モテたかったがこうじゃない

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第一章

19

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物凄く重厚な扉の前まで来た。如何にも王様がいそうな扉に、少し落ち着いてた緊張がぶり返す。この中に入るの?無理なんだけど。

目に見えて真っ青になっているおれに、レイヴァン様が背中を擦って心配してくれる。

「大丈夫だ。王も王妃も民を1番に考える。酷いことなど起こらない」

「で、でも…」

「そうですよ。君は保護される立場なのですから、そんなに怯えては陛下が可哀想だよ」

う…確かに。おれも初対面の人にビビられまくったら嫌かも…。

ええぃ!どっち道もう逃げられないんだから腹をくくれマシロ!王子様とはちゃんと喋れてる、何ならえっちまでしてるんだから、王様だって…同じ人間だし!どうにでもなれ!

「開けるよ」

目の前の扉が両開きで開いていく。開けた部屋の中は想像の10倍広い空間で人もいっぱい居た。身分の高そうなおじさん達に兵士の人もずらっと並んでいる。

扉から伸びる赤い絨毯の先に座っているのが王様と王妃様かな。その横にアレクセイ王子と似てる男の人とめちゃくちゃ綺麗な女の人。あ、アレクセイ王子もいる。

え、無理。どう見てもおれと同じ人間じゃない。こんなに人間って光るの?王様と王妃様なんてキラキラし過ぎて直視出来ないんだけど。目が潰れちゃう。

完全に圧倒されてガチガチに固まるおれをカール様が誘導してくれた。背中に添えられた手が震えてる。え?カール様笑ってない?

ただただ足を動かす事しか出来ず、王様達と一定の距離離れた場所で止まる。その間何処にも目を向けられなかった。

「座って」

右側からカール様の声がした。す、座らなきゃ…っ。

慌てて座ると部屋中から、ぶふう…っ!と噴き出す音がした。何だと顔を上げると王様も王妃様もクスクス笑ってる。両サイドも肩を震わせて…何でみんな笑ってるの?

「マ、マシロ君…っ、膝を立てて座るんだよ…っ」

膝を立てる…?あ"、つい母さんに怒られてる時の感覚で正座しちゃった…っ!

あわあわしながら片膝を立てて座り直した。は、恥ずかしい…。
顔に熱が溜まるのが分かる。お、おれ、王様の前でなんて事を…っ。

「ふふっ、んんっ。…よい。とても行儀の良い事ではないか。顔を上げよ」

この空気で顔を上げるの!?拷問なんですけど…っ!

「マシロ」

う"ぅ…っ。
恥ずかしさで涙目になりながらゆっくり顔を上げた。何故か王族様達からおぉっ!とどよめきが上がる。

「これは…」

「まぁ!」

まだ何かあるのぉ!?

「話しには聞いておったが、なんと愛らしい少年だ。魔力が無くなると男でもここまで魅力が出るものなのか」

あぁ!イケメンフェロモンね!
そりゃ王族の人達は魔力量高いでしょうね。

それに比べて家臣?の人達や兵士の人達は怪訝そうな顔付きだ。すみません、あなた達が正常です。

「ごほんっ、すまない。本題に入ろう。マシロと言ったか、話しはフィリップ王宮内総医務長から聞いている。息子の魔力暴走に巻き込んでしまい申し訳無かった。更に魔力も全て失ったとか。謝って済む事では無いが、どうか許して欲しい」

ひえっ、王様がおれなんかに謝ってる…っ。

「い、いえ…っその、レイヴァン様からも謝って頂きましたし、そもそも怒ってないので大丈夫です…!」

「そうか、貴殿の心の広さに感謝しよう」

とんでもないです…っ。
おれは完全に萎縮していた。

「それと魔力が無い事での弊害があるとか」

「陛下。僭越ながら私の方からご説明させて頂きます」

「カール魔導士長、発言を許そう」

「ありがとうございます。ご承知の通り、本来生き物にとっての魔力とは生命力と同義である為、それが無い状態では生命活動が維持できません。マシロ君は今後常にその状態だと思われます。しかし、他者から魔力を貰う事で生命活動に必要な魔力を補うことが可能だと解りました。よって、与えられる程の膨大な魔力量を持つ者が多いこの城で保護する事をご提案します」

「…なるほど。ちなみに膨大な魔力量とはどれ程になるのだ?」

「正確な数値はまだ出せておりませんが、判断基準として、彼に強い魅力を感じる者が適応量の保持者と考えられます。原理は解りませんがフィリップ王宮内総医務長とその助手は彼を普通の少年と感じ、私やレイヴァン殿下、アレクセイ殿下は魅力的に感じております。両者の違いは魔力の量に関係していると思われます」

「なるほど、確かに家臣達は特に彼に関心は無さそうだ。私と…トワイス、お前はどうだ?」

「はい、私にも彼は魅力的に見えます」

「ふむ、ではその判断基準で良さそうだな。確かに王宮内以外で我等と同等の魔力量を持つ者は稀だろう。マシロの城での保護を許可しよう」

「ありがとうございます」

おれ、まだお城に住む許可出てなかったんだ。…部屋用意されてたのに?まあ、王様が住んでいいって言ってくれたし、いいか。

深く考えないようにしよう。

「それにしても、レイヴァンの魔力暴走で国民に被害が出てしまった以上、何か対策を練らねばならんな」

「その事ですが陛下。しくもこの度の一件で解決出来そうです」

「というと?」

「はい、レイヴァン殿下の魔力を定期的にマシロ君に吸収してもらうというのはどうでしょう。レイヴァン殿下の魔力暴走は有り余る魔力を制御出来ずに起こります。ならば制御出来る量に保てば良いのです」

「なるほど…。マシロよ」

「は、はい!」

「貴殿には既に多大な迷惑を掛けている身で心苦しいのだが、今の話しを受けてはくれないだろうか。レイヴァンは幼い頃から魔力暴走に振り回されてきた。私も親だ。勝手を承知で頼みたい。息子を、レイヴァンを助けてやってくれ」

「わ…っ、あの、頭を上げて下さい…っ。おれなんかでお役に立てるなら何でもやります!」

「ありがとう。貴殿には頭が上がらない」

「いえ!どうか上げてください…っ、お願いします…っ!」

おれのメンタルが崩壊する前に…っ!
緊張とこの場の雰囲気に完全に呑まれて、もはや吐きそうです…っ!
早くここから出たい…っ!

目に見えてパニックになっているおれにレイヴァン様が背中を擦ってくれる。
そしてキッと王様を睨みつけた。

「父上、マシロをからかうのは止めて下さい。こんなに怯えて可哀想です」

へぇ?からかう…?どういうこと?

「…ふっ、あっははは…っ!いや~だって!ずっと怯えてるんだもの…っ、ふふっ、入ってきた時からガッチガチで、しかも、せ、正座…っ、あはははっ!もー、かーわいい!」

なんだ?どうした?何が起こってるんだ?
え?さっきまで威厳たっぷりに、貴殿には、とか言ってた王様がひーひー腹抱えて笑ってるんだけど。え?同じ人?

あまりの豹変っぷりに脳みそが追いつかない。ひたすら頭にハテナを浮かべていると、そんなおれを見て更にツボったのか今度は涙を浮かべて笑い出した。

え?普通に失礼じゃない?







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