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人体模型

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 数十年前の話です。


 僕は、まだ小学生でした。

 それは、お盆の時期でした。

 僕の家族は、祖父母と同居していたので、長期の休みになると、従兄弟達がうちに遊びにやってきました。
 もちろん、この時のお盆も例外なく従兄弟たちは、うちにやってきました。

 
 都会から田舎にやってきて暇を持て余していた従兄弟達は、僕を肝試しに誘ってきました。
 僕は、当時怖い物知らずだったので、すぐにオッケーを出しました。

 僕たちは早速、肝試しの場所をどこにするか話し合いました。
 肝試しに行くのは、僕を合わせて従兄弟たち含めた5人の小学生の男子たちになりました。

 場所はいろいろ候補がありましたが、自転車を持っているのが僕だけだったので、近場で済ませることになりました。
 
 場所は、僕が通っている学校でした。


 学校には、深夜0時に到着するように計画しました。
 僕の家は、門限なんてものはなく、自由な感じだったので、肝試しに行くことを報告しても、大人たちも「気をつけて行っておいで」と言うだけでした。

 僕たちは、23時50分に家を出発しました。

 学校までは、歩いて10分足らず。
 家を出る時には、ちょっとテンションが高かったんですが、暗闇が怖いのと、学校が近づくにつれて緊張して来たようでだんだんみんなは静かになりました。
 学校にはすぐに辿り着きました。

 堂々と校門から入ろうかとしましたが、当然門が閉まっていました。僕は、よじ登ることもできるのですが、当時小学2年生だった小さい子もいたので、校門から学校に入ることはやめました。
 裏門の横の塀が低い場所があるので、そちらから侵入することにしました。

 僕は、5人の中で一番最後に塀を登って学校の敷地内に入りました。

 塀を登る瞬間、チラッと見えた第二校舎の二階の窓に人影が見えた気がしましたが、人がいるわけがないので気にせずどんどん進んでいきました。
 もしかして、幽霊?なんて思ったけれど、それはそれで、みんなを怖がらせるし、何より自分が一番怖いので、やっぱりみんなには黙って置くことにしました。


 今日は、肝試しに来ているので、お化けが出そうな場所に行こうと言うことになりました。


 まずは体育館。体育館にはベタな話ではありますが、深夜になると子供の幽霊がボールで遊んでいるという、学校の階段的な怖い話が私たちの学校にありました。
 僕は、あんまり信じていませんでしたが、残りの4人は信じ切っており、すでに0時を過ぎた体育館にはきっと子供の幽霊がいるに違いないと話していたのを覚えています。

 結論から言うと、そんな不可解な事象はありませんでした。
 恐る恐る、全員で懐中電灯で照らして体育館の大きな窓の隙間から、中を覗いてみたのですが、ボールすら転がっていませんでした。あちらこちら照らしてみますが、何も見えませんでした。
 僕らは、がっかりしつつ、でも恐ろしいことがなくって安堵する気持ちもありました。

 
 ですが、まだまだ僕らの肝試しは始まったばかり。

 

 続いては、第一校舎の2年生の教室を見に行くことになりました。

 1年生と2年生の教室は一階にあるので、中に入ることができなくっても外から覗くことはできると思ったのと、2ヶ月ほど前に2年生の教室に幽霊が出たという噂が一瞬ながれたからです。

 幽霊がもし本当にいるのであれば、夜には教室をさまよっているのではないかと言うのが、私達の考えです。

 
 僕らは、「怖い怖い」と言いつつ、ワクワクしながら2年生の教室に向かいました。
 
 最初は、へっちゃらで楽しんでいましたが、校舎が近づくにつれて、なんとなく空気が冷たくなって来たのを感じて、怖さが増してくるのを感じていました。

 

  第一校舎にたどり着いた僕たちは、初めは2年生の教室を窓から覗き込んでいました。
 校舎には鍵がかかっているだろうと思っていたのです。

 みんなで並んで各教室を順番に覗き込みますが、当時の小学生の身長では中はあんまり覗けませんでした。
 特に、当時2年生だった従兄弟は、何も見えないようで機嫌が悪くなってしまいました。


 端っこから順番に、各教室を覗いていきます。

 時計の針は、既に1時を過ぎていました。


 たまに、コウモリが飛んでくる以外、怖いことなんて全く起こらず、再びがっかりしていました。


 ですが、1番端っこの2年1組の教室を覗き込もうとした時。
 先に2年1組の教室を覗いていた、僕と同い年のAくんが、「誰かいた!!!!!」と大声で叫びました。


 他の4人も、慌てて教室を覗き込みます。


 でも、人どころか、虫の影すら有りません。


 「見間違いじゃない?誰もいないじゃんか!」

 不満な僕は、Aくんに強めに声を掛けました。


 「いやいや、本当に黒い人影が動いていったんだって!あっちの方に行った!!!」



 Aくんが、指刺した方向は、一番端の教室から踊り場を挟んで靴箱がある方向。踊り場には、2階へと続く階段があります。


 「追いかけよう!」


 誰が言ったか覚えていませんが、誰かの一声で、僕らは急いで靴箱の方向に向かいました。走りながら、僕は学校に入ってすぐに見かけた第二校舎の影を思い出していました。

 靴箱の正面には、建て付けの悪い木製の引き戸がありました。覗いてみても、人影は有りません。きっと2階に逃げたんだと思いました。
 こちらは、来客用でも教員用でも無い入り口だったので、もしかすると、と思って引き戸に手をかけて思いっきり引きました。そう。この古い引き戸ならこじ開けられるかもしれない、と思ったのです。


 しかし、その思いも虚しく、ドアはしまっていました。古いので、かっちり閉まっている感じはないのですが…
 何度も何度もドアを開けようと、ガタガタ揺らしてみますが、開く気配は有りません。

 そんな僕の様子を見た、Aくんが「押しながらやったら開くかもしれないよ。」と言い始めた。僕は、意味がわからないからAくんに代わってもらう事にしました。


 Aくんは、引き戸を体重を掛けて押した。
すると、戸と戸の間に隙間ができて鍵が外れました。ついに、ドアが開いたんです。

「うちの玄関も押したら鍵が外れるだ」

 Aくんは得意げ。僕らは大喜び。

 すぐに、校舎に侵入しました。ダッシュで2階に駆け上がり廊下を走って人影を探しました。
 2階は3年と4年生の教室が並んでいます。
 僕は、年長なのでAくんと一緒に先頭を走っていました。

 

 3年生の教室を全て通り過ぎて、4年2組の教室を覗くと、突然黒い人影が現れました。

 急な出来事で、ギョッとして僕は固まりました。

 声も出ませんでした。


 人影は、教室の奥に立っていました。

 でも、それがすぐに幽霊でも無ければ人間でも無い事を認知しました。

 そして、暗いですが、持っていた懐中電灯で照らすと正体が分かったからです。


 人体模型でした。
 理科室にある、あの人間の白い骨だけの模型です。骨格標本って言うんでしょうか?

 なぜこんなところに人体模型があるかわからなかったのですが、うちの学校には何故か2体の人骨の人体模型があるので、誰か移動させたんだろう、くらいに思っていました。

 ひとまずいい感じの恐怖を味わえたので、その日は帰ることにしました。

 




 その一年後。


 理科室の人体模型が撤去される事になりました。


 4年2組にあった、あの人体模型です。

 ニュースでこんな報道があったからです。


 「本物の人骨を使った人体模型が小学校で発見された」
 


 うちの学校もそうだったみたいです。




 
 今思えば、理科室は第二校舎にあります。
 わざわざ第一校舎に人体模型を移動させる理由がありません。

 元々人間だった2体の人体模型は、きっと帰る場所を探して第一校舎と第二校舎をそれぞれ彷徨っていたんだと思います。
 

 
 
 








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