短い怖い話 （怖い話、ホラー、短編集）

ラブホに来る女

　ラブホのフロントのバイトをしてたことがある。しかも学生時代からやってたから8年くらいトータルでやってた。

　変なお客さんってたくさんいるんだけど、中でも気味悪かったのが、毎回1人で来る女。


　そもそもラブホに一人でくる奴なんかまぁいない。

　極稀に、サラリーマン風のおっさんが来たりするけど、そういう人たちは普通の感じだし、出張先のビジホの代わりに使っているんだとか。オーナーが言ってた。
　安いし、うちのラブホは、田舎だけど高速が近い場所にあるから交通の便もいい。

　でも、毎回一人で来る例の女は違った。

　明らかに異様だったんだ。


　そもそも、ここは民家とか一切ない高速の出入り口のラブホ街だ。あとは運送会社なんかが近くに沢山ある。

　でも、毎回一人でくる女はなぜか徒歩で行き来しているようだった。
　ホテル出入り口や駐車場の至る所に監視カメラがあるから、客がどうやって来たり帰ったりするのかとかわかるんだけど、その女は駐車場に車を停める様子もタクシーを呼ぶ様子もない。近くにバス停や電車はない。
　さっきも言ったが家なんか一切ない。それに、従業員のおばさんが女がラブホから一キロくらい離れたところでトボトボと歩いているのを見たことがあるそうだ。

　だから、女は徒歩で行き来しているのだと思う。

　
　あと服装も怖い。
黄ばんだ白っぽい花柄のワンピースをいつも着ている。胸元が結構空いているけどセクシーとかはない。ガリガリの胸骨が浮き出ている。
なんとも言えない気持ち悪さがその女から滲み出ていた。





　そして、ある日のこと。





　その女は、手に包丁を持って現れた。




　


　包丁の刃先には少しだけ赤黒いものが固まって付いていた。



　





　私の悲鳴を聞いたオーナーがすぐに警察を呼んだ。





　女が人を殺したんじゃないかって、翌日から従業員のみんなが噂してた。








　でも、違ったらしい。



　警察の人が、後日、当日の事情を聞きにきた。



　その時に教えてくれた。
　


　女は、自分で自分の身体中に元旦那の名前を彫っていたらしい。
　包丁で。

　細かく。何ヶ所も。







　それで包丁は少しだけ汚れてたんだ。