引っかかる。

「先生、本当に褒めてる…?」

「褒めてるって。」

(本当はあんまり褒めてないな、、)


 先生は、物事を良くも悪くもはっきり言ってしまうタイプだ。
 僕の割には良いというのは、本当なのだろう。つまり、一般的に見れば悪いってことだ。


 自分でも正直悪いのはわかっている。
 せめて、人前で喋る時にモゴモゴする癖をなんとかしなきゃ。

「先生、どうすればいい…?」

 実はもう、試験まで時間がない。
 ここは、この世で1番、僕にハッキリと物事を言ってくれる上に信頼できる上に大好きな先生に教えを乞うしかない。


「どうってね…。」

 先生は、肘を机について手のひらに自らの顎を乗せた。
 考えているポーズ。


「うん、どうすればいい?もう、時間ないし。正直、僕の学力じゃあ一般入試では入れないし。」

「別の大学にすれば?君なら県内でも文系の私立で入れるところあるじゃない。もう、そっちにしちゃいなよ。大変でしょ?こんなことするの。」

 あ、出た。先生の悪いところ。
 僕、ちょっと傷ついちゃった。

「そんな…。身も蓋もないじゃないですかぁ…。」

 実は、先生は生徒の学歴に興味がない。
 これは、僕も例外ではない。

 先生は、教えるのが楽しいから教師になったらしい。だから、自分から教える側であればそれでいい。
 教師をクビにならなければ、それでいいのだ。


「先生。そんなこと言ってたら出世できないですよ!僕を農学部に入れてくださいな!」

「君だって他力本願すぎるよ。もっと努力しなよ~」

「だって~」

 僕はもう何をどうすればわからないのだ。
 先生を甘えた目で見つめてみる。
 先生は、僕に興味がなさそう。
 考えてはいるみたいだけど。

 沈黙が続く。

「とりあえず、練習しますね。だから、付き合ってください。」

 どうしようもないみたいだから、僕は練習の続きを始めようとした。

 すると…


「あ、一つあるよ。」

「え!なになに!なんかあるんですか?」

「メンタルだね。」

「メンタル?」

「そう、合格できるって信じたり、念じたり、思うこと。絶対できるって。まぁ、ポジティブ?前向き?に考えたらいいのよ。」

「はぁ。そうですか。」

 何を言ってくれるかと思ったら、そんな適当なアドバイスだったなんて。
 ちょっとがっかり。というか、呆れ。

「あ、バカにしたね。」

 僕の残念そうな顔を見て、先生はちょっと怒った様な顔をして見せた。

「本当に、メンタルって大事だから。信じてみなよ。」

「まぁ、わかりました。」

 先生が言うなら仕方がない。

 僕は、「できる、できる」って念じてみることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

М女と三人の少年

浅野浩二
恋愛
SМ的恋愛小説。

シチュボ(女性向け)

身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。 アドリブ、改変、なんでもOKです。 他人を害することだけはお止め下さい。 使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。 Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...