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終わりへの旅
120 『サポーター』/ニール(2)
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◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女
・ニール(ニコラス)…王族の一人。前『英雄』クリストファーの息子で、現国王の甥
・シアン…前・魔王討伐隊の一人。アシュリーの生まれ変わりであるリリアンに執心している。
・デニス…リリアンの先輩でSランク冒険者。リリアンに好意を抱いている。
・マコト…神の国(日本)から召喚された、今回の『勇者』
====================
リリアンとシアンさんは早朝にウォレスが出立するところを見かけていたらしい。でも敢えて止めもしなかったと。
「まあ、仕方ないですよね」
ちょっと困ったような笑顔で、リリアンはそれだけ言うと自分の部屋に上がっていってしまった。
そのリリアンが実はウォレスに迫られていたことを、その後でシアンさんから聞いて知った。
俺のせいじゃないかと、そう思いかけたところで、わしゃわしゃとめいっぱい両の手で頭を撫でられた。
「余計な事を気にするんじゃねえぞ。リリアンにちょっかい出したのはウォレスで、お前じゃねえんだから」
シアンさんはそう言いながらも全く手を止めようとしない。
「それより、いなくなったのは王族の『サポーター』なんだから、お前がやらなきゃいけない事も増えるんだからな。頑張れよーー」
「へっ!?」
やらなきゃいけない事ってなんの事だ!?
一瞬でその事で頭がいっぱいになった。
「おいおい、ニールの髪がすごい事になってるぞ。どうしたんだ?」
デニスさんの笑い声でシアンさんの手が止まっても、頭の中ははてなマークでいっぱいになっている。
「なあ、やらなきゃいけない事って、魔王討伐の事??」
「それもそうだけど、王族なんだから旅の報告とかもしないといけないんだろう?」
ああああああああ!! そうだ、確かにそんな事を言われてた。
「な、な、な、なにすればいいんだろう??」
爺様からその話があった時に、俺はまだ成人したばかりだしそういう業務に慣れていないからって、ウォレスがやるって話になってたんだ。
でもウォレスがいなくなったのなら俺がやらないと。
「ひとまず報告の為に、今まで行った町の事はまとめておいた方がいいんじゃねえか? 今晩にでも手伝おうか?」
「ありがとう、デニスさん。色々教えてほしい……」
デニスさんの優しい言葉に、少し不安が薄らいだ。
その町からさらに、転移の魔法で町を二つ跳んだ。訪れた町の名前は聞いたけれどそれがどこに位置する町なのかが全くわからない。
一応勉強もしたハズだけど、街道沿いの大きな町ならともかく、街道を外れた小さな町の名前まではさすがに憶えていない。
報告の話をすると、マコトも手伝ってくれる事になった。『神の国』では文章をまとめたりする仕事もしていたそうだ。心強い。
さらにデニスさんを加えた3人でリリアンの部屋を訪ねる。リリアンにも事情を話すと、マジックバッグから1枚の地図を出して見せてくれた。
「うわ、すごい……」
地図には至る所に書き込みがしてある。町の情報はもちろん、ダンジョンの場所や、魔獣の生息地、変わった薬草の繁殖地なんかも書きこんである。
でもところどころに読めない文字も書かれていた。
「これはニホンゴだね」
その文字を見て、マコトがそんな事を言った。
「はい。マコトさんの国の文字ですよね」
つまりこれは『神の国』の文字らしい。リリアンもこれを読めるんだろうか?
でも少なくとも俺は見たことも聞いたこともない。もちろん学校や教師から習える物でもない。
それなのに、なんでリリアンにはわかるんだろう?
「今まで行ったのはこの町とこの町と――」
そんな疑問を口にする間も与えられずに、リリアンが地図のあちこちを指で差す。
町の名前を読み上げてくれるので、手元のメモに書き留める。どうやら国中を縦横無尽に跳んでいるようだ。
「で、今いる町はここですね」
リリアンが差した先を見ると、覚えのある地方の名前が書かれていた。
そりゃそうだ。ここは俺が育った地方だ。リリアンの指から視線を少しずらすと、懐かしい町の名前も書かれている。
「なあ明日さ、ちょっとだけこの町に寄れないかなぁ」
そう言って俺が指差した場所を見て、リリアンの耳がぴくりと震えた。
見事、討伐隊に選ばれたというのに、母様には手紙で報告したきりだ。
母様に報告をして、褒めてほしい……なんて、子供っぽいだろうけど。でも母も元は討伐隊の一員だった人だ。きっと喜んでくれる。
「うん? ここに何かあるのか?」
「俺の故郷なんだ。母様に挨拶に寄りたくてさ」
「いいんじゃないか? シアンさんに話してみよう」
デニスさんの言葉に、リリアンはにっこり微笑んで、マコトも頷いて賛同してくれた。
====================
(メモ)
地図(#31、#89)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女
・ニール(ニコラス)…王族の一人。前『英雄』クリストファーの息子で、現国王の甥
・シアン…前・魔王討伐隊の一人。アシュリーの生まれ変わりであるリリアンに執心している。
・デニス…リリアンの先輩でSランク冒険者。リリアンに好意を抱いている。
・マコト…神の国(日本)から召喚された、今回の『勇者』
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リリアンとシアンさんは早朝にウォレスが出立するところを見かけていたらしい。でも敢えて止めもしなかったと。
「まあ、仕方ないですよね」
ちょっと困ったような笑顔で、リリアンはそれだけ言うと自分の部屋に上がっていってしまった。
そのリリアンが実はウォレスに迫られていたことを、その後でシアンさんから聞いて知った。
俺のせいじゃないかと、そう思いかけたところで、わしゃわしゃとめいっぱい両の手で頭を撫でられた。
「余計な事を気にするんじゃねえぞ。リリアンにちょっかい出したのはウォレスで、お前じゃねえんだから」
シアンさんはそう言いながらも全く手を止めようとしない。
「それより、いなくなったのは王族の『サポーター』なんだから、お前がやらなきゃいけない事も増えるんだからな。頑張れよーー」
「へっ!?」
やらなきゃいけない事ってなんの事だ!?
一瞬でその事で頭がいっぱいになった。
「おいおい、ニールの髪がすごい事になってるぞ。どうしたんだ?」
デニスさんの笑い声でシアンさんの手が止まっても、頭の中ははてなマークでいっぱいになっている。
「なあ、やらなきゃいけない事って、魔王討伐の事??」
「それもそうだけど、王族なんだから旅の報告とかもしないといけないんだろう?」
ああああああああ!! そうだ、確かにそんな事を言われてた。
「な、な、な、なにすればいいんだろう??」
爺様からその話があった時に、俺はまだ成人したばかりだしそういう業務に慣れていないからって、ウォレスがやるって話になってたんだ。
でもウォレスがいなくなったのなら俺がやらないと。
「ひとまず報告の為に、今まで行った町の事はまとめておいた方がいいんじゃねえか? 今晩にでも手伝おうか?」
「ありがとう、デニスさん。色々教えてほしい……」
デニスさんの優しい言葉に、少し不安が薄らいだ。
その町からさらに、転移の魔法で町を二つ跳んだ。訪れた町の名前は聞いたけれどそれがどこに位置する町なのかが全くわからない。
一応勉強もしたハズだけど、街道沿いの大きな町ならともかく、街道を外れた小さな町の名前まではさすがに憶えていない。
報告の話をすると、マコトも手伝ってくれる事になった。『神の国』では文章をまとめたりする仕事もしていたそうだ。心強い。
さらにデニスさんを加えた3人でリリアンの部屋を訪ねる。リリアンにも事情を話すと、マジックバッグから1枚の地図を出して見せてくれた。
「うわ、すごい……」
地図には至る所に書き込みがしてある。町の情報はもちろん、ダンジョンの場所や、魔獣の生息地、変わった薬草の繁殖地なんかも書きこんである。
でもところどころに読めない文字も書かれていた。
「これはニホンゴだね」
その文字を見て、マコトがそんな事を言った。
「はい。マコトさんの国の文字ですよね」
つまりこれは『神の国』の文字らしい。リリアンもこれを読めるんだろうか?
でも少なくとも俺は見たことも聞いたこともない。もちろん学校や教師から習える物でもない。
それなのに、なんでリリアンにはわかるんだろう?
「今まで行ったのはこの町とこの町と――」
そんな疑問を口にする間も与えられずに、リリアンが地図のあちこちを指で差す。
町の名前を読み上げてくれるので、手元のメモに書き留める。どうやら国中を縦横無尽に跳んでいるようだ。
「で、今いる町はここですね」
リリアンが差した先を見ると、覚えのある地方の名前が書かれていた。
そりゃそうだ。ここは俺が育った地方だ。リリアンの指から視線を少しずらすと、懐かしい町の名前も書かれている。
「なあ明日さ、ちょっとだけこの町に寄れないかなぁ」
そう言って俺が指差した場所を見て、リリアンの耳がぴくりと震えた。
見事、討伐隊に選ばれたというのに、母様には手紙で報告したきりだ。
母様に報告をして、褒めてほしい……なんて、子供っぽいだろうけど。でも母も元は討伐隊の一員だった人だ。きっと喜んでくれる。
「うん? ここに何かあるのか?」
「俺の故郷なんだ。母様に挨拶に寄りたくてさ」
「いいんじゃないか? シアンさんに話してみよう」
デニスさんの言葉に、リリアンはにっこり微笑んで、マコトも頷いて賛同してくれた。
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(メモ)
地図(#31、#89)
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