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指先から不安

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 未知の脳を持った男が目の前に座っている。いったい何を考えているのだろう。わからないことへの不安で私の胸は高鳴っている。けれども、男と私との間にある分厚い盤が盾となって私を守ってくれている。そして、心強いスペックを持った仲間たちがいま盤上にまかれつつあった。歩が私を前へと運んでくれる。金銀が密になって私の大切なものを守ってくれる。角さんが遠い未来を見通して、あらゆる問題をさばいてくれる。

 スタートを待つ間は不安だ。

 少し前はもっと不安だった。相手がくるかわからない。電車を間違えるかわからない。財布を持っているかわからない。朝目覚めるかわからない。夜眠れるかわからない。いつになるかわからない。始まるかわからない。不安の波を乗り越えてなんとかここまでたどり着いた。
 あと少し……。

「それでは対局をはじめてください」
「お願いします」

 私は迷わず飛車先を伸ばした。
 指先からすーっと不安が抜けていく。
 わからないことはまだまだたくさんあるけれど、今は道筋がみえている。あとは自分の読みを信じるだけだった。

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