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過去を手繰る

78 トレント狩り/ニール(1)

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◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女
・ニール…冒険者見習いとして活動している自称貴族の少年
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属する、Aランクの先輩冒険者
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、Sランク冒険者(実力はSSランク)。デニスの兄貴分
・マーニャ…エルフでBランクの魔法使い。デニスとは古くからの知人。実年齢不詳(かなり年上らしい)。
・アラン…デニスの後輩の冒険者。騎士団に所属しながら、ニールの「冒険者の先生」をしている。
・ジャスパー…『樫の木亭』夫婦の一人息子で、Cランク冒険者。剣士から魔法使いに転向の修行中。

====================

 あれから、毎日の様に口実を作っては王城に行っていたが、目当ての女性騎士に会える事は無かった。

 会えないと思うと、余計に思いがつのってしまう。副団長によると、ここ数日見かけていないらしい。以前は2~3日に一度は来ていたそうなのだが。
 まさか先日の事で避けられているのかと、余計な気を揉んでしまう。そんなはずは無いと思いたい。でももし、そうなら…… 詫びなければ。
 そうして彼女の事を考えて、また胸が痛んだ。

 今朝も急ぎではない書類を持って、わざわざ王城に足を運んだ。でもこの後にニールと一緒に冒険者ギルドに行く事になっている。用が終わったらすぐに帰らないといけない。
 わずかなチャンスも無駄にしたくない。辺りを見回しながら、城内を歩いた。

 長い黒髪の、華奢きゃしゃな後姿を見つけた時、心が踊り足は自然と早まった。

 * * *

 今日もリリアンとシアンさんは居ないらしい。しばらく二人で旅をしてたんだって、ずるいよなーー
 俺も一緒に行きたかったけど、デニスさんも断られたんだって。
 デニスさんがリリアンを好きだって事は、俺もアランも知っている。置いて行かれたデニスさんが、毎日気が気でない様子だったのも見ていた。

 先日、二人は無事に帰ってきたそうだ。だからまた皆でクエストに行けるかなって、そう思ってギルドに顔を出したんだけど、今日は別な理由で二人とも居なかった。
 シアンさんは、元・魔王討伐隊として王城に呼ばれたそうだ。カッコいいよな。リリアンは知り合いの爺さんの家に行ったんだとか。本を読んでるあげてるとか、そんな事をしているらしい。
 今日はさっぱりした表情をしているデニスさんが、そう教えてくれた。

「ちぇ、またシアンさんとクエスト行きたかったのになぁー」
「そんな事言っても、こないだみたいな事はそうそうないぞ? ランクが違いすぎるからな」
「なら俺、荷物持ちでいいからさ。Aランクのクエスト見たい!」
「グリフォン行ったじゃねーか。あれもAランクだぞ?」
 おめーは見習いの自覚がねえぞって、デニスさんに小突かれた。でも今日は機嫌がいいみたいだ。

「あ、マーニャさんだ」
 ちょうど今来たところらしい。俺たちを見つけてマーニャさんが手を振った。美人でスタイルの良いマーニャさんは、相変わらず色っぽい服装をしていて、ついつい谷間に視線が誘われてしまう。慌てて視線を上げた。

「ちょうど良かったわ? 手は空いてるかしら?」
 マーニャさんはそう言ってデニスさんに声を掛けた。
「ああ、どうした?」
「ちょっと頼まれ事があってね、人手が欲しいの。トレント狩りに行きたいのよ」
 トレント! 図書館の本でしか見た事がない。動く大木の魔物だ。木のくせに歩くし、回復魔法も使うんだとか。
「トレントかー 食えねえな」
 デニスさんがボソッと言った。ええ? それ気にするの?
「食べたければ食べれば?」
 歯が丈夫になるわよ多分と、マーニャさんが笑いながら言った。

「リリアンとアランは居ないのかしら?」
「アランなら用事があるって、遅れてくることになってる。もうすぐ来るんじゃないかな? リリアンは今日は居ないな」
 アランも一緒にって事だよな。って事は、俺もついてってもいいのかな?
「ニール、準備するものは大体わかるわよね?」
 やった! 俺も行ける!!
「はい!」
 大喜びで返事をしたら、マーニャさんはふふっとちょっと色っぽく笑った。

 * * *

 皆で目的地のトレント生息地に向かう。草原を渡る風がとても心地いい。こないだまであんなに暑かったのが嘘みたいだ。
 あちこちの茂みから虫の鳴き声が聞こえてきて、ちょっと故郷の町を思い出した。

「トレントを狩ってどうするんですか?」
 後から合流したアランは、やたらと上機嫌だった。今もニコニコしながらマーニャさんに話し掛けている。

 人里に近づき過ぎたトレントを退治する依頼なら、冒険者ギルドに寄せられる事もある。でも今回のはそういうのではないらしい。
「トレントの木材を取って来いって依頼なのよ。家具を作るんですって」
 倒せば木材が手に入る。その木材で作られた家具は金持ち御用達の超高級品なのだそうだ。

「それで、わざわざ狩りに行かせるんだ。金持ちは違うよなぁ」
 そうボヤくと、デニスさんが変な顔をして俺の方を見た。
「ってか、ニールも貴族だろう? 俺から見たらお前もそっち側の人間だぞ?」
「まあ、そうだけどさ。俺んとこは田舎の貧乏貴族だからさー」
 笑ってそう言うと、そっかそっかと言いながら、デニスさんも声を上げて笑った。

 でもそれだけで、余計な事を聞いてはこない。
 皆もそうだ。俺が貴族だって知ってても、こんな風に同じ仲間として扱ってくれる。貴族だから、苗字があるのもわかっているだろうけど、それを聞かれた事も一度もない。

 中央の冒険者ギルドに居た時、あそこの冒険者貴族たちは互いの家の格を探り合うような事をしてて、正直うざったかった。でも西のギルドに来てから……デニスさんたちと一緒に過ごすようになって、そんな煩わしい思いは全くしなくなった。
 ギルマスのマイルズさんも、俺の事をただの「見習いの冒険者」として扱ってくれる。他の冒険者たちも、最初の頃こそ余所者よそものを見るような態度はあったけど、今は全くそんな事はない。

「『樫の木亭』で見てると、そうは見えませんよね」
 マーニャさんの向こうで、ジャスパーが笑いながら言った。
「給仕をしてる貴族なんて、少なくとも王都じゃ見かけないものねえ」
 それにあわせるように、マーニャさんも笑顔になる。

 ジャスパーはマーニャさんが連れてきた。どうやら、例の魔法の勉強が彼に合ったらしくて、魔法が結構上達しているそうだ。それで今日はその腕試しで来たんだって。

====================

(メモ)
 図書館(#8)
 中央の冒険者貴族(#6)
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