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サマー・ナイト(夏の一局)
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一局の将棋は夏よりも大きかった。
私は盤上を離れて波に揺られた。風を読み西瓜を割った。肉を刺し野菜を刺し舌鼓を打った。課題図書を読みながら感想を書いた。読みが定まらない間に期限が先に迫った。私はうそを交えて体裁を整えた。売店に立ち寄り棋書を買いあさった。読み耽る内に何度か夢の浅瀬をさまよったりした。定跡はラムネの瓶の中に閉じこめることができない。学習を終えた頃にはまた新しい手が現れて、結論を塗り替えてしまう。花火を見上げ、親切やお節介をして亀に乗った。あの手この手の交換をして恋に落ちた。空模様を読んですべて打ち明けた。土砂降りだ。愛はとらえきれない。傘もささずに私は魔物に追いかけられて、逃げ帰ってきた。
(失礼しました)
男は盤の前で待っていた。
あの時と同じ姿勢、同じスーツを着たままだった。
ぶれない者の凄みをみた。しかし、私だって多くを読んだのだ。
私は自信を持って次の一手を着手した。
相手の応手はすべて私の読みを超えてくる。
それが王者の一手なのか……。
(たくさん読んだのに)
神さまは私の読みには応えてくれないようだ。
あるいは、相手はもっともっと読んでいるのだろうか。
一手指す毎に、玉はどんどん追い詰められていくようだった。
(まだまだ読み足りないな)
私の読みは夢に等しかったと知らされる。
どんなに苦しくても胸を張っていよう。(自分が苦しい時は、きっと相手だって楽ではないはずだ)
3九金!
最接近した竜に向かってアタックをかけた。
私たちはみんな人生というタイトルを抱えたタイトルホルダーだ。一度預かった以上、途中で投げ出すことはできない。
もしも、今日負けたとしても、挑戦は続くだろう。
私は上着を羽織り襟を正した。
私は盤上を離れて波に揺られた。風を読み西瓜を割った。肉を刺し野菜を刺し舌鼓を打った。課題図書を読みながら感想を書いた。読みが定まらない間に期限が先に迫った。私はうそを交えて体裁を整えた。売店に立ち寄り棋書を買いあさった。読み耽る内に何度か夢の浅瀬をさまよったりした。定跡はラムネの瓶の中に閉じこめることができない。学習を終えた頃にはまた新しい手が現れて、結論を塗り替えてしまう。花火を見上げ、親切やお節介をして亀に乗った。あの手この手の交換をして恋に落ちた。空模様を読んですべて打ち明けた。土砂降りだ。愛はとらえきれない。傘もささずに私は魔物に追いかけられて、逃げ帰ってきた。
(失礼しました)
男は盤の前で待っていた。
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私は自信を持って次の一手を着手した。
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それが王者の一手なのか……。
(たくさん読んだのに)
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あるいは、相手はもっともっと読んでいるのだろうか。
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