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王都を離れて

91 強さを求める日々(2)

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◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。転生前は前・魔王討伐隊、『英雄』のアシュリー。転移魔法や姿を変える魔法を使う事が出来、人間の騎士の姿に扮する時には『リリス』と名乗っている。
・ニール…主人公リリアンの友人で、冒険者見習いとして活動している自称貴族の少年
・アラン…デニスの後輩の冒険者。騎士団に所属しながら、ニールのお供兼「冒険者の先生」をしている

・デニス…Sランクの実力を持つAランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人。アシュリーとは討伐隊になる前からの付き合いがあり、ずっと彼女に想いを寄せていた。リリアンの前世を知っている。

・カイル…リリアンの兄で、灰狼族の若き族長。銀の髪と尾を持つ。
・タングス…仙狐(3本の尾を持つ白毛の狐)の兄妹の兄。前・魔王討伐隊たちとは顔見知り
・シャーメ…仙狐の兄妹の妹。二人とも20歳程度の人狐の姿になれる。

====================

 昼食の後はニールと合流し、訓練の時間にはいった。
 アランさんが何を言ったのかはわからないけれど、今のニールはとても訓練に積極的だ。
 厳しい課題を与えても、頑張って食らいついてこようとする。そして少し強めに叩いてみると、なかなかに良い音で響いた。
 良いと褒めれば褒めただけ伸びるし、指摘したところは次の時にはちゃんと直してくる。気付きさえすればちゃんと自分で踏み出せる、素直な性格なのだと改めて感じた。

 休憩を兼ねたお茶の時間には、ニールは私の話を聞きたがった。ボロが出ない程度に、巡ったダンジョンの話や余所よその町の話をすると、彼はいつものように目を輝かせて喜んだ。
 一方私の話に合わせて、彼が自身の冒険者話を口にすると、思い出したように寂しそうな目を見せた。

「後で、彼のフォローはしておきますから」
 それに気付いたアランさんが、私にこっそりと告げた。


 王都の自宅に戻って軽く汗を流す。
 アニーから不在の間の報告を受け、魔力を補充する。諸事を済ませると、昼に買い込んだパンや土産を抱えて古龍の住処に戻った。

 その頃にはもうデニスさんとカイルの特訓は終わっていて、大抵二人とも昼寝モードに入っている。
「いや、あれ昼寝じゃなくて、へばって動けねえだけだぞ」
 シアさんにそう言われて、試しに二人をつついてみると、どうやら返事が無い。回復魔法をかけると、死にそうな声で「おかえり」と言ってようやく片手を上げた。だいぶ絞られたみたいね。

 爺様は皆に頼られたりお節介せっかいを焼くのが好きな性格で、自分はもう年寄りだと言いながらも、デニスさんの特訓も喜んで引き受けてくれた。

 まだまだ暴れ足りない爺様に、私も軽く稽古をつけてもらう。
 龍の姿に戻った爺様にはまだまだ敵わないが、動きが良くなったと褒めてもらった。
 へばってたはずの二人が、こっちを見て何か小声で言ってたようだったけど、良く聞こえなかった。

 カイルを灰狼族かいろうぞくの集落に送り届けると、デニスさんとシアさんをともなって仙狐の住処に帰った。
「「お帰りなさいー」」
 仙狐二人が尻尾を振りながら迎えに出てくる。普段はこうして狐の姿で居る事もあって、デニスさんが最初は驚いていたけれど、今は慣れたようだ。

「すっかり世話になっちまって、すまねえな」
 シアさんがそう言うと、二人は私たちの周りをくるりと回って飛び跳ねて見せた。

「こうして皆と居るのは楽しいよ。ずっと二人だけだったしね。それに僕らは人間よりずーーっと長生きなんだからこの程度の時間はどうってことないよ」
「おねーちゃんも、おにーちゃんも、大好きだもん。ずっとここにいてほしーー」

 いつも二人は、私たちの為にボリュームたっぷりの夕飯を用意してくれている。
 今日のメインは鹿のモモ肉にスパイスを刷り込んで焼いた串焼き肉。さすが鹿の肉、串にさしてある肉のひと固まりずつがヤマドリやウサギに比べて格段に大きい。

「今日は特に上手に焼けたんだよ~~」
 シャーメが上機嫌に報告してきた。タングスと二人で火魔法を使って焼いたそうだ。
「そういや、こないだのウサギは黒焦げになってたしな」
 と、シアさんがわざと言うと、シャーメは頬をふくらせてシアさんの皿を取り上げた。
 慌ててシアさんが謝る姿に、皆で笑った。


 夕食が済んで皆で今日の話をしていると、「俺が片付けをするよ」とデニスさんが立ち上がった。
 昼の訓練であんなにバテていたんだし、いや私がと思い立ち上がろうとすると、シアさんに止められた。

「デニスにやってもらえばいいさ。あいつもただの居候でいるのは心地悪いんだろう」
「おねーちゃんも忙しくしてきて疲れているでしょ。もう少し座ってて」
 そう言って私の代わりにシャーメが台所に向かった。さすがに気になって視線で追うと、「大丈夫だよ」とタングスがそっと私に告げた。

 最初は仙狐たちがデニスさんと仲良くしてくれるか気になっていていたけど、今はもうそんな心配はいらないと、そう伝えようとしてくれている。
 こうしてここでも皆と楽しく過ごす事が出来て嬉しい。
 タングスに笑顔で応えた。

 でも、昼に見たニールの寂しそうな目を思い出した。
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