上 下
282 / 333
終わりへの旅

123 繋がり(2)

しおりを挟む
◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女
・ジャスパー(メルヴィン)…教会の魔法使い。黒髪長身のメルヴィンの姿に化けている。
・ゴードン…前・魔王討伐隊の武器を作った鍛冶師。銀鼠色の髪を束ねた壮年のドワーフ
・ニール(ニコラス)…王族の一人で、前『英雄』クリストファーの息子。金髪翠眼の少年
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、今回の討伐隊の顧問役。リリアンに執心している。栗毛短髪の青年
・デニス…Sランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。栗色の髪の長身の青年

====================

 今のジャスパーさんは神秘魔法でメルヴィンの姿に化けている。この魔法は普通の人には容易く見破れるものではないはずだ。

「……確かにドワーフは他の種族に比べたら魔力は低い。でも長年やってりゃあ、商売もんのことくらいはわかるようになるさ。お前はこの杖で魔法を使っているだろう? まずメルヴィンとは杖を持つ位置が違う。わずかだが手の角度も違う。それと魔力の出力の癖も違うな。まあ、これについてはなんとなくだがな」
 ゴードンさんの言葉を聞いてジャスパーさんは、じっと自分の右の手を開いて眺めた。

「デニスみたいに鍛え方で癖が変わったのと、使い手が違ったのではわけがちがう。流石にわかるさ。それにな」
 そう言ってゴードンさんは、少し声を落として眉を寄せた。
「もうずっとこの杖にはあいつの魔力が籠められていない」
「魔力?」
「ああそうだ。俺が作った『英雄』たちの武器は、あいつら3人の魔力と呼応し合うように作ってある」
「なるほど……」

 ジャスパーさんが杖を持ち直しその手に魔力を籠めると、杖は魔法を発動するときのように少し光った。でも彼が力を弱めると、光は何事もなかったように散って落ちた。
とは魔力が違うからな」
 さあとゴードンさんが促すと、ジャスパーさんは大人しく杖と右手を差し出した。

 その話を横で聞いていたニールは不思議そうに自分の剣を眺めると、ジャスパーさんと同じように剣を持ち直して魔力を籠める。その光は先ほどと違い、ニールが力を弱めても落ちる事もなく、剣に染み込むようにゆっくりと消えていった。

「その剣はもうお前の魔力用に調整してあるぞ」
 目を丸くさせているニールに、ゴードンさんは言葉だけを投げた。

「うわー、すっげえ。あともう一つはアシュリー様の剣だよな。どこにあるんだろう?」
「ねえよ」
 マコトさんに武器の話を聞かせていたはずのシアさんが、いつの間にこちらを見ている。
「アッシュの剣は、あいつと一緒に巨大な魔獣に飲み込まれちまった」
 シアさんは、ほんの一瞬、視線だけを私に向けた。
「だから、もう無い」
 そう言うと、また武器棚の方を向き直してこちらに背を向けた。

 ――今のは、なんだろう?
 なんだかわざわざ私に聞かせたような……

 そういえば。
 ギヴリスに出会った時、私の剣は――
「リリアン? どうしたんだ?」

 ニールの言葉でハッと気がついた。
「ああ、ごめん。ちょっと思い出し事をしていて」
 でも何を思い出しかけたか、もう忘れてしまった。
「ったく、おっさんはデリカシーがないよな」
 反対側から、デニスさんがこそりと私に小声で言った。

 ああそうか。前世の私が死んだ時の話をしたから、シアさんは私の事を気にしてこちらを見てたのか。
 デニスさんは、あの話で私が悲しい事を思い出したと思って、気遣ってくれている。
「気にしてませんよ」
 そう言って笑うと、デニスさんはほっと息を吐いた。

 * * *

 結局、皆の武器をゴードンさんに一度預ける事になった。
 いつぞやのように翌朝工房を訪ねると、眠そうな目のゴードンさんに出迎えられた。やはり徹夜だったらしい。
 相変わらずの腕前で、皆の武器は一番使いやすいように調整され、それぞれの手にしっくりくる様になっていた。

 別れの時、ゴードンさんが声をかけてきた。
「なあ、お嬢ちゃん」
「はい?」
 皆は気づかずに先に工房を出て行き、私だけ足が止まる。
「お前は、今は幸せかい」
「え?」
 思いがけぬ事を訊かれて、言葉が止まった。

「俺の知っていたアイツはどこか寂しそうだった」
 アイツ…… ゴードンさんがそう言うのはきっと……
「俺の作った武器を使うなら、今度こそ幸せになってほしいんだよ」
 『今度こそ』と、ゴードンさんは言った。

「……また、お酒を持ってきます」
「ああ、待ってるぞ」
 そう言って、少し寂しそうに笑って手を振るゴードンさんに、黙ってお辞儀をした。

====================

(メモ)
 巨大な魔獣(Ep.17)
(#8)
(Ep.5)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

屋根裏の魔女、恋を忍ぶ

如月 安
恋愛
――大好き。 決して、叶わない恋だとわかっているけど、夢で想うだけで、幸せです。 と思ってただけなのに、なんで、こんなことに……。 ワケあって、伯爵邸の屋根裏に引き籠るリリアーナは、巷では魔女だと噂されていた。 そんな中、社交界の華と呼ばれる姉とその婚約者である公爵が、晩餐で毒を盛られた。 「犯人はリリアーナ」と誰もが言い、暗殺計画まで持ち上がっている様子。 暗殺を命じられたのは、わたしを冷然と見やる、片想いの相手。 引き籠り歴十二年。誰よりも隠れ暮らすのは得意。見つからないように隠れて逃げ続け、生き延びてみせる! と決意したのも束の間、あっさりと絶体絶命に陥る。 諦めかけたその時、事件が起こり……? 人の顔色伺い過ぎて、謎解き上手になった小心者令嬢と不器用騎士が、途中から両片想いを拗らせてゆくお話です。 暗ーい感じで始まりますが、最後は明るく終わる予定。『ざまぁ』はそれほどありません。  ≪第二部≫(第一部のネタバレややあり?)  幼いレイモンドとその両親を乗せた馬車が、夜の森で襲われた。  手をくだしたのは『黒い制服の騎士』で――――――。  一方、幸せいっぱいのロンサール邸では、ウェイン卿とノワゼット公爵、ランブラーとロブ卿までが、ブランシュとわたしを王都から遠ざけようとしているみたい。  何か理由があるの?  どうやら、わたしたち姉妹には秘密にしたいほど不穏な企みが、どこかで進行しているようす。  その黒幕は、毒蛇公爵の異名をとるブルソール国務卿?  それとも、闇社会を牛耳る裏組織?  ……いえいえ! わたしのような小娘が首を突っ込むような問題じゃありませんとも。  そんなことは騎士の皆様にお任せして、次の社交シーズンに向けて頑張ろうっと。  目標は、素敵で完璧なウェイン卿の隣に立つにふさわしい淑女になること!    だけど、あら?  わたし、あることに気がついちゃったかも……?    あまあま恋愛×少しファンタジー×コージーミステリーなお話です。    登場人物たち悩み抜いて迷走しますが、明るく完結予定です。  不定期更新とさせていただきます。

仮面幼女の面倒厄介(回避したい)録

ファンタジー
 2024年7月22日、『仮面幼女の面倒厄介(回避したい)録』へタイトルを変更しました。  道中出来ていないというのが主な理由です。こんなはずでは……  小柄な幼女エリィは、気づけば仮面で顔は半分覆われ、身体も顔以外水銀のような状態で転生していた。前世の記憶があるせいか、感情の起伏に少々乏しくあまり子供らしくないが、子供ロールプレイをする趣味はないので自分的には問題はないようだ。  ただ剣と魔法の世界らしいのに、世界のシステムがどういう訳か一部破綻していて、まともに魔法が使えないというのが残念極まりない。エリィの転生理由もそこにありそうだが、一番にしないといけない事は自分の欠片探しだと言われる。  何にせよ便利且つ最強な転生特典豪華チートもりもりで乗り切っていくとしよう。  そんな欠片探しの旅の仲間は、関西弁な有翼青猫に白銀グリフォン、スライム、執事なシマエナガにクリスタルなイモムシや金色毛玉こと大狐と、一貫性も何もないが、そこは気にする必要はないだろう。  それにしても確かに便利最強な転生チートで乗り切る所存とは言ったものの、何かある度に増えていく技能と言うか能力と言うかスキルや魔法に箱庭等々、明らかにバレちゃダメなレベル。とはいえ便利なのは確かだし使わないと勿体ないのだから仕方ない。  もしかしたらちょっぴりダークでご都合主義満載なエリィ達一行が、自らの常識のなさや人間たちとの関わりに苦労しつつ厄介事に巻き込まれてていくと言う、そんな物語。 ※なろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観の為、『実際』とは違う部分が多数あります事等、どうぞお許しください。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※リアル都合により不定期更新となっております。 ◆◆◆◆◆  未だに至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。  誤字脱字他は標準搭載となっております。本当に申し訳ありません<(_ _)>

【読み切り版】婚約破棄された先で助けたお爺さんが、実はエルフの国の王子様で死ぬほど溺愛される

卯月 三日
恋愛
公爵家に生まれたアンフェリカは、政略結婚で王太子との婚約者となる。しかし、アンフェリカの持っているスキルは、「種(たね)の保護」という訳の分からないものだった。 それに不満を持っていた王太子は、彼女に婚約破棄を告げる。 王太子に捨てられた主人公は、辺境に飛ばされ、傷心のまま一人街をさまよっていた。そこで出会ったのは、一人の老人。 老人を励ました主人公だったが、実はその老人は人間の世界にやってきたエルフの国の王子だった。彼は、彼女の心の美しさに感動し恋に落ちる。 そして、エルフの国に二人で向かったのだが、彼女の持つスキルの真の力に気付き、エルフの国が救われることになる物語。 読み切り作品です。 いくつかあげている中から、反応のよかったものを連載します! どうか、感想、評価をよろしくお願いします!

【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理

SAI
ファンタジー
魔法が当たり前に存在する世界で17歳の美少女ライファは最低ランクの魔力しか持っていない。夢で見たレシピを再現するため、魔女の家で暮らしながら料理を作る日々を過ごしていた。  低い魔力でありながら神からの贈り物とされるスキルを持つが故、国を揺るがす大きな渦に巻き込まれてゆく。 恋愛×料理×調合

【完結】お飾り契約でしたが、契約更新には至らないようです

BBやっこ
恋愛
「分かれてくれ!」土下座せんばかりの勢いの旦那様。 その横には、メイドとして支えていた女性がいいます。お手をつけたという事ですか。 残念ながら、契約違反ですね。所定の手続きにより金銭の要求。 あ、早急に引っ越しますので。あとはご依頼主様からお聞きください。

公爵家御令嬢に転生?転生先の努力が報われる世界で可愛いもののために本気出します「えっ?私悪役令嬢なんですか?」

へたまろ
ファンタジー
ここは、とある恋愛ゲームの舞台……かもしれない場所。 主人公は、まったく情報を持たない前世の知識を持っただけの女性。 王子様との婚約、学園での青春、多くの苦難の末に……婚約破棄されて修道院に送られる女の子に転生したただの女性。 修道院に送られる途中で闇に屠られる、可哀そうな……やってたことを考えればさほど可哀そうでも……いや、罰が重すぎる程度の悪役令嬢に転生。 しかし、この女性はそういった予備知識を全く持ってなかった。 だから、そんな筋書きは全く関係なし。 レベルもスキルも魔法もある世界に転生したからにはやることは、一つ! やれば結果が数字や能力で確実に出せる世界。 そんな世界に生まれ変わったら? レベル上げ、やらいでか! 持って生まれたスキル? 全言語理解と、鑑定のみですが? 三種の神器? 初心者パック? 肝心の、空間収納が無いなんて……無いなら、努力でどうにかしてやろうじゃないか! そう、その女性は恋愛ゲームより、王道派ファンタジー。 転生恋愛小説よりも、やりこみチートラノベの愛読者だった! 子供達大好き、みんな友達精神で周りを巻き込むお転婆お嬢様がここに爆誕。 この国の王子の婚約者で、悪役令嬢……らしい? かもしれない? 周囲の反応をよそに、今日もお嬢様は好き勝手やらかす。 周囲を混乱を巻き起こすお嬢様は、平穏無事に王妃になれるのか! 死亡フラグを回避できるのか! そんなの関係ない! 私は、私の道を行く! 王子に恋しない悪役令嬢は、可愛いものを愛でつつやりたいことをする。 コメディエンヌな彼女の、生涯を綴った物語です。

処理中です...