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後日談1 花束/ミリア(1)
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討伐隊の皆が旅から帰って来た。でも無事に、とは言い難い帰還だった。
マーニャさんは帰ってこなかった。
あの優しいマーニャさんが。
クエストを手伝ってほしいと頼まれると、「まったく、しょうがないわね」なんて言いながらも、美しい金の髪をかきあげて笑っていたマーニャさんが。
落ち込んでいると、あの透き通る紫水晶の瞳を細めながら、じっと話を聞いてくれたマーニャさんが。
皆と笑いながら、めいっぱい食べて、飲んで。お酒には強くて、いっくら飲んでも顔色のひとつも変えなくて。まるで皆のお姉さんみたいで…… それで……
約20年おきに復活していた魔王は、もう二度と復活しないのだそうだ。
その為に、勇者のマコト様が魔王を倒すだけではなく、大司教様と元神巫女であるマーニャさんの御力も必要だったのだと、前討伐隊のサマンサ様がお話をされた。
討伐隊のメルヴィン様はまた教会の奥に籠られたという。次の大司教になる為の準備をしているんじゃないかと、専らの噂だ。
教会と言えば、しばらく出かけると言って家を出て行ったジャスパーくんが、いつの間にやら教会でそこそこの地位についているそうだ。
今は討伐隊の後処理があるのだとかで、やっぱりあまり家に帰らないのよとシェリーさんが寂しそうに笑って言った。
私が『樫の木亭』で、いつもと変わらぬ毎日を過ごしている間に、いつもと変わらぬままに平和は訪れていた。
* * *
「「「お帰りなさいー!!」」」
皆の声に合わせてジョッキを掲げる。
今日の『樫の木亭』は、身内と常連さんだけの貸し切りだ。そうでもしないと、次から次へと人が押し寄せてしまう。
皆で囲むテーブルにはたくさんのご馳走が並べられた。色々な魔獣の串焼き肉に、もちろん焼き鳥も。シチューにグラタン、チーズにドライフルーツやナッツ、燻製肉、ソーセージ、サンドイッチには具材がこぼれそうな程に挟んである。
そんな料理に舌鼓を打ちながら、皆の旅の話を聞かせてもらう。皆とこんな時間を過ごすのは本当に久しぶりで、たくさんしゃべってたくさん笑った。
ふと見ると、相変わらず皆は肉ばかり食べて、サラダがなかなか進んでいない。
「まったく、世話がやけるんだから」
そんな言葉を零しながらサラダを皆に取り分けていると、ジャスパーくんが注文を取りに来た。
「ジャスパーくん、ごめんね。もう少ししたら私も手伝うからね」
そう言った私に、彼は苦笑いだけで応える。
「いいのよ。そいつはまた家出してどこかをほっつき歩いていてたんだから。ほらほら、その分しっかり働きなさいな」
カウンターからシェリーさんの声が飛んでくると、ジャスパーくんは慌てて厨房に戻っていった。
その後姿を見送って視線を戻すと、同じようにジャスパーくんを視線で追っていたリリちゃんと目が合った。
なんとなく可笑しくなって、ふふっと二人で笑った。
――皆が帰ってきたその日の晩に、リリちゃんの家に招待された。
そこでリリちゃん、シアンさん、デニスさんから、皆には内緒だとの前置きで話があった。
リリちゃんは、本当は獣人ではないのだそうだ。魔王に封じられていた神様に仕えている、聖獣の一人(人と言うのか疑問だけれど)なんだそうだ。
シアンさんもとっくに普通の人ではなくなっていたそうだ。彼もやはり聖獣から力を貰っていて…… だから歳もとらなかったのだと。
そしてデニスさん。彼も聖獣からスカウトされているそうで、将来的にはシアンさんと同じ様に聖獣の力を得る事になるらしい。
「まあ、そうは言っても、俺らは今まで通りで何も変わらないけどな。でも」
そこまで話すと、シアンさんは私の頭に手を載せて、ごめんなと言った。
「何がごめんなの? 別に謝る事ではないじゃない」
私がそう言うと、そっかそっかと笑いながら、まだ私の頭を撫でてくれる。
謝られるような事じゃあないのはわかっている。
でも、そうか…… うん……
3人はこの先、ずっとずっと歳をとらずに、ずっと長生きをするんだろう。
私だけ一人で歳をとって…… なんだか置いて行かれてしまうような気がして、ちょっと寂しい気持ちになっていた。
「ねえ、君は巫女の力を強く持っているようだね」
「え……?」
ふいに話しかけられて、自分がぼーっと思い出し事をしていた事に気が付いた。
見ると、リリちゃんが連れてきたお友達の一人、ギルさんがにこにこと微笑みながらこちらを見ている。
「ほら、今度王都に新しい神様の神殿を作るだろう? 良かったらそこの巫女をやってもらえないかな?」
どうやらギルさんは、その神殿の関係者らしい。
詳しい話を聞かせてもらうと、ここの給仕の仕事と兼業して構わないだとか、あまつさえ空いた時間だけでいいだとか、なんだか破格の条件だ。
しかも私一人でなく、ギルさんと一緒のお仕事なんだそうで。それなら私にでもできるだろう。
私には皆のような戦える力はない。
皆が魔王を倒すために旅をしている間にも、私はいつも通りに過ごしていただけで、何もできることはなかった。
でも平和になってからも、まだやることはある。私も皆のように何かできるのなら……
そう思って、その話を受ける事にした。
でもまさか、私に話をしてくれたギルさん本人が、その新しい神様だとは思わなかったけれど。
マーニャさんは帰ってこなかった。
あの優しいマーニャさんが。
クエストを手伝ってほしいと頼まれると、「まったく、しょうがないわね」なんて言いながらも、美しい金の髪をかきあげて笑っていたマーニャさんが。
落ち込んでいると、あの透き通る紫水晶の瞳を細めながら、じっと話を聞いてくれたマーニャさんが。
皆と笑いながら、めいっぱい食べて、飲んで。お酒には強くて、いっくら飲んでも顔色のひとつも変えなくて。まるで皆のお姉さんみたいで…… それで……
約20年おきに復活していた魔王は、もう二度と復活しないのだそうだ。
その為に、勇者のマコト様が魔王を倒すだけではなく、大司教様と元神巫女であるマーニャさんの御力も必要だったのだと、前討伐隊のサマンサ様がお話をされた。
討伐隊のメルヴィン様はまた教会の奥に籠られたという。次の大司教になる為の準備をしているんじゃないかと、専らの噂だ。
教会と言えば、しばらく出かけると言って家を出て行ったジャスパーくんが、いつの間にやら教会でそこそこの地位についているそうだ。
今は討伐隊の後処理があるのだとかで、やっぱりあまり家に帰らないのよとシェリーさんが寂しそうに笑って言った。
私が『樫の木亭』で、いつもと変わらぬ毎日を過ごしている間に、いつもと変わらぬままに平和は訪れていた。
* * *
「「「お帰りなさいー!!」」」
皆の声に合わせてジョッキを掲げる。
今日の『樫の木亭』は、身内と常連さんだけの貸し切りだ。そうでもしないと、次から次へと人が押し寄せてしまう。
皆で囲むテーブルにはたくさんのご馳走が並べられた。色々な魔獣の串焼き肉に、もちろん焼き鳥も。シチューにグラタン、チーズにドライフルーツやナッツ、燻製肉、ソーセージ、サンドイッチには具材がこぼれそうな程に挟んである。
そんな料理に舌鼓を打ちながら、皆の旅の話を聞かせてもらう。皆とこんな時間を過ごすのは本当に久しぶりで、たくさんしゃべってたくさん笑った。
ふと見ると、相変わらず皆は肉ばかり食べて、サラダがなかなか進んでいない。
「まったく、世話がやけるんだから」
そんな言葉を零しながらサラダを皆に取り分けていると、ジャスパーくんが注文を取りに来た。
「ジャスパーくん、ごめんね。もう少ししたら私も手伝うからね」
そう言った私に、彼は苦笑いだけで応える。
「いいのよ。そいつはまた家出してどこかをほっつき歩いていてたんだから。ほらほら、その分しっかり働きなさいな」
カウンターからシェリーさんの声が飛んでくると、ジャスパーくんは慌てて厨房に戻っていった。
その後姿を見送って視線を戻すと、同じようにジャスパーくんを視線で追っていたリリちゃんと目が合った。
なんとなく可笑しくなって、ふふっと二人で笑った。
――皆が帰ってきたその日の晩に、リリちゃんの家に招待された。
そこでリリちゃん、シアンさん、デニスさんから、皆には内緒だとの前置きで話があった。
リリちゃんは、本当は獣人ではないのだそうだ。魔王に封じられていた神様に仕えている、聖獣の一人(人と言うのか疑問だけれど)なんだそうだ。
シアンさんもとっくに普通の人ではなくなっていたそうだ。彼もやはり聖獣から力を貰っていて…… だから歳もとらなかったのだと。
そしてデニスさん。彼も聖獣からスカウトされているそうで、将来的にはシアンさんと同じ様に聖獣の力を得る事になるらしい。
「まあ、そうは言っても、俺らは今まで通りで何も変わらないけどな。でも」
そこまで話すと、シアンさんは私の頭に手を載せて、ごめんなと言った。
「何がごめんなの? 別に謝る事ではないじゃない」
私がそう言うと、そっかそっかと笑いながら、まだ私の頭を撫でてくれる。
謝られるような事じゃあないのはわかっている。
でも、そうか…… うん……
3人はこの先、ずっとずっと歳をとらずに、ずっと長生きをするんだろう。
私だけ一人で歳をとって…… なんだか置いて行かれてしまうような気がして、ちょっと寂しい気持ちになっていた。
「ねえ、君は巫女の力を強く持っているようだね」
「え……?」
ふいに話しかけられて、自分がぼーっと思い出し事をしていた事に気が付いた。
見ると、リリちゃんが連れてきたお友達の一人、ギルさんがにこにこと微笑みながらこちらを見ている。
「ほら、今度王都に新しい神様の神殿を作るだろう? 良かったらそこの巫女をやってもらえないかな?」
どうやらギルさんは、その神殿の関係者らしい。
詳しい話を聞かせてもらうと、ここの給仕の仕事と兼業して構わないだとか、あまつさえ空いた時間だけでいいだとか、なんだか破格の条件だ。
しかも私一人でなく、ギルさんと一緒のお仕事なんだそうで。それなら私にでもできるだろう。
私には皆のような戦える力はない。
皆が魔王を倒すために旅をしている間にも、私はいつも通りに過ごしていただけで、何もできることはなかった。
でも平和になってからも、まだやることはある。私も皆のように何かできるのなら……
そう思って、その話を受ける事にした。
でもまさか、私に話をしてくれたギルさん本人が、その新しい神様だとは思わなかったけれど。
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