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終わりへの旅

125 遭遇/ニール(2)

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※残酷な描写と思われる部分があります。ご注意下さい。

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女
・ニール(ニコラス)…王族の一人で、前『英雄』クリストファーの息子。金髪翠眼の少年
・ウォレス…シルディス国の第二王子。討伐隊の一人だったが、任務を放棄した。
・マーニャ(マーガレット)…教会の魔法使いで、先代の神巫女。金髪に紫の瞳を持つ美女
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、今回の討伐隊の顧問役。リリアンに執心している。栗毛短髪の青年
・デニス…Sランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。栗色の髪の長身の青年
・ジャスパー(メルヴィン)…教会の魔法使い。黒髪長身のメルヴィンの姿に化けている。

====================

 先を行く騎士団にようやく追いついたのは、魔族領に入って五日もたってからだった。
 最後尾の騎士が追ってくる俺たちに気が付くと、先頭へ伝令が飛んだのだろう。隊の足が止まった。

「ウォレス、お前こんなところまで来て、いったいどうするつもりだ!?」
「うるさい! 勇者の剣なんかなくても、要は魔王を倒せばいいんだろう?」

 確かに騎士団も精鋭揃いだ。しかも見た感じ、俺たちの3倍以上の人数がいる。神の加護がなくても、これだけの騎士がいればと、そう思っているのだろう。

「無謀すぎるわ。彼らはそんなに甘くないわよ」
 冷たい口調でマーニャさんが言った。
「それに勇者の剣以外で魔族を倒してもって言ったでしょう?」

「俺らはウォレスを止めたんだ。それでも聞かなかったウォレスがどうなろうと知ったこっちゃねえ。でもあの中には町に家族を残している騎士も大勢いるだろう。無駄死にはさせられねえ」

 畳みかけるようなシアンさんの言葉を聞いて、騎士たちがわずかに騒めいた。

「俺の言う事よりも、あいつらの与太話よたばなしを信じるのか?」
 ウォレスはそう言うが、さすがに前討伐隊のシアンさん、さらに元神巫女でやはり討伐隊の経験があるマーニャさんの言葉であれば、信憑性しんぴょうせいはこっちの方が高い。

「ウォレス様はそこまで悪い方じゃあないと思ってたんですが…… 騎士の方々を巻き込むのはよろしくないですね」
「悪い奴じゃないかぁ? ミリアに手を出そうとしたのを、俺は許してないぞ」
「ああ、あの件については有罪ですね」

 リリアンとシアンさんが小声でこそこそと話すのが聞こえた。
 ミリアさんの事って…… あの事件だよな? なんで二人が知っているんだろう? ミリアさんが話したんだろうか。

「まだ間に合うわ。あなた方はここで帰りなさい。ぐずぐずしていると魔族に見つかるわよ」
 マーニャさんが騎士団に向かって声を張り上げる。

「手遅れね」
 リリアンが言った。


 彼女は皆とまるで違う方向を見ていた。
 その視線の先には黒い鎧を着た戦士の姿…… その体には、あの時のオルトロスと同じように、黒い魔力を纏っている。
 あれは、おそらく魔族だ……

「あ、あの魔族は…… アッシュを……」
 シアンさんが震えるような声を零す。
 やっぱり。あれが俺たちの敵……

「全く……人の城の庭で、余所者よそものが騒がしい事だ」
 戦士の口から、重苦しい声が響いた。

「え……? 魔族って話せるの……か?」
 魔族の言葉に、騎士たちが今まで以上に騒めき立った。

 俺たちは先にマルクスと話をしているから、魔族と対話ができる事を知っている。
 でも騎士団の連中は、当然それを知らなかったのだろう。

「お、お前たちを成敗する! 罪のない人間たちを傷つける事はさせない!」
 動揺を抑えてか、少し震えるような声でウォレスが魔族に向かって叫んだ。

「罪がない、だと?」
 一段と低い声。魔族の戦士が俺たちに向けて足を踏み出すと、ガチャリと金属がこすれる音がした。

「我らの父の命を奪おうとするお前たちに、罪がないと言うのか? さらに、こうして攻め入っているのはどちらの方だ?」

 そうだ。ここは魔族の国だ。人間の国ではない。攻め入っているのは俺たち――

 いつの間に出したのか、魔族の戦士が両の手に持った大きな2本の剣を振り上げた。

「やべえ!!」
 一言叫んで、シアンさんが魔族に向かって駆けだす。いや、シアンさんだけじゃあない。そのすぐ後ろからリリアンも駆けている。

 勢いよく振り降ろされた魔族の剣を、それぞれシアンさんとリリアンが剣と鉤爪クローで受け止めた。
 武器同士がぶつかる音が大きく響く。が、次の瞬間、体の小さいリリアンはそのまま弾き返されてしまった。

 魔族の剣は彼女を飛ばしてなお、地面に大きな亀裂を作った。シアンさんとリリアンが止めなかったら、俺たちは大地ごと割かれていたかもしれない。
 奴はもう一度剣を振り上げるが、今度は二人に遅れて駆けだしていたデニスさんがそれを受け止める。シアンさんとデニスさんの二人がかりで、ようやく魔族の剣が止まった。

「ジャスパー!!」
 マーニャさんの合図で、魔法使い二人がそれぞれ水と火の魔法を魔族に放つ。
 それを見た魔族が、二人に抑えられていた剣に力をこめると、難なく振り払った。そのまま自身の前で交差させた剣で、魔法使いの魔法をも払い散らす。

 なんだよ、あれ…… 今まで相手にしていた魔獣たちとはケタ違いの強さなんじゃないか?

「わ、我々も加勢せねば!!」
 慌てて剣を構え直した騎士たちが。次々と魔族に向かって駆けだした。
 その間で、ウォレスは呆然ぼうぜんと立ち尽くしている。

「やめなさい! 加護のない貴方たちでは、剣先すら届かないわ」
 マーニャさんが叫んでも、騎士たちの足は止まらない。
 魔族が大剣を一振りすると、剣を振り上げた騎士たちの何人かがまるで紙のように千切れた。

 目の前で血しぶきを上げた仲間の半身が、それぞれ別の方角に吹き飛ぶのを見て、ようやく後続の騎士の足が止まった。

「マーガレットの言う通りだ! お前らは足手まといにしかならねえ!」
 立ち上がったシアンさんが騎士たちに向かって叫ぶ。

「私が帰します!!」
 答えたのはリリアンだった。

 え? 帰すってどういう事だ??

 リリアンが聞きなれない呪文を唱えると、足元に今まで見たことのないような大きな魔法陣が現れ、生き残った騎士たちとウォレスがキラキラと光を纏いはじめた。
 何が起きているのかもわからないままに、光っていた彼らはそのまますぅと消えてしまった。

 魔法陣が消えて、残されたのは呆気あっけにとられている俺たち。
 そして何故か剣を下ろしている、鎧姿の魔族――

「……ほほう。お前のその魔力の匂い、良く知っているぞ。面白い……」
 そう言った魔族の体がさっきのウォレスたちのように光に包まれる。

「我の名はルシアス。お前たちは歓迎しよう。改めて、私のところまでくるがいい」

 そう言って、その魔族は消えた。

====================

(メモ)
 魔族(Ep.10、#79)
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