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第四話 引き抜き
しおりを挟むあの夢を見てから1週間が経った。
あの時以降、全くあの夢を見ることは無くなった。
今日も何事も無く終わると思っていたが、どうやら違うようだ。
姫様が眠ってから1時間が経った頃に侵入者の反応が出たのだ。
反応は10人か。
いや、離宮から離れたところに30人以上はいるな。
さて、何の要件か聞きに行くか。
そう考えた私はファルシオンを腰に携さえ、武装したのだ。
準備を終えた私は玄関に向かった。
玄関の扉を開けると離宮の外には豪華な服に身を包んだ若い男と9人の騎士達がいたのだ。
確か、あの王子は武闘派だったはず。
その王子がここに何の用だ?
「こんな夜遅くに何の御用ですかな?」
「お前があの役立たずの護衛の傭兵か。ますます分からなくなる」
その言葉を聞いた私は一瞬にして、ファルシオンを抜いたのだ。
私が抜いてから気がついた騎士達も慌てて、剣を抜いた。
「私の雇い主を侮辱しに来たのですか?もし、そうならお覚悟を」
「違う、違う。そんなことをしても何も意味はない」
そう言いながら、王子は右手を左右に振っていた。
「お前を引き抜きに来たのだ」
そう言い、王子は布袋を私の方に投げてきたのだ。
音から察するに金が入っているみたいだな。
入っている金額は1回の依頼分ぐらいか。
「これは前金だ」
「前金ですか。結構太腹ですね。ですが、了承しないですが」
「そうか。俺は穏便に済まそうと思っていたのだが、こうなったら仕方ない」
そう言い、王子が指を鳴らすと隠れていた者達が姿を現したのだ。
だが、現れた者達は驚きの表情を浮かべていた。
「ウ、ウィザーだと?こ、こんなことは聞いてないぞ」
何処かで見たことがあるな。
思い出した。
この王都を中心に活動しているAランクのパーティーか。
だから、上質な装備なのか。
しっかりとした傭兵だな。
なら、逆に。
「私に引き抜かれないか?報奨は倍で、仕事もここから帰るだけだ」
それを聞いた傭兵頭はニヤリと笑ったのだ。
「そんな美味い話断る訳がない。喜んで、引き抜かれよう」
「感謝する。取り敢えず、これは契約金だ」
そう言い、王子に投げられた倍の金額が入った布袋を傭兵頭に投げ渡した。
「確かに受け取った。おい、野郎ども。帰るぞ」
「お、おい、待て。契約違反だぞ」
「契約違反?何を言っているんだ。貴方が先にやっていたことだろ。まぁ、契約していたから最後に教えてやるよ。ウィザーは傭兵の中で6人しかいないS級だ」
その言葉に騎士達は驚きのあまり固まってしまった。
そんな騎士達を他所に傭兵達は撤退したのだ。
「さて、やるか?」
その言葉を聞いた騎士達は首を横に振りながら、後ずさりを始めていた。
騎士達の中で1人が私に背を向けて逃げ始めたのだ。
恐怖というものは伝染する。
だから、その騎士につられ、他の騎士も逃げるのだ。
残ったのは逃げた騎士達に罵声を浴びせる王子だけだった。
私はファルシオンを手に持ちながら、王子に向かって、歩き始めたのだ。
それに気がついた王子は額から汗を流しながら、後ずさりを始めていた。
「ぶ、武器を持って、何をする気だ?」
「殺そうと思っているだけだ」
「な、何を言っているんだ?お、俺はこの国の王子だぞ」
「それで?私には関係無いことだ」
その言葉を聞いた王子は啞然とした表情を浮べていたのだ。
「貴方を生かしたままでは、姫様に危害があるかもしれない。だから、死んで下さい」
そう言い、私はファルシオンを振り上げた。
そして、言い訳をしようとしていた王子を右肩から左下に斜めに振り下ろしたのだ。
その結果、王子は血を大量に流しながら、地面に倒れた。
まだ生きている。
だから。
私は血だらけのファルシオンを両手で構え、首に狙いを定めたのだ。
そして、そのまま押し込んだ。
ファルシオンを押し込まれた王子の目からは生気が失われた。
よし、これで死んだな。
死体は回収して、後で処理しよう。
姫様に見せる訳にはいかないからな。
そんなことを思いながら、後始末を終えたのだ。
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