上 下
9 / 14

第九話 人らしく

しおりを挟む

 事前に話を通していたので、何事もなく到着することが出来た。

 「えっと、これはエレベーターですか?」

 「はい、エレベーターです。下れる」

 「そ、それは本当ですか?」

 「はい。ですが、このエレベーターには問題があります」

 「問題があるのですか?」
 
 「はい。実は施設を建築するにはポイントが必要なのですが、維持費の問題で1日に1階下までしかエレベーターを伸ばせないことです」

 「1日に1階。つまり」

 「いずれは最下層にエレベーターが到達します。最下層で元凶を取り除けば脱出出来るでしょう。いつになるかは分かりませんが」

 多分、この生放送は全員が見ているだろう。

 それでも伝える意味がある。

 安心させたいからだ。

 有咲の家族を。

 だから、伝えたのだ。

 生放送の取材に。

 「取材のご協力ありがとうございました」

 「お気になさらず。私はこれで」

 そう言い、この場を離れようとすると気配を感じた。

 音は無かった。

 まるで、最初からそこにいたみたいに。

 この場にいる者達の視線がそこに集まる。

 いや、カメラも向けられている。

 私と取材陣が驚きで動けない中で自衛隊は動き、小銃を構えていたのだ。

 「そんな物を向けても意味は無い。我自身がダンジョンなのだから」

 そこにいたのは人形の影だった。

 ダンジョンそのものか。

 つまり、ただの幻か。

 「1つ聞きたい。何故、私達をこのダンジョンに閉じ込めたのだ?」

 「見たいからだ」

 「何を?」

 「人の意思の強さをだ」

 そう答え、幻は私を指差したのだ。

 「そこにいる男は人らしくあろうとした。故にその力に目覚めた。そして、守り続けている男の意志も強い」

 そう言い終えると後ろに映像が流れ始めたのだ。

 その映像には戦っている男と後ろで震えている者達が映っている。

 あれは別の避難者達か。

 それを見た自衛隊の隊長は無線で指示を出し始めたのだ。

 救助の。

 「つまり、私が持っている力は人らしくあろうとしたから持ったのか?」

 「ああ、お前は自身の曲げずに貫き通した。そんな人間は中々いないぞ。誇っていい」

 「誇る程のことではない。誇るなら映像に映っている男だ。人のために力を使用している。だが、私は1人の為だけだ」

 「大差なんてない。誰の為かはなんて些細なことであり、どちらも意思が強いというのが大切なのだ」

 そう言い、幻は私達に背を向けた。

 「だから、期待しているぞ。それでは、私はこれで」

 そう言い、幻は消え掛かったが、途中で止まった。

 「あ、そうそう。その力、いや、スキルはこのダンジョンを出たら無くなるぞ。必要無くなるからな」

 その言葉の後、幻は完全に消えたのだ。

 暫く静寂に包まれた。

 静寂を破ったのは自衛隊の足音だったのだ。

 足音はエレベーターの方に聞こえる。

 それから、自衛隊隊員はエレベーターに乗り込み、救助に向かったのだ。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する

清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。 たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。 神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。 悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。

はじめてのともだち

ぴっとすぅ
児童書・童話
迷子になってしまった星の子と冷たい海の友情のお話です。 誰かを思うことで今まで感じたことがなかったやさしさや勇気、そして仲間たちと力を合わせて奇跡を起こします。

義妹を溺愛するクズ王太子達のせいで国が滅びそうなので、ヒロインは義妹と愉快な仲間達と共にクズ達を容赦なく潰す事としました

やみなべ
恋愛
<最終話まで執筆済。毎日1話更新。完結保障有>  フランクフルト王国の辺境伯令嬢アーデルは王家からほぼ選択肢のない一方的な命令でクズな王太子デルフリと婚約を結ばされた。  アーデル自身は様々な政治的背景を理解した上で政略結婚を受け入れるも、クズは可愛げのないアーデルではなく天真爛漫な義妹のクラーラを溺愛する。  貴族令嬢達も田舎娘が無理やり王太子妃の座を奪い取ったと勘違いし、事あるごとにアーデルを侮辱。いつしか社交界でアーデルは『悪役令嬢』と称され、義姉から虐げられるクラーラこそが王太子妃に相応しいっとささやかれ始める。  そんな四面楚歌な中でアーデルはパーティー会場内でクズから冤罪の後に婚約破棄宣言。義妹に全てを奪われるという、味方が誰一人居ない幸薄い悪役令嬢系ヒロインの悲劇っと思いきや……  蓋を開ければ、超人のようなつよつよヒロインがお義姉ちゃん大好きっ子な義妹を筆頭とした愉快な仲間達と共にクズ達をぺんぺん草一本生えないぐらい徹底的に叩き潰す蹂躙劇だった。  もっとも、現実は小説より奇とはよく言ったもの。 「アーデル!!貴様、クラーラをどこにやった!!」 「…………はぁ?」  断罪劇直前にアーデル陣営であったはずのクラーラが突如行方をくらますという、ヒロインの予想外な展開ばかりが続いたせいで結果論での蹂躙劇だったのである。  義妹はなぜ消えたのか……?  ヒロインは無事にクズ王太子達をざまぁできるのか……?  義妹の隠された真実を知ったクズが取った選択肢は……?  そして、不穏なタグだらけなざまぁの正体とは……?  そんなお話となる予定です。  残虐描写もそれなりにある上、クズの末路は『ざまぁ』なんて言葉では済まない『ざまぁを超えるざまぁ』というか……  これ以上のひどい目ってないのではと思うぐらいの『限界突破に挑戦したざまぁ』という『稀にみる酷いざまぁ』な展開となっているので、そういうのが苦手な方はご注意ください。  逆に三度の飯よりざまぁ劇が大好きなドS読者様なら……  多分、期待に添えれる……かも? ※ このお話は『いつか桜の木の下で』の約120年後の隣国が舞台です。向こうを読んでればにやりと察せられる程度の繋がりしか持たせてないので、これ単体でも十分楽しめる内容にしてます。

俺、異世界で置き去りにされました!?

星宮歌
恋愛
学校からの帰宅途中、俺は、突如として現れた魔法陣によって、異世界へと召喚される。 ……なぜか、女の姿で。 魔王を討伐すると言い張る、男ども、プラス、一人の女。 何が何だか分からないままに脅されて、俺は、女の演技をしながら魔王討伐の旅に付き添い……魔王を討伐した直後、その場に置き去りにされるのだった。 片翼シリーズ第三弾。 今回の舞台は、ヴァイラン魔国です。 転性ものですよ~。 そして、この作品だけでも読めるようになっております。 それでは、どうぞ!

要注意な婚約者

しろ卯
恋愛
文官の家系に生まれた少年オリバーは、武官の名家と名高いイーグル家の令嬢スカーレットと婚約を結ぶ。 武を重んじるイーグル家独自のルールや、個性的なイーグルの一族に振り回されながらも、スカーレットを愛するがゆえに乗り越えていくオリバー。 一方スカーレットは、(イーグル一族に比べて)弱く脆いオリバーを護ろうと、どんどん強さを増していく。 人並み外れた才能と、互いを想う心を持った少年と少女の、ほのぼの?ラブコメディ。  ◇  一章幼少期編。二章辺境編。三章社交界編。

悪役令嬢の聖女への道 〜婚約破棄が導く奇跡〜

奏ゆい
恋愛
エミリアは悪役令嬢としての厳しい運命に苦しんでいたが、婚運命に抗う決意をする。 突如現れた聖女の力の謎の解明を経て、彼女の内面も変化していく。 ※全20話で執筆済です。

VRMMOの世界で薬屋を開いたレベル1の薬師

永遠ノ宮
ファンタジー
VRMMORPGゲームで世界1位の売り上げを誇る【ディーヴェルクオンライン】を今日始めた私はレベル1固定スキルを何故か手に入れてしまった。 固定スキルによってレベル1から進歩しなくなった私は、運営会社に問い合わせるも── 「大変申し訳ございません。そのようなスキルはないため、原因究明には時間がかかりますので……原因が分かるまでは薬師でもどうですか?」 と、何故か薬師を運営会社から勧められてしまい、仕方なく薬師を選ぶこと。 そして、ゲーム内で薬師を選択したその時──回復と毒のステータスがカンストしてしまった。 そして、ゲーム内人気役職ランキング最下位『薬師』、つまり私一人。 この世界で他プレイヤーを生かすも殺すも私一人。 そして、ゲームは運営に見放され、謎のシステムエラーでモンスターの暴走もたくさん! そんな中で出会う、素敵な仲間たちを後衛救護しながらゲーム内で薬屋やって生計立てます。 小説家になろう、日刊ランキング12位更新できました!! 祝1万PV突破ありがとうございます! 同タイトルです。 小説家になろうにも掲載中 ノベルバにも掲載中 ※HOTランキング5位ありがとうございます ※ファンタジー大賞100位内ありがとうございます

『死にたがりの僕は異世界でのんびり旅をする』

鴻上 紫苑
ファンタジー
僕は、卯月碧䒾(きさらぎ あおい)。 生まれてからずっと、家族には期待されず罵詈雑言や暴力を受ける日々、全校生徒からは要らない者として扱われ、教師らからの肉体的・精神的暴力を受け続け希望を持つことを諦めた。 そんな僕は、今日この世から消えようと行動に移す。 雨が降り寒空の中、意識を失い目が覚めると・・・ そこは、見たこともない白い雲の上でした。 「死ねるなら何処でもいい・・・」 そんな台詞しか口しない碧䒾にサプライズ! また、希望に満ちた日々を過ごしてほしい一心で異世界でのんびり旅をくれた。 のらりくらりと旅をする碧䒾、彼の行く末を見守る神様。 神様によって第二の人生を歩み始めたその日から、異世界では多種多様から追いかけ回されることとなった。 ・・・ココで死に場所探せばいっかぁ・・・ 私、鴻上がお送りする二作目です。 最初は笑って過ごせるかもしれませんが・・・ 正直、読み進めていくと辛く苦しく、負の感情で精神的に参ってしまうかもしれません。 中盤から落ち込み度100% 死を感じること100% な、作品に仕上げていきます。 読んでいて暗い無理って思う方は、回れ右をしタブを閉じて下さい。 更新は不定期です。

処理中です...