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終わりへの旅
123 繋がり(2)
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◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女
・ジャスパー(メルヴィン)…教会の魔法使い。黒髪長身のメルヴィンの姿に化けている。
・ゴードン…前・魔王討伐隊の武器を作った鍛冶師。銀鼠色の髪を束ねた壮年のドワーフ
・ニール(ニコラス)…王族の一人で、前『英雄』クリストファーの息子。金髪翠眼の少年
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、今回の討伐隊の顧問役。リリアンに執心している。栗毛短髪の青年
・デニス…Sランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。栗色の髪の長身の青年
====================
今のジャスパーさんは神秘魔法でメルヴィンの姿に化けている。この魔法は普通の人には容易く見破れるものではないはずだ。
「……確かにドワーフは他の種族に比べたら魔力は低い。でも長年やってりゃあ、商売もんのことくらいはわかるようになるさ。お前はこの杖で魔法を使っているだろう? まずメルヴィンとは杖を持つ位置が違う。僅かだが手の角度も違う。それと魔力の出力の癖も違うな。まあ、これについてはなんとなくだがな」
ゴードンさんの言葉を聞いてジャスパーさんは、じっと自分の右の手を開いて眺めた。
「デニスみたいに鍛え方で癖が変わったのと、使い手が違ったのではわけがちがう。流石にわかるさ。それにな」
そう言ってゴードンさんは、少し声を落として眉を寄せた。
「もうずっとこの杖にはあいつの魔力が籠められていない」
「魔力?」
「ああそうだ。俺が作った『英雄』たちの武器は、あいつら3人の魔力と呼応し合うように作ってある」
「なるほど……」
ジャスパーさんが杖を持ち直しその手に魔力を籠めると、杖は魔法を発動するときのように少し光った。でも彼が力を弱めると、光は何事もなかったように散って落ちた。
「本物とは魔力が違うからな」
さあとゴードンさんが促すと、ジャスパーさんは大人しく杖と右手を差し出した。
その話を横で聞いていたニールは不思議そうに自分の剣を眺めると、ジャスパーさんと同じように剣を持ち直して魔力を籠める。その光は先ほどと違い、ニールが力を弱めても落ちる事もなく、剣に染み込むようにゆっくりと消えていった。
「その剣はもうお前の魔力用に調整してあるぞ」
目を丸くさせているニールに、ゴードンさんは言葉だけを投げた。
「うわー、すっげえ。あともう一つはアシュリー様の剣だよな。どこにあるんだろう?」
「ねえよ」
マコトさんに武器の話を聞かせていたはずのシアさんが、いつの間にこちらを見ている。
「アッシュの剣は、あいつと一緒に巨大な魔獣に飲み込まれちまった」
シアさんは、ほんの一瞬、視線だけを私に向けた。
「だから、もう無い」
そう言うと、また武器棚の方を向き直してこちらに背を向けた。
――今のは、なんだろう?
なんだかわざわざ私に聞かせたような……
そういえば。
ギヴリスに出会った時、私の剣は――
「リリアン? どうしたんだ?」
ニールの言葉でハッと気がついた。
「ああ、ごめん。ちょっと思い出し事をしていて」
でも何を思い出しかけたか、もう忘れてしまった。
「ったく、おっさんはデリカシーがないよな」
反対側から、デニスさんがこそりと私に小声で言った。
ああそうか。前世の私が死んだ時の話をしたから、シアさんは私の事を気にしてこちらを見てたのか。
デニスさんは、あの話で私が悲しい事を思い出したと思って、気遣ってくれている。
「気にしてませんよ」
そう言って笑うと、デニスさんはほっと息を吐いた。
* * *
結局、皆の武器をゴードンさんに一度預ける事になった。
いつぞやのように翌朝工房を訪ねると、眠そうな目のゴードンさんに出迎えられた。やはり徹夜だったらしい。
相変わらずの腕前で、皆の武器は一番使いやすいように調整され、それぞれの手にしっくりくる様になっていた。
別れの時、ゴードンさんが声をかけてきた。
「なあ、お嬢ちゃん」
「はい?」
皆は気づかずに先に工房を出て行き、私だけ足が止まる。
「お前は、今は幸せかい」
「え?」
思いがけぬ事を訊かれて、言葉が止まった。
「俺の知っていたアイツはどこか寂しそうだった」
アイツ…… ゴードンさんがそう言うのはきっと……
「俺の作った武器を使うなら、今度こそ幸せになってほしいんだよ」
『今度こそ』と、ゴードンさんは言った。
「……また、お酒を持ってきます」
「ああ、待ってるぞ」
そう言って、少し寂しそうに笑って手を振るゴードンさんに、黙ってお辞儀をした。
====================
(メモ)
巨大な魔獣(Ep.17)
(#8)
(Ep.5)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女
・ジャスパー(メルヴィン)…教会の魔法使い。黒髪長身のメルヴィンの姿に化けている。
・ゴードン…前・魔王討伐隊の武器を作った鍛冶師。銀鼠色の髪を束ねた壮年のドワーフ
・ニール(ニコラス)…王族の一人で、前『英雄』クリストファーの息子。金髪翠眼の少年
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、今回の討伐隊の顧問役。リリアンに執心している。栗毛短髪の青年
・デニス…Sランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。栗色の髪の長身の青年
====================
今のジャスパーさんは神秘魔法でメルヴィンの姿に化けている。この魔法は普通の人には容易く見破れるものではないはずだ。
「……確かにドワーフは他の種族に比べたら魔力は低い。でも長年やってりゃあ、商売もんのことくらいはわかるようになるさ。お前はこの杖で魔法を使っているだろう? まずメルヴィンとは杖を持つ位置が違う。僅かだが手の角度も違う。それと魔力の出力の癖も違うな。まあ、これについてはなんとなくだがな」
ゴードンさんの言葉を聞いてジャスパーさんは、じっと自分の右の手を開いて眺めた。
「デニスみたいに鍛え方で癖が変わったのと、使い手が違ったのではわけがちがう。流石にわかるさ。それにな」
そう言ってゴードンさんは、少し声を落として眉を寄せた。
「もうずっとこの杖にはあいつの魔力が籠められていない」
「魔力?」
「ああそうだ。俺が作った『英雄』たちの武器は、あいつら3人の魔力と呼応し合うように作ってある」
「なるほど……」
ジャスパーさんが杖を持ち直しその手に魔力を籠めると、杖は魔法を発動するときのように少し光った。でも彼が力を弱めると、光は何事もなかったように散って落ちた。
「本物とは魔力が違うからな」
さあとゴードンさんが促すと、ジャスパーさんは大人しく杖と右手を差し出した。
その話を横で聞いていたニールは不思議そうに自分の剣を眺めると、ジャスパーさんと同じように剣を持ち直して魔力を籠める。その光は先ほどと違い、ニールが力を弱めても落ちる事もなく、剣に染み込むようにゆっくりと消えていった。
「その剣はもうお前の魔力用に調整してあるぞ」
目を丸くさせているニールに、ゴードンさんは言葉だけを投げた。
「うわー、すっげえ。あともう一つはアシュリー様の剣だよな。どこにあるんだろう?」
「ねえよ」
マコトさんに武器の話を聞かせていたはずのシアさんが、いつの間にこちらを見ている。
「アッシュの剣は、あいつと一緒に巨大な魔獣に飲み込まれちまった」
シアさんは、ほんの一瞬、視線だけを私に向けた。
「だから、もう無い」
そう言うと、また武器棚の方を向き直してこちらに背を向けた。
――今のは、なんだろう?
なんだかわざわざ私に聞かせたような……
そういえば。
ギヴリスに出会った時、私の剣は――
「リリアン? どうしたんだ?」
ニールの言葉でハッと気がついた。
「ああ、ごめん。ちょっと思い出し事をしていて」
でも何を思い出しかけたか、もう忘れてしまった。
「ったく、おっさんはデリカシーがないよな」
反対側から、デニスさんがこそりと私に小声で言った。
ああそうか。前世の私が死んだ時の話をしたから、シアさんは私の事を気にしてこちらを見てたのか。
デニスさんは、あの話で私が悲しい事を思い出したと思って、気遣ってくれている。
「気にしてませんよ」
そう言って笑うと、デニスさんはほっと息を吐いた。
* * *
結局、皆の武器をゴードンさんに一度預ける事になった。
いつぞやのように翌朝工房を訪ねると、眠そうな目のゴードンさんに出迎えられた。やはり徹夜だったらしい。
相変わらずの腕前で、皆の武器は一番使いやすいように調整され、それぞれの手にしっくりくる様になっていた。
別れの時、ゴードンさんが声をかけてきた。
「なあ、お嬢ちゃん」
「はい?」
皆は気づかずに先に工房を出て行き、私だけ足が止まる。
「お前は、今は幸せかい」
「え?」
思いがけぬ事を訊かれて、言葉が止まった。
「俺の知っていたアイツはどこか寂しそうだった」
アイツ…… ゴードンさんがそう言うのはきっと……
「俺の作った武器を使うなら、今度こそ幸せになってほしいんだよ」
『今度こそ』と、ゴードンさんは言った。
「……また、お酒を持ってきます」
「ああ、待ってるぞ」
そう言って、少し寂しそうに笑って手を振るゴードンさんに、黙ってお辞儀をした。
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(メモ)
巨大な魔獣(Ep.17)
(#8)
(Ep.5)
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