上 下
278 / 333
終わりへの旅

121 少年(2)

しおりを挟む
◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。冒険者の『サポーター』
・マルクス…上位魔族、魔王の側近の一人。見た目は人間の少年の姿。人間に混ざって町で薬売りをしていた。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、今回の討伐隊の顧問役。アシュリーの生まれ変わりであるリリアンに執心している。
・ニール(ニコラス)…王族の『英雄』。リリアンの友人で、前『英雄』クリストファーの息子
・デニス…リリアンの先輩で冒険者の『英雄』。リリアンに好意を抱いている。
・アラン…ニールの教育係をしていた騎士。新しい王族の『サポーター』
・マコト…神の国(日本)から召喚された『勇者』

====================

 普通に旅をしていたら、おそらくマルクスには会わなかっただろう。
 どうやらシアさんの存在に気付いていて、彼の行く先を避けて移動してたらしい。魔族の彼も、魔力の匂いを嗅ぎ分けることができるそうだ。
 今回はこうして前触れもなく転移で帰って来たので、事前に逃れる事ができなかったのだろう。


 家に上げてお茶を出しても、マルクスはまだ警戒を解こうとはしていなかった。
 さっき言ったように話を聞きたいだけなのに。見た目は私よりずっと幼い少年だし、なんだか調子が狂ってしまう。

「ワーレンのダンジョンを作ったのも、マルクスですよね?」
 お茶菓子を勧めながら尋ねると、こくこくと大袈裟おおげさに首を縦に振った。
「うん…… おれ、皆みたいに戦うのは得意じゃないからさ。ああやって色んなものを作って稼ぐしかなくて……」

「へっ!? ダンジョン??」
 当たり前のように私の家にまでついてきて居たニールは、私たちの会話を聞いて変な声を出した。
 ニールにとって、このポーション売りの少年マルクスは『友達』なんだそうだ。

「ダンジョンの何を作るんだって??」
 まだ状況を把握できていないニールが、答えを求めるように私の方を見る。
「ダンジョンそのものですよ。彼はダンジョンクリエイターです。デニスさんが昔入ったダンジョンも彼の作だと思います」
 最後はデニスさんの方を向いて伝えた。

「……言っていたな。ワーレンのダンジョンと製作者が同じだろうって」
「はい、しかも新しい物だったので、まだ彼の魔力の残り香があったのでしょう。匂いを嗅げない人間でも気配のようなものを感じたはずです」
「今、ダンジョンを作っているのはおれだけだから……」
 マルクスが横から遠慮がちに言葉を挟んだ。
 
「……シアン様、リリアンさん…… 彼は何者ですか?」
 アランさんは私たちの会話を聞いていて、何かに気が付いたのだろう。不安そうな顔で答え合わせを求めた。

「魔族だよ。魔王側近の上位魔族だ」
「えええええええ!!!!」
 シアさんの言葉に、ニールが隠しもせずに大声を上げた。

「彼には何度も会っていたのに…… そんな事、ちっとも気づきませんでした」
「そりゃあそうだろう。こいつは魔族らしくなさすぎる。普通のやつらにはわからないさ」
「多分、今までもこんな風にあちこちを巡っていたのでしょうね」

「うん、おれは他のやつらよりも見た目が人間に近いから。バレた事は一度もない」
「ずっと起きていたの?」
 そう尋ねると、うんうんとまた首を縦に振った。
「でも別に悪い事はしてないよ。ダンジョンを作って、あとはああしてポーションや道具を売ってたくらいで」

 まだ驚きを抑えきれないニールが、私たちの会話に割って入る。
「そうだ。お前の父さんの体が弱いから、その為に稼ぐんだって…… え…… もしかして、父さんって……」
 自分の言葉につまづいて、またニールの口が止まった。

「魔王だろう?」
「ああ、ニンゲンは父様のことをそう呼ぶな」
 あっけらかんとしたシアさんとマルクスのやり取りに、デニスさんが首を傾げた。
「つまり、魔王が弱ってきているって事か?」

「それは前からだろう?」
 今まで黙ってお茶を飲んでいたマコトさんが、さらりとした言い方で口を挟んだ。
「僕が最初の『勇者』としてこの世界に来た時からずっと、魔王は弱り続けている。すでにだいぶ力を失っているようだが……」

「そうだ。父様は前よりもっともっと弱っている。だから、おれたちがどうにかしないと父様が死んでしまう」
 悔しそうにマルクスが言うと、皆が複雑そうな表情をした。それもそうだろう。私たち討伐隊は、その魔王を倒す為に選ばれているのだから。

「あーー…… 俺たちは一応、魔王討伐隊で…… 魔王を倒す為に旅をしているんだが……」
 困ったようにデニスさんが言うと、マルクスが泣きそうな顔になった。

「リリアンさん…… 彼は本当に上位魔族なんでしょうか? それにしては、だいぶ……」
 アランさんが言い難そうに言葉を濁す。言いたいことはわかっている。
「確かに他の上位魔族のような強さや恐ろしさは彼にはありません。でもあれだけのダンジョンが作れるのですから、決して力がないわけではないと思います」

「……なぁ、シアンさん…… これ、どうすればいいのかなぁ?」
 一番戸惑った様子のニールが、すがるような声で言った。

====================

(メモ)
 ワーレンのダンジョン(#15、#17、#33)
 父様(Ep.5)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

処理中です...