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第七話 かつての記憶
しおりを挟む応接室の中にいるのは国王陛下と姫様とお嬢様だけだ。
「さて、色々と聞きたいのだが、大丈夫か?」
「構いませんよ」
「そうか。なら、何かか聞こうか」
「全て話します。これまであったことを」
そう言い、私はこれまであったことを話したのだ。
ウィズリー公爵家に産まれ、3度傭兵契約をしてきた人生を。
私の生きた物語を。
全てを話し終えた応接室では沈黙が支配していたのだ。
その沈黙を破ったのは姫様だった。
「ウ、ウィザーさん。実はお姉様と話したんですけど、なんで報奨はあのお花だったですか?」
「それは」
言葉を続ける前にある記憶が私の頭を駆け巡ったのだ。
これはかつての記憶だ。
そう。
彼女が花よりも美しい笑顔を浮かべ、生きていた時の記憶だ。
聖都からそこまで離れてない花畑に君がいる。
花畑の中で女の子座りしている君は優しく微笑みながら、あの花を摘んでいる。
そして、1つの花束を作っている。
そんな君を見ていると私はあることを思い出したのだ。
「そう言えば、傭兵の報奨について決まったか?」
私に声を掛けられた君は摘んでいた手を止め、左手を左頬に手を置き、可愛らしく首を傾げた。
「報奨?あっ」
「忘れていたのか?」
「えっ、あ、はい。恥ずかしながら、忘れていました」
そう言い、花束を持ちながら、君は立ち上がったのだ。
「報奨、報奨。私との結婚は普通だったから。どうしようかな?」
そう言いながら、君は可愛く悩んでいた。
そんな可愛く悩んでいた君を見て私は優しく微笑んだ。
「報奨はその花で良いよ」
「この花束ですか?」
「ああ」
君は暫く悩んだ後、私の方を向いてきたのだ。
「あ、あの、1つだけ契約内容を追加してもいいですか?」
「構わないが、どんな内容を追加したいんだ?」
その時、風が吹いたのだ。
君のことは私にだけしか聞こえなかった。
「了承した」
「ありがとうございます、ナリスさん。それではこれをどうぞ」
そう言い、君は満面の笑みを浮かべながら、花束を手渡してくれたのだ。
私はそれを嬉しそうな表情を浮かべながら、受け取っていたことだろう。
そんな幸せな記憶が頭を駆け巡った後、私は深呼吸し、言葉を続けたのだ。
「契約だからだ」
「け、契約?」
「ああ。花の聖女たる彼女とした最後の傭兵契約。その傭兵契約は終了していない。だから、私はその契約を果たし続ける」
その言葉にまた応接室の中は沈黙が支配した。
沈黙を破ったのは国王陛下の呟きだったのだ。
「損な性格をしているな」
「それは私も同意見ですよ」
そう言い終えると、扉がノックされたのだ。
「お、お話中失礼します。ウィズリー公爵閣下がお見えになりました」
その言葉に私以外の者は驚きの表情を浮かべていた。
ヤーク。
まさか、使い捨ての転移石を使ったのか。
それなら、この速さは納得がいく。
「父上の相手は私がするので、ここまで案内をお願い致します」
「わ、分かりました」
そう言い終えると扉の先からは走り去っていく音が聞こえた。
その後、国王陛下とお嬢様と姫様は応接室から退室したのだ。
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