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新しい生活
65 朝帰り(2)
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◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。神秘魔法で大人の姿になり、ケヴィンの護衛騎士に扮している。
・デニス…Sランクの実力を持つAランクの冒険者で、リリアンの先輩。リリアンに好意を抱いている。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、デニスの兄貴分。右目は眼帯で隠れている。リリアンの家に借り宿中。
・ケヴィン…人間の国シルディスの先代の王
====================
抱きかかえられたままで居間のソファまで運ばれて座らされると、がっちりと両脇を二人に挟まれてしまった。
嫌な訳ではない。でも逃げ場が無くなったように思えて、両耳が垂れた。
「なあ、リリアン…… 昨日は何があったんだ? 心配したぞ?」
左手に座ったシアさんが顔を寄せながら、やけに真面目な顔で聞いて来た。
昨日夕方までに帰るって言ったのは私だもんね。心配させてしまった事は、本当に申し訳ない……
でも言えない事もある。どう話し始めようかと思っていると、頭にシアさんの手が触れた。
「まあ、恋人の家で過ごしてたとかなら、いいんだけどさぁ」
よくねえよってデニスさんが小さく呟いたのが聞こえた。
そんな事言われても恋人なんか居ない。なんでそんな話になるんだろう??
「リリアン、こんなに可愛いんだもんなぁ。でも、もしも困った事があったらちゃんと相談してくれよ?」
彼が頭を撫でてくれる、その前後する手が耳にふにふにと当たるとなんだか心地よい気がして、気にする気持ちがちょっと紛れた。
「……いや、何も困った事はないですよ。先方でちょっと気分が悪くなって…… 休ませていただいていたんです」
「そっか、ならいいんだが…… 悪い。ちょっとだけ、良くない心配をした」
少し困ったような表情で微笑んでみせてから、そう言った。
「おっさん、どうしたんだ?」
デニスさんもその様子が気になったらしい。
「朝帰りするって事は、そういう事だろう?? それで朝飯を手土産に持たせてくれたのなら、相手は貴族か…… 金持ちとかなんだろうなと思ってさ。 だからもしかして、帰れなかったんじゃなくて……帰してもらえなかったんじゃないかって、思っちまってな……」
シアさんが言う事は前半は間違いではない。でも帰してもらえないって?? どういう事だろう??
「ああ、そうか……」
その声に反対側を見ると、今度はデニスさんが苦い顔をしている。
「……どうしたんですか?」
「こないだまで、俺がお前の護衛をしてただろう?? おっさんはそういう心配をしたんだな……」
そう言いながら、デニスさんはシアさんの手を払いのけて私の頭を撫でた。デニスさんの手の方が、多分ほんの少しだけ大きい。シアさんに撫でられるより、大きく耳に当たった。
「そういう心配って……?」
「……お前が無理矢理…… 誰かの夜の相手をさせられたんじゃないかとか…… そういう心配だな」
デニスさんは私の頭を撫でながら、ちょっと言い難そうに口籠りながら言った。
いやいやいやいや! そんな事はない!!
でもそっか。朝に帰るという事はそういう事だ。それで恋人がどうとかって話になったのか……
「いいえ、そんな事は全くありませんー!! ええとですね…… あるきっかけでお知り合いになったお年寄りのところで、たまに本を読んで差し上げているんです。昨日は一緒にお出掛けしてきたんですけど…… それで体調を崩してしまいまして……」
「あーー…… 年寄りと一緒って事は、もしかして馬車に乗ったのか??」
「……はい」
なるほど、とデニスさんは言って息を吐き出した。
「馬車がどうしたんだ?」
「リリアンな、馬車酔いするんだよ。異常なほどにな」
「……意外だな」
「ああ、俺も意外だった」
どう誤魔化そうかと思ったところで、いい案配に勘違いをしてくれたらしい。
まさか教会の奥でシルディス神の遺骸を見つけ、さらに神のゴーレムに会ったなんて言える事ではないし。
「そろそろ朝ごはんにしませんか?」
どうにか安心したらしい二人に声をかけると、ようやく解放してもらえた。
持ち帰ったマジックバッグには大き目のバスケットが二つと深めの鍋が入っている。
一つ目のバスケットには、ハムやソーセージ、チーズ、サラダなどがたっぷりと入っており、もう一つのバスケットには焼きたてらしい白パンがこれでもかと詰められていた。
鍋の蓋を開けると湯気とともにいい匂いが立ち込める。中身は大きな肉の塊と野菜がごろごろと入ったスープだった。これはキッチンから持ってきた深皿に盛り、各自のテーブルに置いた。
流石、王城の朝食だ。昨日の朝食もこれに負けず劣らずのボリュームではあったけれど、今日のは見るからに質が違う。
二人とわいわいと話をしながら食べて、ちょっとだけケヴィン様と朝食をご一緒しなかった事を後悔した。
日記を読んだ後に、あの方はいつも皆で過ごした楽しい思い出話を聞かせてくれる。その様子は嬉しそうだけれど、でも少し寂しそうでもあって。もしかして本当はあの方も昔のようにこんな時間を持ちたかったんじゃないかと、そう思った。
日記はまだあと数ページ残っている。またアップルパイを焼いて、ケヴィン様の所へ行こう。
====================
(メモ)
(Ep.3)
アップルパイ(#55)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。神秘魔法で大人の姿になり、ケヴィンの護衛騎士に扮している。
・デニス…Sランクの実力を持つAランクの冒険者で、リリアンの先輩。リリアンに好意を抱いている。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、デニスの兄貴分。右目は眼帯で隠れている。リリアンの家に借り宿中。
・ケヴィン…人間の国シルディスの先代の王
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抱きかかえられたままで居間のソファまで運ばれて座らされると、がっちりと両脇を二人に挟まれてしまった。
嫌な訳ではない。でも逃げ場が無くなったように思えて、両耳が垂れた。
「なあ、リリアン…… 昨日は何があったんだ? 心配したぞ?」
左手に座ったシアさんが顔を寄せながら、やけに真面目な顔で聞いて来た。
昨日夕方までに帰るって言ったのは私だもんね。心配させてしまった事は、本当に申し訳ない……
でも言えない事もある。どう話し始めようかと思っていると、頭にシアさんの手が触れた。
「まあ、恋人の家で過ごしてたとかなら、いいんだけどさぁ」
よくねえよってデニスさんが小さく呟いたのが聞こえた。
そんな事言われても恋人なんか居ない。なんでそんな話になるんだろう??
「リリアン、こんなに可愛いんだもんなぁ。でも、もしも困った事があったらちゃんと相談してくれよ?」
彼が頭を撫でてくれる、その前後する手が耳にふにふにと当たるとなんだか心地よい気がして、気にする気持ちがちょっと紛れた。
「……いや、何も困った事はないですよ。先方でちょっと気分が悪くなって…… 休ませていただいていたんです」
「そっか、ならいいんだが…… 悪い。ちょっとだけ、良くない心配をした」
少し困ったような表情で微笑んでみせてから、そう言った。
「おっさん、どうしたんだ?」
デニスさんもその様子が気になったらしい。
「朝帰りするって事は、そういう事だろう?? それで朝飯を手土産に持たせてくれたのなら、相手は貴族か…… 金持ちとかなんだろうなと思ってさ。 だからもしかして、帰れなかったんじゃなくて……帰してもらえなかったんじゃないかって、思っちまってな……」
シアさんが言う事は前半は間違いではない。でも帰してもらえないって?? どういう事だろう??
「ああ、そうか……」
その声に反対側を見ると、今度はデニスさんが苦い顔をしている。
「……どうしたんですか?」
「こないだまで、俺がお前の護衛をしてただろう?? おっさんはそういう心配をしたんだな……」
そう言いながら、デニスさんはシアさんの手を払いのけて私の頭を撫でた。デニスさんの手の方が、多分ほんの少しだけ大きい。シアさんに撫でられるより、大きく耳に当たった。
「そういう心配って……?」
「……お前が無理矢理…… 誰かの夜の相手をさせられたんじゃないかとか…… そういう心配だな」
デニスさんは私の頭を撫でながら、ちょっと言い難そうに口籠りながら言った。
いやいやいやいや! そんな事はない!!
でもそっか。朝に帰るという事はそういう事だ。それで恋人がどうとかって話になったのか……
「いいえ、そんな事は全くありませんー!! ええとですね…… あるきっかけでお知り合いになったお年寄りのところで、たまに本を読んで差し上げているんです。昨日は一緒にお出掛けしてきたんですけど…… それで体調を崩してしまいまして……」
「あーー…… 年寄りと一緒って事は、もしかして馬車に乗ったのか??」
「……はい」
なるほど、とデニスさんは言って息を吐き出した。
「馬車がどうしたんだ?」
「リリアンな、馬車酔いするんだよ。異常なほどにな」
「……意外だな」
「ああ、俺も意外だった」
どう誤魔化そうかと思ったところで、いい案配に勘違いをしてくれたらしい。
まさか教会の奥でシルディス神の遺骸を見つけ、さらに神のゴーレムに会ったなんて言える事ではないし。
「そろそろ朝ごはんにしませんか?」
どうにか安心したらしい二人に声をかけると、ようやく解放してもらえた。
持ち帰ったマジックバッグには大き目のバスケットが二つと深めの鍋が入っている。
一つ目のバスケットには、ハムやソーセージ、チーズ、サラダなどがたっぷりと入っており、もう一つのバスケットには焼きたてらしい白パンがこれでもかと詰められていた。
鍋の蓋を開けると湯気とともにいい匂いが立ち込める。中身は大きな肉の塊と野菜がごろごろと入ったスープだった。これはキッチンから持ってきた深皿に盛り、各自のテーブルに置いた。
流石、王城の朝食だ。昨日の朝食もこれに負けず劣らずのボリュームではあったけれど、今日のは見るからに質が違う。
二人とわいわいと話をしながら食べて、ちょっとだけケヴィン様と朝食をご一緒しなかった事を後悔した。
日記を読んだ後に、あの方はいつも皆で過ごした楽しい思い出話を聞かせてくれる。その様子は嬉しそうだけれど、でも少し寂しそうでもあって。もしかして本当はあの方も昔のようにこんな時間を持ちたかったんじゃないかと、そう思った。
日記はまだあと数ページ残っている。またアップルパイを焼いて、ケヴィン様の所へ行こう。
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(メモ)
(Ep.3)
アップルパイ(#55)
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