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コンビニバイトで出会ったヤバい奴

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 俺、コンビニでバイトしてるんだよね。
 コンビニの怖い話って、夜勤の人のイメージあるかもだけど、俺は日勤専従。


 これは、外が大雨の日。俺が客足の少なくなった15時頃に濡れて汚れた店内をモップで掃除してた。

 都会ならこのくらいの時間でも客がひっきりなしに来るかもしれないけど、ここは田舎のコンビニ。お昼時が終わると人が一気にいなくなる。かれこれ30分くらい客は誰も来ていなかった。
 
 客がいなくて暇なのでもう1人一緒に勤務していたおばさんも掃除をしていた。

 
 自動ドアが開く音と客の入店を知らせるチャイムが鳴り響いた。

 俺は振り向いて客を見て「いらっしゃいませ」と声を掛けた。
 明らかに、浮浪者みたいな小汚い男が店内に入ってくるのが見えた。
 まっすぐに俺の方に向かって歩いてくる。
 ボロボロの服装、ちょっと匂う体臭、冬なのに焦げたように真っ黒の肌、おでこには汚いタオルを鉢巻のように巻き付けていて、耳の穴には一円玉がピッタリハマっていた。
 
 異様な姿に、俺は引いてしまって、思わず後退りした。

 いやいや、汚い格好とかはまだわかるけれども、なんで耳の穴に一円玉がハマってんだよ。


 俺に近づいてきたそいつは、俺に向かってこういった。

 「ニイチャン、自転車のタイヤに空気入れてくれない?ちょっと困っててさ。」

  そいつは、口をモゴモゴと動かしながら訪ねてきた。

 うちはコンビニであって自転車の空気入れなんて無いから、「大変申し訳ありませんが、当店ではそのようなサービスは行っておりません。」と丁重にお断りした。

 すると、「はあ?ここはコンビニじゃあないのか」と睨みながら意味不明なことを言ってくる。
 いやいや、コンビニに自転車の空気入れはないし、それならホムセンとかに行けよ、と俺も声に出すことはないもののかなりイラついていた。

 「こ!こ!は!『コンビニエンス』な『ストア』なんだよな?」

 そいつは言うので、実際にここはコンビニなので「左様でございますが。」と冷静に、丁寧そうな感じで答えた。

 「チャリの空気入れもないなんて、ずえんずえん『コンビニエンス』じゃあないよなあ!」

 そいつは、独特な喋り方と言い回しで、コンビニなのに便利じゃないと言って怒り出してしまった。

 そんなこと言われたって、無い物はないのだから仕方がないじゃないか。

 

 「警察呼んでも良いんだぞ。この店は詐欺するってえ、言ってやる。」


 呼ぶなら呼べよ、と言えないのが接客業の辛いところ。そいつは、だんだん興奮して来たのか、目が血走ってきた。それに、声を出すと耳の穴にすっぽりとはまっている一円玉が、ヒクヒクと動いているのか。その光景は、まるで妖怪のような感じ。なんだか、こいつが人間だなんて思え無くなってきた。

 だんだん顔もシワが深くなって険しい顔つきになって来た。

 「警察呼ぶかあ?それともチャリに空気入れてくれんのかあー?」
 煽ってくるけれど、自転車のタイヤの空気入れなんて無いので、警察を呼んでもらうしかない。


 俺は、自分で警察を呼ぼうかと思っていたところ、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。

 サイレンの音に気がついたのか気がつかないのか、「警察か?空気入れるか?」とそいつは目を血走らせたまま、同じ質問を何度も何度も繰り返している。

 

 パトカーが、一台、店の前に停まった。


 すぐに警察官が、店の中に入ってきた。パートのおばさんが呼んだようだ。
 おばさんはいつの間にか奥のレジに逃げ込んでいた。店に入ってきた警察官を見ながら俺と男のいる方向を指さしていた。開口一番に「おっちゃん、また会ったね。」

 警察官は、「よくあることなんです。」と言って、あっさりおっちゃんをパトカーに乗せてしまった。
 どうやら、そいつは警察によくお世話になっているらしい。

 俺とおばさんは、これまでの出来事と名前なんかの個人情報の聞き取りをされた。10分くらいで警察官は帰って行ってしまった。



 警察官が帰ると「あいつ、妖怪に憑かれとるんやで。」急なエセ関西弁で、おばさんが話しかけてきた。


 俺が???となっていると、おばさんが「なんとかっていう妖怪に取り憑かれた人間は、理性がなくなって思考力が落ちて、頭がおかしくなるんよ。」と教えてくれた。


 確かに、あいつからは、人間とは違う感じがした。俺は、あんまり幽霊とか信じてなかったけれど、この一件で妖怪の存在を信じるようになった。

 

 
 
 
  
 

 


 
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