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王都を離れて

ファイブピース・スウィートサマーデイズ(2)(TakeASeat先生ご提供)

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 小説家になろうで『このクソゲーをよろしく ~君、今日からゲームマスターね!と言われたので、ゲームの中を覗いてみたらサ終危機のクソゲーだった件~』を連載中のTakeASeat先生から、『ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい』の二次創作話をご提供いただきました~~

 リリアンの冒険者デビュー直後(#8の頃)の、仲間たちとのほっこり話となっております。序盤の話なので、まだ読み進めていない方もどうぞお楽しみください♪

◆登場人物紹介
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。前世では冒険者Sランクの人間の剣士だった。冒険者デビューしたばかりの15歳。
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属する、Aランクの先輩冒険者。23歳。
・ニール…冒険者見習いとして活動している自称貧乏貴族の少年。14歳。
・アラン…デニスの後輩のBランクの冒険者。ニールの「冒険者の先生」をしている。
・マーニャ…エルフでBランクの魔法使い。美人で酒に強い。しかも良く食べる。

====================

 ウォーターメロンを60個収穫し終えると、マジックバックを背負っていたニールの口数も少なくなってきた。いくら『重量軽減』の魔法が付加されているといっても、これだけの量をしまうと重くなってしまうだろう。

「ニール、大丈夫? 少し持とうか?」
「だ、だ、大丈夫。これくらい何ともない……!」

 ニールの額からは明らかに嫌な汗がにじみ出ていたが、ニールがそう言うなら仕方がない。
 
「リリアン! ニール! こっちに来てくれ!」

 私の三角耳がデニスさんの叫ぶ声を捉えた。振り返ると、視線の先では森の入り口で手を振るデニスさんの姿が見えた。

「ニールはここにいて」

 私は低い声で言い捨てて駆け出した。

「え!? リリアン、ちょっと待――」

 その後ろからニールが背負っていたマジックバッグを放り出してついてくるのが分かった。言うことを聞かないニールの行動に思わずため息が出てしまったが、そのままデニスさんの元へと駆ける。

「何かあったんですか? デニスさん!?」
「話は後だ。ついてきてくれ」

 デニスさんは神妙な面持ちでそう言うと、森の中へと歩みを進めていく。私は念のため半獣化してクローを装備した。

 森の奥からはほのかに肉の焦げる匂いがする。まさか既に戦闘中なのだろうか? そうだとすると、アランさんやマーニャさんが炎系の魔法を可燃物が密集する森の中で使うとは考えづらい。敵の魔法攻撃に対する苦戦が伺える状況だった。

 私の頭の中を嫌な予感が埋めつくしていき、自然と足早になっていく。

「――え?」

 突然視界が開け、私は立ち止まった。

「アランさん!? マーニャさん!?」

 目の前は切り立った崖。その向こうにはゴゴゴゴ――という大質量の水流の音と共に水しぶきを上げる滝が見えた。その下流側の河川敷には、焚火を取り囲んで串刺しの肉を焼いているアランさんとマーニャさんがいて、こっちに向かって手を振っている。

「……デニスさん、これは一体どういうことですか?」
「ん? 何ってバーベキューだけど?」
「私たちには言えない秘密のクエストがあるんじゃないんですか!?」
「秘密のクエスト? なんのことだ?」
「でも、これだけのメンバーを集めておいて、バーベキューなんて……」
「バーベキューは大人数でやった方が楽しいだろ!?」
「……」

 皆が無事であったという安心感、そして予想が的外れであったという虚脱感で、私はがっくりと肩を落とした。

「リリアンはクエストだとか何か理由がないとついてこないだろ? だから態々わざわざ黙ってたんだ」
「ということは――」

 私が後ろを振り返ると、ニールは視線を逸らして口笛を吹いていた。バーベキューのことを知らなかったのは、どうやら私だけらしかった。





 河川敷に降りると香ばしく焼けたモーアとオークの串焼きが私を待ち受けていた。そして、デニスさんが拝借していったウォーターメロンは、川の隅っこでプカプカと気持ちよさそうに浮かんでいた。

「オークは脂が多いので、こうやって焚火で焼くと程よく脂が落ちて淡白に仕上がるんです」

 アランさんがそう言いながら串焼きをひっくり返す。

「こっちのはもう焼けてるから、もう食べても大丈夫よ~」

 マーニャさんがそう言いながら、オークの串焼きを渡してくれた。端っこをかじると、爽やかな香辛料の風味が鼻孔をくすぐり、驚くことに臭みが全くない。

「おいしい……味付けが塩だけじゃないんですね」

 私の言葉にアランさんが得意げに鼻を鳴らして頷いた。

「数種類のハーブを調合した特製の調味料を持参しました。樫の木亭の味と少し違うかもしれませんね……」
「味が妙に上品なんだよなあ。俺は樫の木亭の味の方が好きだな!」

 デニスさんはそう不満げにつぶやきながらも、勢いよく串焼きを頬張りエールで胃に流し込む。そして最後には満足そうな吐息を漏らした。一通り食事が済んだところで、デニスさんが「さて……」と言って立ち上がる。

「お待ちかねの採れたてウォーターメロンと洒落しゃれこもうじゃないか」

 デニスさんが水面に浮かぶウォーターメロンを取りに向かう。その様子を見ながらアランさんがフッと微笑んだ。

「今年のウォーターメロンは見栄えからして出来がよさそうですね。味が楽しみです」
「あ、私は遠慮しておきます」

 私がそう宣言すると、皆の視線が一斉に私に集中する。

「なんでだ!? おいしいのに!?」

 ニールが目を丸くしながら叫んだ。

「私、ウォーターメロンの青臭さが苦手なのよ」
「リリアン、それは新鮮なウォーターメロンを食べたことがないからだ。ウォーターメロンは時間が経てば経つほど青臭さが強くなってくる。採れたてなら臭みはないはずだぞ」

 ウォーターメロン片手に戻ってきたデニスさんがそう断言した。デニスさんが球体の実を櫛切りにし、うまい具合に5等分にする。するとその断面から鮮やかなビビッドピンクが覗いた。デニスさんはその断面に塩をひとつまみ振りかけ、私に手渡してくれた。

「ほらよ」

 渋々大きな一切れを受け取り、盃に口をつけるようにしてその中心を一口かじる。

「――!?」

 私は思わず目を丸くしてしまった。キンッと冷たい口当たりの後に甘じょっぱさが舌先を襲う。そして、口の中にジュワっとみずみずしさが広がると同時に甘みが脳天を突き抜けた。先ほど食べた串焼きの脂を一掃するような爽快感。臭みなど全く気にならなかった。

「驚いた……」

 私の驚く様子を見たデニスさんがニヤリと口元を引き上げる。皆もウォーターメロンを口にしてそれぞれ満足そうな表情を浮かべていた。私が残り少なくなったウォーターメロンの切り身をじーっと眺めていると、デニスさんが私の頭をポンポンと撫でた。

「今日くらいゆっくり休め。一年中気張ってたら体が持たないぞ」

 その言葉を聞いてハッとした。私はデニスさんがバーベキューをやりたいからクエストを受けたのだと思っていた。でも、デニスさんはランクアップのことばかり気にしている私のことを気にかけてくれたのではないだろうか。デニスさんはいつも人のことばかり気にかけている。今回も私のことを思っての行動だったに違いない。

「デニスさん、今日はありがとう」

 私が素直にお礼を言うと、デニスさんが微笑んだ。気心知れた5人で団らんを囲む幸せ。私の胸はこの時ばかりは幸福感で満たされた。たまにはこんな休息もいいかもしれない――そう思った。

「それはそうと、これだけじゃ物足りないわね……」

 マーニャさんの方を見ると物欲しそうに私のウォーターメロンをじっと見つめていた。

「クエストで依頼された分量よりも多めに収穫してますよね? 少量であれば消費してしまっても良いのでは?」

 アランさんがそう言うと、皆の視線がニールへ集中する。

「ああ、ウォーターメロンが入ったマジックバッグなら重いから群生地に置いてきたけど」

 ニールが悪びれずに言った。その言葉を聞いたアランさんとマーニャさんから不穏なオーラが噴出する。

「マジックバッグはギルドからお借りしているものなのに、無くしたり破損したりしたらどうするんですか……」
「へ?」

「私のウォーターメロンを置き去りにするなんて……」
「へ?」

「「今すぐ取ってきて!」」

 マーニャさんとアランさんの声がきれいに重なり、崖にこだました。

====================

『このクソゲーをよろしく ~君、今日からゲームマスターね!と言われたので、ゲームの中を覗いてみたらサ終危機のクソゲーだった件~』(TakeASeat先生)

 VRMMORPG『ニューズ・オンライン』の管理部署に配属されたプログラマーの山田は、ゲームのゲの字も知らないド素人にも関わらず、なんとゲームマスターを任されてしまった!
 しかし、そのゲームは閑古鳥が鳴くような不人気なクソゲーだった。このままでは2カ月後にはサ終(サービス終了)というゲームオーバーが待っている!
 山田は『ニューズ・オンライン』を人気ゲームに出来るのか!?

 現役ITエンジニアのTakeASeat先生が、作品を通じて業界裏話を描きます!
====================

 TakeASeat先生、素敵なお話のご提供、どうもありがとうございましたー
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