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第五十二話 木こり
しおりを挟むあれから日が経ち、収穫祭の当日となる。
当日の朝に私はブザリー公爵家の屋敷にいたのだ。
今回の私は貴賓ではなく、ノラの護衛として参加しているので、普通に武装している。
だから、私に様々な視線が集まる。
向けられた視線を無視しながら、待っていると扉が開いたのだ。
開いた扉からはブザリー公爵から贈られたドレスに身を包んだノラがいたのだ。
「ど、どうですか?」
「とても似合っているよ」
「ありがとうございます、クルスさん」
ノラは嬉しそうに笑顔を浮かべる。
そんなノラを見ていると後ろから声が掛かる。
「私がいる前でそんなことをするなんてな」
も、勿論いるよな。
「あ、お父様。似合っていますか?」
「ああ、とても似合っている。そろそろ時間だから、馬車に乗ろう」
ブザリー公爵はノラのことをエスコートして、馬車に向かったのだ。
さて、私も移動しようか。
そんなことを思い、私は馬に跨る。
私は馬で、ノラとブザリー公爵は馬車で会場に向かう。
会場に到着すると私よりもノラに視線が集まっていたのだ。
まぁ、それはそうだろうな。
ブザリー公爵が愛娘のノラを連れてきたのだから。
そんな視線がノラに向けられる中、収穫祭が始まる。
ノラに少しでも覚えて貰うために近付こうとした貴族達は話すことすら出来ない。
殆どブザリー公爵が隣にいるからだ。
そして、ブザリー公爵が席を外した時でも私がいる。
だから、ノラに視線を向けることしか出来なかったのだ。
収穫祭の間、私は周囲を警戒していたのだが、途中である光景が目にとまる。
それはこの国の王子らしき者が、多数の兵士達を連れて、森に入っていく様子だ。
この収穫祭では男が獣か魔獣を狩って、女性に贈るのが伝統になっている。
本当は私も参加するか考えたが、それよりもノラの護衛に集中した方がいいと決断する。
この国の王子にも好意を寄せているのか?
そんなことを思っていると王子が誰かに視線を向けていることに気がつく。
視線の先を追ってみるとそれはノラだったのだ。
もしかして。
まぁ、あり得ない話ではないか。
マリーサ王国の王家がブザリー公爵と繋がる唯一無二の手段だからな。
警戒は怠らないようにしよう。
何かあってからは遅いからな。
収穫祭が終盤に差し掛かった頃、いきなり轟音と共に森が揺れたのだ。
私は直ぐにノラの前まで移動し、轟音がした場所に視線を向ける。
視線を向けた先には砂煙と飛び立つ鳥の群れが見えたのだ。
会場が騒然としている。
そして、姿が見えてくる。
それは大きい、いや、大きすぎる木だ。
その大きすぎる木は生きていて、確実にこちらに向かってくる。
嫌な予感がする。
まさかな。
そんなことを思っていると複数の音が聞こえる。
それは馬が駆ける音。
その音はどんどんと近づいてくる。
しかも大きすぎる木はその音を追っているようにも思える。
どうやら、私の悪い予想は当たるみたいだな。
そんなことを思っていると馬に跨っている者達が姿を現したのだ。
それはあの王子達だ。
その者達の顔は真っ青になっていたのだ。
やっぱりな。
起こしたのか。
さて、行動しなくては。
「ブザリー公爵。ノラを連れて、避難をお願い致します」
「ロガー伯爵は?」
「ここで戦います。殆どの兵士が王族の護衛に。残った兵士も他の貴族の護衛に向かっているので、誰もいないのです」
「本当に余計なことしかしないな。済まないが、ここを頼む」
「お任せください。そのために私はここにいるのですから」
「クルスさん。どうか無事で」
「大丈夫だ、ノラ」
私は魔法袋から斧を取り出す。
私が斧を取り出したことを確認したブザリー公爵はノラの手を掴み、避難を始めたのだ。
よし、これで大丈夫だ。
後は倒すだけだ。
私は動かず、そのまま待つことにした。
すると5分もしないで、大きすぎる木は私の真上まで来ていたが私に気づくこと無く、あの者達を追っている。
さて、大きすぎる木よ。
貴方は知らないと思うが、私の家名は英語で木こりなのだ。
だから、木こりの実力を今から見てやるよ。
文字通り、その身に刻んで。
そんなことを思いながら、私は手に馴染む斧を魔法袋にしまう。
そして、私は両肩に装備している手投げ斧を両手に持つ。
勢い良く手を後ろに振り上げ、下に振り下げてから手を離したのだ。
私の両手から手を離した手投げ斧は大きすぎる木の両手を斬り落とし、ブーメランみたいに私の両手に戻ってきたのだ。
戻ってきた手投げ斧を装備し直すと同時に大きな音が聞こえてくる。
それは大きな何が2つ地面に落ちる音。
その後、不快な声の悲鳴が鳴り響いたのだ。
両腕を斬り落とされてやっと私に気がついたようだ。
だが、今更遅いぞ。
攻撃体勢を取ったところで。
私は踏み込み、大きすぎる木の懐に潜り込んだ。
その時、不思議な感覚を覚える。
そして、それが最適解だと感じたのだ。
私の体は不思議と頭に浮かんだ体勢を取り、魔法袋から取り出した手に馴染む斧を構えたのだ。
私が構えたのは上段の構えに似ていたが、少し違う。
斧が地面スレスレなのだ。
そのまま自然と斧を振った結果、大きすぎる木は縦に斬られ、真っ二つになる。
これは技ではない何かだ。
今の私には何か分からないが。
いずれ分かることだろうと何故か理解できたのだ。
そのことを不思議に思いながら、私は手に馴染む斧を魔法袋の中にしまう。
しまうと同時に大きな音と共に2つの大きな砂煙が上がる。
それからこの場は静寂に包まれたのだ。
それ以降、大きすぎる木は動くことは無かった。
後処理は全てこの国の者達に任せるか。
そうそう、褒美を与えると言われたので、この功績を公表しないことだ。
バレると色々と面倒くさいからな。
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