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終わりへの旅

122 それぞれの正義(2)

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◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。冒険者の『サポーター』
・マルクス…上位魔族、魔王の側近の一人。見た目は人間の少年の姿。人間に混ざって町で薬売りをしていた。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、今回の討伐隊の顧問役。アシュリーの生まれ変わりであるリリアンに執心している。
・ニール(ニコラス)…王族の『英雄』。リリアンの友人で、前『英雄』クリストファーの息子
・マコト…神の国(日本)から召喚された『勇者』
・デニス…リリアンの先輩で冒険者の『英雄』。リリアンに好意を抱いている。
・アラン…ニールの教育係をしていた騎士。勝手に討伐隊を抜けたウォレスの代わりに『サポーター』として同行する事になった。

====================

 あっと思い出したようにマルクスが顔を上げた。
「おれ、もう帰らないと。遅くなると皆が心配するんだ」
 皆……というのは、他の上位魔族の仲間たちの事だろう。奴らの事を知っているシアさんと、互いに複雑な視線を交わした。

「ああ、そうだな。マルクスごめんな、引きとめて」
 奴らの事を知らないニールは、まるで友だちを家から送り出すような言葉をかけた。そんなニールの態度に、マルクスは曇らせていた表情を少しだけ明るくさせた。

「大丈夫。またな!」
 そう言って立ち上がった彼は売り物の入ったマジックバッグを肩にかけると、まるで友だちの家から去る時のように、手を振って当たり前の様に玄関から出て行った。


 マルクスを見送って居間のソファーに戻ると、誰ともなくふぅーーっと深く息をついた。
「しっかし…… なんだかやりにくくなったなぁ……」
 シアさんの言葉に、皆で頭を抱える。

「シアンさん…… どうにかならないのかな? 俺、マルクスと仲良くしたいよ……」
 ニールの言葉に、シアさんもまた困ったように視線を落とした。


 一人だけ、皆とはやや違う表情で考え込んでいたマコトさんが、すっと顔を上げた。
「どうやら君たちは、あいつらとは違うようだね」

「あいつらって? 魔族の事か?」
「いいや、違う」
 教会の事だと、マコトさんはデニスさんに向かって言った。

「君たちは、何故『神の国』から勇者が呼ばれるのか知っているかい?」
「魔王を倒す為、でしょう?」
「それもある。でもその前に『世界を救う為』なんだよ」
「……マコト。それってどういう意味?」
 そう尋ねるニールの額には、幾つもしわが寄っている。

「魔王を倒さなくても、世界は救えるかもしれないって事か?」
 シアさんが尋ねると、肯定の意味だろう、マコトさんは薄く口角を上げた。
「正確には、もう手遅れだけどね……」
 マコトさんはそこで言葉を止めた。それ以上は話してはくれないようだ。
 おそらく私たちはまだ信用されてはいない。

「でも魔王は倒さないといけないです」
 そう、私はギヴリスと約束したのだから。

「そうだね。でもこれで最後にしよう」
 マコトさんは私に向かってうなずいた。

 * * *

 この先の魔族領入りに備え、荷物を整理することになった。
「魔族領に入ると、マジックバッグは使えなくなるからな」
「そうなんですか? そんな記録はどこにもありませんが……」
 アランさんがそういぶかしがるのも当然だろう。

「過去の討伐隊の記録は、何故か後には継がれていないんだ。今回俺が顧問役になったのは、その為でもある」
 マジックバッグから出した物を並べながらシアさんが応える。
「他にも色々あるが…… まあ、リリアンにも教えてあるから、聞くと良い」

 なるほど、そういう事にすれば私が話しても自然に受け止めてもらえる。
 この中で私の前世がアシュリーだと知っているのは、シアさんとデニスさんだけだものね。

「マジックバッグが使えない以上、荷物は必要最低限に抑えないといけません。普通に持ち歩いても日もちのする干し肉などを大量に買ってきましょう。もちろん魔法使いの転移の魔法も使えなくなるので、補充に戻る事はできません。さらに魔族領では結界も張る事はできないので、火を焚く支度も多めに必要ですよね」

「あったりまえだけど宿もねえ。野営の道具も自分で背負って行かねえとな。金はケチらないで軽くて暖かいやつを準備しろ」
「私は獣化すればいいので、大丈夫です」
 そう言うと、皆の視線が私に集まった。

「あーー、確かにリリアンは……そうだな」
「えっ、何それズルい。ってか毛皮はあったかそうだなあ。なあ、俺リリアンと一緒に寝――」
 バシンッ!
 何か言いかけたニールの頭を、アランさんが強めにはたいた。

 ニールが何を言おうとしたのかよくわからなかったけど、ニールの方を見るデニスさんとシアさんがやたらと怖い顔をしている。
 痛そうに頭を抱えているニールを見て、マコトさんがクスっと笑った。

====================

(メモ)
 魔族領(Ep.8)
 (#32)
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