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終わりへの旅

119 偽りの姿(1)

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◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女
・ニール(ニコラス)…王族の一人。前『英雄』クリストファーの息子で、現国王の甥
・ジャスパー…デニスの後輩冒険者。前・魔王討伐隊『英雄』のメルヴィンの姿に化けている。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人。アシュリーの生まれ変わりであるリリアンに執心している。
・マーガレット(マーニャ)…先代の神巫女でもある、教会の魔法使い
・デニス…リリアンの先輩でSランク冒険者。リリアンに好意を抱いている。

====================

「うぇ!? なんで?? ジャスパー?!?!」
 ニールが驚いて、王族らしからぬ声を上げた。

「あーー……ニール、とりあえず移動が先だ。詳しい話は後だ」
 シアさんは困ったようにそう言って、私たちに『転移の魔法』を促した。
 メルヴィンさんの姿をしたジャスパーさんが私の肩を抱いた時に、デニスさんが一瞬眉間にしわをよせたのが見えた。


 転移でついた先は、先ほどのラントの町よりさらに馬車で1日ほど先に進んだ場所にある、街道沿いの町だ。そこの町長から神器を渡す代償にと頼まれたのは、古い遺跡に棲みついているタラスクの討伐だった。

 タラスクは亀の甲羅を持ち獅子の頭をした六つ足の竜で、厄介な事に人を襲って食らうのだ。Sランクの魔獣なので、上位冒険者のパーティーであれば倒せない魔獣ではない。
 が、町長はこれを私たちに倒してきてほしいと、そしてその夜の食事会でその肉を振る舞いたいと言うのだ。
 どうやら『わざわざ町長の為に、勇者たちが倒してきた』のだと、町の有力者たちへの自慢に使いたいらしい。

「なんで俺たちがこんなことをしなきゃいけないんだ」
 ウォレス様がまた不満げに言う。その気持ちも良くわかる。
 それでもシアさんが言ったように、勇者一行に交換条件として挙げられる依頼のうちでは「まだいい」方なのだ。
 それに私たちは神器を集めるだけでなく、『勇者の剣』に魔力を溜めなくてはいけない。そのためには魔獣の討伐はうってつけだ。


 タラスク退治の為に一度町を離れると、ようやくシアさんから、さっきの話をするお許しが出た。

「なあ、本当にジャスパーなのか?」
 ニールが不安そうにジャスパーさんに話かける。
「ああ」
 なんともなく答えるジャスパーさんを、ニールは上から下からと見回す。そんなに眺めても、化けの皮ががれるわけではないんだけどね。

「『変姿の魔法』ですね」
 そう言うと、
「君は知っているんだな」
 あの人の声でそう答えた。

 『変姿の魔法』は、『転移の魔法』と同じ『神秘魔法』の一つだ。『神秘魔法』は基本的には教会の魔法使いか、もしくは神に関わる者たちにしか使えないらしい。
 マーニャさんが姿を変えていたのも、この『変姿の魔法』だろう。
「マーニャさんも、ですね」
 そう言うと彼女はにっこりと笑った。

「なんでジャスパーはメルヴィン様の姿に化けているんだ?」
「この方がモテるだろう?」
 デニスさんの質問に、ジャスパーさんは涼しい顔で答える。

 彼の正体がジャスパーさんだとわかった時のデニスさんは、ひどく悔しそうな顔をしていた。
 デニスさんはとても後輩思いだ。『樫の木亭』夫婦の一人息子のジャスパーさんは、デニスさんにとっては世話になった人の息子さんでもあり、自身の後輩のひとりでもある。
 そのジャスパーさんが、また皆を偽るような事をしている。
「ったく…… 今度はあいつに何があったんだ?」
 頭を抱えながら、そう呟いていた。かなり気分は複雑だろう。

「ジャスパーはモテたいのか?」
「そりゃあそうだろう」
 シアさんを相手に気楽な口調で返事をする彼は、『樫の木亭』で給仕をしていた姿とは本当に別人のようだ。
 気が弱くてむしろ優しそうで、私みたいな小娘相手にも丁寧ていねいな口調で話す。給仕の仕事中もいまいちパッとしなくて、ミリアちゃんによく怒られていた。
 一度だけ、彼にいたずらをされそうになったことがあって、あれは何かの間違いだろうと思っていたけれど…… でも今の彼の姿をみていると、どれが本当の彼だかはわからない。

「マーニャさんに教会に連れて行ってもらって、魔法の訓練を受けるようになったら、めきめきと魔力があがってあっという間に上級魔法使いになれた。俺には戦士としての才能よりも、やっぱり魔法使いの才能があったらしい」

 嬉しそうにニヤニヤと笑いながら話す。
 仔犬の姿に化けて教会の奥にもぐりこんだ時に見かけた彼は、今のような自信に満ちていた。自信が、彼を変えたのだろうか。

「教会はなかなかにイイね。魔力の強さが上下を決める。ここまで魔力を伸ばす事ができた俺は皆に認められた。今までの俺は俺じゃなかったんだ。父親に倣って戦士を目指して、でもうまくいかなかったのも、あんな事になったのも、俺のせいじゃない。俺が悪かったんじゃない。戦士を目指したのが間違いだったんだ。この魔法使いの道が俺の正しい道だ。俺は今までの俺を捨てたんだ」

「でも、戦士の道を選んだのはお前自身だろう?」
 静かに聞いていたデニスさんが、強い口調で言った。

「俺には親はいねえ。だから自分の進む道は自分で決めた。でも親がいるなら同じ道を進まないといけないのか? それは違うんじゃねえか? 第一お前の母親のシェリーさんの親族には魔法使いもいたんだからそっちの選択肢もあったはずだ。でもお前はまず自分で戦士の道を選んだんだ」

「それを親父さんのせいにするんじゃねえよ」
 ジャスパーさんは何も応えなかった。

====================

(メモ)
 ジャスパー、みんなを偽る(#34、#35)
 『変姿の魔法』(#29)
 いたずら(#38、#39)
 仔犬の姿で(#66)
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