288 / 333
終わりへの旅
126 魔王城/シアン(1)
しおりを挟む
◆登場人物紹介
・魔王討伐隊…リリアン(主人公・サポーター)、シアン(顧問役)、ニール(英雄・リーダー)、マコト(勇者・異世界人)、デニス(英雄)、マーニャ(英雄)、ジャスパー(サポーター)、アラン(サポーター)
・ルシアス…魔王配下の上位魔族の一人。戦闘に長けていて、黒い鎧を着た戦士の姿をしている。16年前、九尾を殺した。
====================
「ご、ごめん…… 俺、リーダーなのに…… 何にもできなかった……」
ルシアスと名乗った鎧の魔族が去った後、ニールはそう言って項垂れた。
ジャスパーは頭を抱えながら、何かをぶつぶつと呟いていた。
マーニャはリリアンに詰め寄っていて、リリアンは首を振りながらただ謝っていて、そんなリリアンをマコトが庇った。
俺らに回復魔法をかけてくれたのはアランだった。アラン自身も肩から血を流していた。あの魔族の斬撃が当たったのだろう。
「なあ」
デニスが俺に訊いた。
「あれは…… リリアンの魔法はなんだったんだ?」
「『転移の魔法』だよな。でも……」
他のヤツらだけを転移させるだなんて、しかもあんなに大きな魔法陣は見た事がない。
マーニャのあの様子を見る限り、おそらく教会の魔法使いでも使えないほどの魔法なんだろう。
「もう少し…… もう少し待ってください」
悲しそうな目でマーニャにそう言っているリリアンの瞳の奥で、何かが鈍く光ったように見えた。
* * *
結局、魔王城へ辿り着いても尚、リリアンのマジックバッグはその効力を失う事はなかった。
あれ以来、「何故」とマーニャがリリアンを追求する事はなくなった。でも多分皆が思っている。彼女が只ならぬ者なのだろうと。
魔王の城は広く、深く、さらに深い。普通に進んでも魔王の玉座には辿り着けない。
この城はそれ自体が大きなダンジョンになっており、外からの招かざる客を拒んでいる。
これが俺が今回の討伐隊に同行した理由の一つでもある。
でも、16年前の記憶を必死で頭の中から掘り返そうとしてみても、なかなか上手く繋がらない。
「確か…… こっちだ」
ようやく見つけた僅かな記憶を元に、右手の道を指さした。
「あの時、最初は左の道を進んだ。ここからかなり進んだ先に、大きな部屋があって。そこで魔族と交戦した。そして……」
……先の道に向けている自分の指から、視線を外すことができない。俺には、彼女の顔を見ることができない。
「アッシュが死んだ」
ニールが小さく驚いたような声を上げたのが聞こえた。
それ以外には、誰も何も言わなかった。
「あの後ここまで退却して、今度は右の道を行った。左の道も間違いじゃなかったかもしれない。でも少なくとも右の道は確実に玉座に繋がっている。でも……」
ふぅと、息を吐いた。
「きっと、あいつがいる」
その名前を言う事はできなかった。
「この間の、鎧の魔族か?」
「……ああ」
でも多分それだけじゃない。それを口にする勇気が、俺にはない。
* * *
時には王城のような広い廊下を。
時には洞窟のような岩だらけの道を。
また崩れた壁を乗り越え、瓦礫の間をぬうように。
ひたすらに進んだ先で大きな広間に出た。魔法の灯りにでも照らされているのか、広間はぼんやりと薄い明るさを保っている。
その中央に、見た事のある少年が立っていた。
「いらっしゃい。良く来たね」
先日、王都で会ったマルクスだ。でも今のあいつには、ルシアスと同じような黒い魔力が纏わりついている。
マルクスの姿を認めたニールが、一歩前に出て口を開いた。
「マルクス…… やっぱりお前……」
「そうだと言ったじゃないか」
そう言って、少年は少し寂しそうに微笑んだ。
「俺はお前と戦いたくない」
「おれだって、君たちと戦いたくないよ。でも少なくとも君たちは、ここに遊びに来たんじゃないんだろう?」
「……」
「おれたちの国を侵しているのは君たちだよ。おれたちは父様を守らなきゃいけないんだ」
「だって…… それは魔族が人間を……」
「この星のニンゲンは、全て父様の糧だ。父様に食われて当然の魂を、集めて何がいけないんだ?」
……そんなひどい事を当たり前の様に言う。見た目はあどけない少年でも、やっぱりあれは魔族なんだ。
「ニンゲンだって食う為に獣を狩るだろう? おれたちだって生きる為に獣を捕って食べている。父様はそれがニンゲンなだけだ。それに……」
マルクスの人好きのしそうなその顔が、冷めた表情に変わった。
「父様を死なせるわけにはいかないんだよ。だから、おれは君たちを止めなきゃいけない」
マルクスがそう言うと、彼の足元から魔法陣が現れる。そこから光が湧き上がり、見上げる程の大きさの二つの石像の形をとった。
====================
・マルクス…魔王配下の上位魔族の一人。10歳程度の少年の姿をしていて、ダンジョンなど物を作る力に長けている。戦闘は苦手。王都で薬売りをしているときにニールと親しくなった。
・魔王討伐隊…リリアン(主人公・サポーター)、シアン(顧問役)、ニール(英雄・リーダー)、マコト(勇者・異世界人)、デニス(英雄)、マーニャ(英雄)、ジャスパー(サポーター)、アラン(サポーター)
・ルシアス…魔王配下の上位魔族の一人。戦闘に長けていて、黒い鎧を着た戦士の姿をしている。16年前、九尾を殺した。
====================
「ご、ごめん…… 俺、リーダーなのに…… 何にもできなかった……」
ルシアスと名乗った鎧の魔族が去った後、ニールはそう言って項垂れた。
ジャスパーは頭を抱えながら、何かをぶつぶつと呟いていた。
マーニャはリリアンに詰め寄っていて、リリアンは首を振りながらただ謝っていて、そんなリリアンをマコトが庇った。
俺らに回復魔法をかけてくれたのはアランだった。アラン自身も肩から血を流していた。あの魔族の斬撃が当たったのだろう。
「なあ」
デニスが俺に訊いた。
「あれは…… リリアンの魔法はなんだったんだ?」
「『転移の魔法』だよな。でも……」
他のヤツらだけを転移させるだなんて、しかもあんなに大きな魔法陣は見た事がない。
マーニャのあの様子を見る限り、おそらく教会の魔法使いでも使えないほどの魔法なんだろう。
「もう少し…… もう少し待ってください」
悲しそうな目でマーニャにそう言っているリリアンの瞳の奥で、何かが鈍く光ったように見えた。
* * *
結局、魔王城へ辿り着いても尚、リリアンのマジックバッグはその効力を失う事はなかった。
あれ以来、「何故」とマーニャがリリアンを追求する事はなくなった。でも多分皆が思っている。彼女が只ならぬ者なのだろうと。
魔王の城は広く、深く、さらに深い。普通に進んでも魔王の玉座には辿り着けない。
この城はそれ自体が大きなダンジョンになっており、外からの招かざる客を拒んでいる。
これが俺が今回の討伐隊に同行した理由の一つでもある。
でも、16年前の記憶を必死で頭の中から掘り返そうとしてみても、なかなか上手く繋がらない。
「確か…… こっちだ」
ようやく見つけた僅かな記憶を元に、右手の道を指さした。
「あの時、最初は左の道を進んだ。ここからかなり進んだ先に、大きな部屋があって。そこで魔族と交戦した。そして……」
……先の道に向けている自分の指から、視線を外すことができない。俺には、彼女の顔を見ることができない。
「アッシュが死んだ」
ニールが小さく驚いたような声を上げたのが聞こえた。
それ以外には、誰も何も言わなかった。
「あの後ここまで退却して、今度は右の道を行った。左の道も間違いじゃなかったかもしれない。でも少なくとも右の道は確実に玉座に繋がっている。でも……」
ふぅと、息を吐いた。
「きっと、あいつがいる」
その名前を言う事はできなかった。
「この間の、鎧の魔族か?」
「……ああ」
でも多分それだけじゃない。それを口にする勇気が、俺にはない。
* * *
時には王城のような広い廊下を。
時には洞窟のような岩だらけの道を。
また崩れた壁を乗り越え、瓦礫の間をぬうように。
ひたすらに進んだ先で大きな広間に出た。魔法の灯りにでも照らされているのか、広間はぼんやりと薄い明るさを保っている。
その中央に、見た事のある少年が立っていた。
「いらっしゃい。良く来たね」
先日、王都で会ったマルクスだ。でも今のあいつには、ルシアスと同じような黒い魔力が纏わりついている。
マルクスの姿を認めたニールが、一歩前に出て口を開いた。
「マルクス…… やっぱりお前……」
「そうだと言ったじゃないか」
そう言って、少年は少し寂しそうに微笑んだ。
「俺はお前と戦いたくない」
「おれだって、君たちと戦いたくないよ。でも少なくとも君たちは、ここに遊びに来たんじゃないんだろう?」
「……」
「おれたちの国を侵しているのは君たちだよ。おれたちは父様を守らなきゃいけないんだ」
「だって…… それは魔族が人間を……」
「この星のニンゲンは、全て父様の糧だ。父様に食われて当然の魂を、集めて何がいけないんだ?」
……そんなひどい事を当たり前の様に言う。見た目はあどけない少年でも、やっぱりあれは魔族なんだ。
「ニンゲンだって食う為に獣を狩るだろう? おれたちだって生きる為に獣を捕って食べている。父様はそれがニンゲンなだけだ。それに……」
マルクスの人好きのしそうなその顔が、冷めた表情に変わった。
「父様を死なせるわけにはいかないんだよ。だから、おれは君たちを止めなきゃいけない」
マルクスがそう言うと、彼の足元から魔法陣が現れる。そこから光が湧き上がり、見上げる程の大きさの二つの石像の形をとった。
====================
・マルクス…魔王配下の上位魔族の一人。10歳程度の少年の姿をしていて、ダンジョンなど物を作る力に長けている。戦闘は苦手。王都で薬売りをしているときにニールと親しくなった。
0
お気に入りに追加
128
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
【完結】わたしはお飾りの妻らしい。 〜16歳で継母になりました〜
たろ
恋愛
結婚して半年。
わたしはこの家には必要がない。
政略結婚。
愛は何処にもない。
要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。
お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。
とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。
そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。
旦那様には愛する人がいる。
わたしはお飾りの妻。
せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」
まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。
気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。
私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。
母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。
父を断罪できるチャンスは今しかない。
「お父様は悪くないの!
お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!
だからお父様はお母様に毒をもったの!
お願いお父様を捕まえないで!」
私は声の限りに叫んでいた。
心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。
※他サイトにも投稿しています。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※タイトル変更しました。
旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」
【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。
112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。
目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。
死にたくない。あんな最期になりたくない。
そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる