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終わりへの旅
117 ラントの町再び/シアン(1)
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◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。獣人の神から貰った力で、転移魔法などを使う事ができる。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人。アシュリーとは討伐隊になる前からの仲間で、ずっとアシュリーに想いを寄せていた。今は生まれ変わりであるリリアンに執心している。
・デニス…リリアンの先輩でSランク冒険者。幼い頃にアシュリーに憧れ、似た雰囲気を持つ(大人の姿に化けた)リリアンに一目惚れをしてからは、好意を抱いている。
・ニール(ニコラス)…王族の一人。前『英雄』クリストファーの息子で、現国王の甥。正体を隠して冒険者をしていたので、リリアンたちとも仲が良い。
・ウォレス…シルディス国の第二王子。自信家で女好き。ニコラスの事を卑下している。
・マーガレット(マーニャ)…先代の神巫女でもある、教会の魔法使い。マーニャの名で冒険者として身を隠していたため、リリアンたちとも面識がある。
・メルヴィン…教会の魔法使いで『サポーター』。前・魔王討伐隊『英雄』と同じ姿形で同じ名前を名乗っているが、偽物。正体は不明。
・マコト(真)…神の国(日本)から召喚された、今回の『勇者』。男性だが、中性的な顔立ちをしている。
====================
結局、ラントの町の門に辿りついたのは、すっかり日が落ちてからだった。
というのも、途中で寄り道をする事になってしまったからだ。
それに気付いたのはリリアンだった。彼女は狼の獣人で、俺ら人間よりずっと鼻が利く。
「しかも、あまり良くない感じがします」
可愛い鼻をひくつかせながら、そう言った。
リリアンにその匂いを辿ってもらいついていくと、大きな魔獣に出くわした。
コカトリス。
蛇の尾を持つ魔鳥で、猛毒と麻痺毒を持っている、Aランクの魔獣だ。
でも今日のは通常よりかなり大きい個体で、もしもこれが冒険者ギルドで出ていた依頼だったら、ランクにさらに+がついていただろう。
本来ならこんな街道沿いには居ないはずだ。しかもこいつの進む方向にはラントの町がある。見逃せば街道を行く旅人はもちろん、町人たちが危険に曝される。
「丁度良かったな、ニール。お前、冒険者になったらバジリスク狩りに行きたいって言ってたってな」
「って、デニスさんっ。俺、確かにそうは言ったけどさぁ。でもあれはバジリスクじゃないだろう?」
「なんだ、ニコラスは見たことがないのか? あれはコカトリスだ」
「まあ、似たようなものでしょう」
ふふっと緩く微笑みながら言うマーガレットの隣で、メルヴィンが黙って杖を出して構えた。
「いいねぇ、またこんな体験ができるとは思わなかった」
そう言って、マコトはにこにこしながら腰に差した勇者の剣に手を添える。
「マコト、お前はまだ戦いに慣れていないだろう? 前に出るな」
意気揚々と前線に出ようとするマコトに声をかけて制した。
俺は以前の討伐隊の時に、ルイから神の国の話は聞いている。
この国とは違って魔獣はおらず、冒険者や戦士のような職はない。幼い頃からナイフを手にして訓練をすることもないのだと、そう言っていた。
「ああ、そうだね。ここで死んでしまったらおしまいだからな。ゲームとは違って」
そう言って、マコトは素直に後ろに下がった。
「ゲーム?」
マコトが漏らした不思議な言葉をリリアンが拾った。
が、コカトリスの甲高い鳴き声がその場の空気を掻き乱す。
俺らはパーティーとしてはSSランク――いや、多分それ以上の強さがある。たかがコカトリスの1羽の討伐は、腕ならしほどにしかならなかった。
* * *
ラントの町に着いてまず、メルヴィンが『座標記録』の術を唱えようとするのを、リリアンが止めた。
「もうこの町の座標はとってありますから、大丈夫です」
転移の魔法を使うには、転移先の座標を記録しておく必要があり、その為に教会の魔法使いが記録できる座標の数には限りがある。
だが、リリアンにはその限度がないらしい。
「……君も『座標記録』が使えるのか? あれは教会の魔法使いしか――」
「使えます。獣人の神の加護を得ていますから」
リリアンが『神』と口にした時に、マーガレットがハッとした顔でリリアンの方を見た。リリアンはそれを受けるようにマーガレットを見て言った。
「マーニャさん、鑑定で私を見れますよね。確認してください」
名を呼ばれたマーガレットは、口の中で小さく呪文を唱えて、再びリリアンを見透かすように紫水晶の瞳で見た。
「……確かに、使えるわね」
彼女が薄い息と一緒に吐き出した言葉を受け、メルヴィンがリリアンを見つめて低い声で言った。
「わかった、転移の際には君に座標を出してもらおう」
それを聞いて、リリアンは軽く頷いた。
ここ、ラントは酒作りがさかんな町だ。果物や穀物などを使ったお酒も多く作られ、また国中の酒がここに集まるとも言われている。
そこが冒険者には人気で、今日のラントも遅い時間だというのにそれなりに賑わっていた。
そして、町に着くのが遅くなった所為もあり、宿の個室を人数分確保することができなかった。
まあ高ランクの冒険者サマならともかく、そこらにいるような並の冒険者なら一人一部屋なんて贅沢な話だ。だからもともと宿自体、一人部屋よりも2~3人で泊まれるような部屋の方が多いんだ。
部屋数はともかく、ベッドの数は足りているし贅沢は言えねえだろう。
「とりあえず、リリアンとマーガレットが同室で――」
「あら、私はメルヴィンと一緒の部屋にするわ」
マーガレットが艶っぽい声で口を挟んだ。
「いや、男女二人ってわけにゃいかねえだろう?」
冗談かと思って二人の方を見たが、すでにメルヴィンとマーガレットはそういう雰囲気で肩を寄せ合っている。つまりはベッドも一つでいいという事だろう。
いや、別に二人が納得の上で夜を過ごすというのなら、それを邪魔する理由も止める理由もない。が……
俺らが返事に詰まっているうちに、二人はさっさと部屋の鍵を手に取り、階段を上がっていってしまった。
「あーー…… えーーっと……」
残されたのは6人。俺、デニス、ニール、ウォレス、マコト。それにリリアン。残るは3部屋。
一番こぢんまりした部屋をリリアンに使ってもらい、俺とデニスが一部屋を、広めの3人部屋にはウォレスとニール、マコトの3人で休んでもらうことにした。
「なんで俺がこんなうす汚い宿で、ニコラスと一緒の部屋で過ごさなきゃいけないんだ」
案の定、ウォレスからはまた不満が出た。
====================
(メモ)
バジ狩りたい(#8)
『座標記録』(Ep.2、#68)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。獣人の神から貰った力で、転移魔法などを使う事ができる。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人。アシュリーとは討伐隊になる前からの仲間で、ずっとアシュリーに想いを寄せていた。今は生まれ変わりであるリリアンに執心している。
・デニス…リリアンの先輩でSランク冒険者。幼い頃にアシュリーに憧れ、似た雰囲気を持つ(大人の姿に化けた)リリアンに一目惚れをしてからは、好意を抱いている。
・ニール(ニコラス)…王族の一人。前『英雄』クリストファーの息子で、現国王の甥。正体を隠して冒険者をしていたので、リリアンたちとも仲が良い。
・ウォレス…シルディス国の第二王子。自信家で女好き。ニコラスの事を卑下している。
・マーガレット(マーニャ)…先代の神巫女でもある、教会の魔法使い。マーニャの名で冒険者として身を隠していたため、リリアンたちとも面識がある。
・メルヴィン…教会の魔法使いで『サポーター』。前・魔王討伐隊『英雄』と同じ姿形で同じ名前を名乗っているが、偽物。正体は不明。
・マコト(真)…神の国(日本)から召喚された、今回の『勇者』。男性だが、中性的な顔立ちをしている。
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結局、ラントの町の門に辿りついたのは、すっかり日が落ちてからだった。
というのも、途中で寄り道をする事になってしまったからだ。
それに気付いたのはリリアンだった。彼女は狼の獣人で、俺ら人間よりずっと鼻が利く。
「しかも、あまり良くない感じがします」
可愛い鼻をひくつかせながら、そう言った。
リリアンにその匂いを辿ってもらいついていくと、大きな魔獣に出くわした。
コカトリス。
蛇の尾を持つ魔鳥で、猛毒と麻痺毒を持っている、Aランクの魔獣だ。
でも今日のは通常よりかなり大きい個体で、もしもこれが冒険者ギルドで出ていた依頼だったら、ランクにさらに+がついていただろう。
本来ならこんな街道沿いには居ないはずだ。しかもこいつの進む方向にはラントの町がある。見逃せば街道を行く旅人はもちろん、町人たちが危険に曝される。
「丁度良かったな、ニール。お前、冒険者になったらバジリスク狩りに行きたいって言ってたってな」
「って、デニスさんっ。俺、確かにそうは言ったけどさぁ。でもあれはバジリスクじゃないだろう?」
「なんだ、ニコラスは見たことがないのか? あれはコカトリスだ」
「まあ、似たようなものでしょう」
ふふっと緩く微笑みながら言うマーガレットの隣で、メルヴィンが黙って杖を出して構えた。
「いいねぇ、またこんな体験ができるとは思わなかった」
そう言って、マコトはにこにこしながら腰に差した勇者の剣に手を添える。
「マコト、お前はまだ戦いに慣れていないだろう? 前に出るな」
意気揚々と前線に出ようとするマコトに声をかけて制した。
俺は以前の討伐隊の時に、ルイから神の国の話は聞いている。
この国とは違って魔獣はおらず、冒険者や戦士のような職はない。幼い頃からナイフを手にして訓練をすることもないのだと、そう言っていた。
「ああ、そうだね。ここで死んでしまったらおしまいだからな。ゲームとは違って」
そう言って、マコトは素直に後ろに下がった。
「ゲーム?」
マコトが漏らした不思議な言葉をリリアンが拾った。
が、コカトリスの甲高い鳴き声がその場の空気を掻き乱す。
俺らはパーティーとしてはSSランク――いや、多分それ以上の強さがある。たかがコカトリスの1羽の討伐は、腕ならしほどにしかならなかった。
* * *
ラントの町に着いてまず、メルヴィンが『座標記録』の術を唱えようとするのを、リリアンが止めた。
「もうこの町の座標はとってありますから、大丈夫です」
転移の魔法を使うには、転移先の座標を記録しておく必要があり、その為に教会の魔法使いが記録できる座標の数には限りがある。
だが、リリアンにはその限度がないらしい。
「……君も『座標記録』が使えるのか? あれは教会の魔法使いしか――」
「使えます。獣人の神の加護を得ていますから」
リリアンが『神』と口にした時に、マーガレットがハッとした顔でリリアンの方を見た。リリアンはそれを受けるようにマーガレットを見て言った。
「マーニャさん、鑑定で私を見れますよね。確認してください」
名を呼ばれたマーガレットは、口の中で小さく呪文を唱えて、再びリリアンを見透かすように紫水晶の瞳で見た。
「……確かに、使えるわね」
彼女が薄い息と一緒に吐き出した言葉を受け、メルヴィンがリリアンを見つめて低い声で言った。
「わかった、転移の際には君に座標を出してもらおう」
それを聞いて、リリアンは軽く頷いた。
ここ、ラントは酒作りがさかんな町だ。果物や穀物などを使ったお酒も多く作られ、また国中の酒がここに集まるとも言われている。
そこが冒険者には人気で、今日のラントも遅い時間だというのにそれなりに賑わっていた。
そして、町に着くのが遅くなった所為もあり、宿の個室を人数分確保することができなかった。
まあ高ランクの冒険者サマならともかく、そこらにいるような並の冒険者なら一人一部屋なんて贅沢な話だ。だからもともと宿自体、一人部屋よりも2~3人で泊まれるような部屋の方が多いんだ。
部屋数はともかく、ベッドの数は足りているし贅沢は言えねえだろう。
「とりあえず、リリアンとマーガレットが同室で――」
「あら、私はメルヴィンと一緒の部屋にするわ」
マーガレットが艶っぽい声で口を挟んだ。
「いや、男女二人ってわけにゃいかねえだろう?」
冗談かと思って二人の方を見たが、すでにメルヴィンとマーガレットはそういう雰囲気で肩を寄せ合っている。つまりはベッドも一つでいいという事だろう。
いや、別に二人が納得の上で夜を過ごすというのなら、それを邪魔する理由も止める理由もない。が……
俺らが返事に詰まっているうちに、二人はさっさと部屋の鍵を手に取り、階段を上がっていってしまった。
「あーー…… えーーっと……」
残されたのは6人。俺、デニス、ニール、ウォレス、マコト。それにリリアン。残るは3部屋。
一番こぢんまりした部屋をリリアンに使ってもらい、俺とデニスが一部屋を、広めの3人部屋にはウォレスとニール、マコトの3人で休んでもらうことにした。
「なんで俺がこんなうす汚い宿で、ニコラスと一緒の部屋で過ごさなきゃいけないんだ」
案の定、ウォレスからはまた不満が出た。
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(メモ)
バジ狩りたい(#8)
『座標記録』(Ep.2、#68)
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