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二度目の帰還
50 キス/デニス(2)
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◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。友人の家に仮居候中。
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属する、Aランクの先輩冒険者
・ドリー…自称「ゴーレムのようなもの」。神の助手
====================
リリアンを抱き上げると、2階への階段を上がり一番手前の居室に入る。
使えるようにしてある。確かにそう言われたように、部屋は普段から手入れをしてあるように綺麗だった。
この部屋だけじゃない。思い返せば玄関も廊下も綺麗だった。途中通り抜けてきたリビングも、階段も。どこも今日からでも住めるような状態だ。
リリアンは獣人だからかスタミナはあるヤツで、こんなにぐったりしているところは今まで見た事がない。その体をベッドに横たわらせて、軽く頭を撫でた。
「大丈夫か?」
「……急激に魔力を失ったので、その影響みたいです。少しでも残っていれば良かったんですけど、すっかり空っぽで……」
そう言うと、力を抜くように息をついて目を閉じた。
「俺の魔力を少しでも分けられればいいんだが……」
脳裏にさっきの光景が浮かんだ。あれで魔力が渡せるのなら……
ベッドに上がって両手を付き、リリアンを上から見下ろすようにすると、リリアンが少し目を開けた。
「……デニスさん?」
それには応えずに、彼女の唇に自分の唇を重ねた。
彼女の身が僅かに震えその唇が開くと、自然にさらに深くまで重なった。
しばらくの間唇を重ねたままで……
これでいいんだろうか? 合っているのか、間違っているかもわからない。でもリリアンに拒否されてはいないし、してはいけない事ではないんだろう。
「ん……」
リリアンが小さくくぐもった声を上げて、はたと気付いた。
俺は今、これは何をしているんだ……?
焦っていたので気付かなかったが……
もしこれで魔力を分ける事が出来ないとしたら、俺がしているのはただのキスだ。
しかも一方的に……
いや違う、下心があったわけじゃない。もしかしたら、魔力を失った彼女の助けになるのではと…… そう自分に言い訳をして。
でもここで唇を離してしまったら、そんな自分を正当化できない気がして…… また深く唇を絡ませたが、もう遅かった。
これは、もしかしたらただのキスなんだと、自分に気付かれてしまった。
魔力の受け渡しだと思っていれば意識しなかった、彼女の唇の柔らかさを意識してしまう…… 小さくて柔らかくて甘くて…… それが僅かに動くたびに、その感触に夢中になっていく。
我慢が……ならなかった……
片手でリリアンの髪を、その狼の耳元を撫でると、重ねた唇の奥で「ん……」とまた小さくあげた声が聞こえた。
可愛い…… もっと彼女を味わいたい、深く、奥まで…… 舌を……
『ご主人様』
不意に後ろから声が掛かり、我に返った。
リリアンから唇を離して振り向くと、先ほどのゴーレムがそこに居た。
ベッドの上。ぐったりと脱力しているリリアン。それに覆い被さっている俺。
って、どう見ても俺が襲い掛かっているようにしか見えないじゃねーか。
「あ!いや、これは……」
つい言い訳をしようとすると、下からくすりと小さく笑う声がした。
「私はゴーレムじゃないんですから、この方法では魔力の受け渡しはできませんよ」
でも気遣ってくれてありがとうございますと、そう言うリリアンに、ああと苦笑いに乗せて返事をする。
途中から、ただ彼女の唇が欲しくて夢中になってしまっただなんて、そんな事は言えやしない……
『マジックポーションが残っていたのでお持ちしました』
「ありがとう」
俺が体をどかすと起き上がろうとしたので、その背中に手を添えて支える。ゴーレムの差し出したポーション瓶を受け取ると、口を開けてリリアンに手渡した。
「マジックポーションって…… 結構高いんだろう?」
「これはもう古くなっているので、そんなに効果も価値もないと思います。まあ普通に動けるくらいなれば良いくらいでしょう」
そう言って、リリアンは瓶の中身を一気に飲み干した。
「あいつ、お前の事をマスターって呼んだが……」
「さっき情報を書き換えて、主人を私にしたんです。あと、ちょっとだけ機能を追加しておきました」
「……よくわかんねえけど、すげえな……」
「いやー、私一人では流石に無理でした。ドリーさんがそういった事に詳しかったので、色々教えてもらって。徹夜して頑張った甲斐がありましたー」
「あの指輪か?」
「はい、予め呪文を指輪に組み込んでおいたんですー」
あの隠れ家で鏡ごしに会ったドリーさんも魔法使いだったのか。そして、リリアンはここに居るのがゴーレムだと、あの頃からわかっていたのか……
色々とわからない事だらけで、少し混乱している。何より頭の中の半分以上が、さっきの唇の感触の余韻で上手く働こうとしない。
リリアンはするりとベッドから出て立ち上がった。
「おい、大丈夫か?」
「流石にクエストとかは行けませんが、普通に動く分には大丈夫です。ここの契約をしてきましょうー」
玄関を出ようとすると、ゴーレムは玄関先まで来て俺たちを見送ってくれた。
『行ってらっしゃいませ』
ゴーレムに感情はないと、リリアンから聞いていたが…… なんだか名残惜しそうに見えるのは気のせいだろうか。
「アニー、また来るからね」
それを受けて、ゴーレムは深く頭を下げた。
レンガの道沿いに広がる町並みは、そろそろ夕暮れの顔を見せようとしている。
幽霊屋敷からギルドへ戻る道を歩くと、氷菓子を売って歩く移動屋台とすれ違った。学校帰りの子供たちが物欲しそうにその屋台を見ながら足を止める姿に、なんだか微笑ましさを感じた。
リリアンの方を見ると、彼女も子供たちを見ながら優しい目をしている。
その視線を感じたのか気付いたように俺の方をみた。
「買っていきますか?」
あの氷菓子の事らしい。
「いや、家に帰ればお前のアップルパイがあるだろう?」
そう言うと、彼女はにこりと笑ってみせた。
「さっきの、あのアニーってのはゴーレムの名前なのか?」
「あの子の名前はアンドレです。女性形の時には愛称でアニーと呼ぶんです。機能が増えたので、料理なんかも出来ますよ」
「えっと…… メイドみたいなもんか?」
「そうですね。それでいいと思います」
なんで彼女があのゴーレムの名前を知っているのか。
それ以前にあそこにゴーレムが居るのを知っていたのか。
そのクリエイターとはどんなヤツで、どんな関係なのか。
やっぱり、また以前の仲間が関係しているんだろうか。
聞きたい事、知りたい事は沢山ある。
でも今の俺には、さっき彼女にただキスをしてしまった引け目もあって。あんなにぐったりとしていた彼女に、結局は自分の欲望をぶつけてしまった罪悪感もあって。
ひとまずは問題を解決できて、彼女の希望の家が見つかって良かったと、そんな顔だけをしてみせる事にした。
そして俺にはまた、ため息をつかせる夢が増えた。
====================
(メモ)
ドリー(#29、46)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。友人の家に仮居候中。
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属する、Aランクの先輩冒険者
・ドリー…自称「ゴーレムのようなもの」。神の助手
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リリアンを抱き上げると、2階への階段を上がり一番手前の居室に入る。
使えるようにしてある。確かにそう言われたように、部屋は普段から手入れをしてあるように綺麗だった。
この部屋だけじゃない。思い返せば玄関も廊下も綺麗だった。途中通り抜けてきたリビングも、階段も。どこも今日からでも住めるような状態だ。
リリアンは獣人だからかスタミナはあるヤツで、こんなにぐったりしているところは今まで見た事がない。その体をベッドに横たわらせて、軽く頭を撫でた。
「大丈夫か?」
「……急激に魔力を失ったので、その影響みたいです。少しでも残っていれば良かったんですけど、すっかり空っぽで……」
そう言うと、力を抜くように息をついて目を閉じた。
「俺の魔力を少しでも分けられればいいんだが……」
脳裏にさっきの光景が浮かんだ。あれで魔力が渡せるのなら……
ベッドに上がって両手を付き、リリアンを上から見下ろすようにすると、リリアンが少し目を開けた。
「……デニスさん?」
それには応えずに、彼女の唇に自分の唇を重ねた。
彼女の身が僅かに震えその唇が開くと、自然にさらに深くまで重なった。
しばらくの間唇を重ねたままで……
これでいいんだろうか? 合っているのか、間違っているかもわからない。でもリリアンに拒否されてはいないし、してはいけない事ではないんだろう。
「ん……」
リリアンが小さくくぐもった声を上げて、はたと気付いた。
俺は今、これは何をしているんだ……?
焦っていたので気付かなかったが……
もしこれで魔力を分ける事が出来ないとしたら、俺がしているのはただのキスだ。
しかも一方的に……
いや違う、下心があったわけじゃない。もしかしたら、魔力を失った彼女の助けになるのではと…… そう自分に言い訳をして。
でもここで唇を離してしまったら、そんな自分を正当化できない気がして…… また深く唇を絡ませたが、もう遅かった。
これは、もしかしたらただのキスなんだと、自分に気付かれてしまった。
魔力の受け渡しだと思っていれば意識しなかった、彼女の唇の柔らかさを意識してしまう…… 小さくて柔らかくて甘くて…… それが僅かに動くたびに、その感触に夢中になっていく。
我慢が……ならなかった……
片手でリリアンの髪を、その狼の耳元を撫でると、重ねた唇の奥で「ん……」とまた小さくあげた声が聞こえた。
可愛い…… もっと彼女を味わいたい、深く、奥まで…… 舌を……
『ご主人様』
不意に後ろから声が掛かり、我に返った。
リリアンから唇を離して振り向くと、先ほどのゴーレムがそこに居た。
ベッドの上。ぐったりと脱力しているリリアン。それに覆い被さっている俺。
って、どう見ても俺が襲い掛かっているようにしか見えないじゃねーか。
「あ!いや、これは……」
つい言い訳をしようとすると、下からくすりと小さく笑う声がした。
「私はゴーレムじゃないんですから、この方法では魔力の受け渡しはできませんよ」
でも気遣ってくれてありがとうございますと、そう言うリリアンに、ああと苦笑いに乗せて返事をする。
途中から、ただ彼女の唇が欲しくて夢中になってしまっただなんて、そんな事は言えやしない……
『マジックポーションが残っていたのでお持ちしました』
「ありがとう」
俺が体をどかすと起き上がろうとしたので、その背中に手を添えて支える。ゴーレムの差し出したポーション瓶を受け取ると、口を開けてリリアンに手渡した。
「マジックポーションって…… 結構高いんだろう?」
「これはもう古くなっているので、そんなに効果も価値もないと思います。まあ普通に動けるくらいなれば良いくらいでしょう」
そう言って、リリアンは瓶の中身を一気に飲み干した。
「あいつ、お前の事をマスターって呼んだが……」
「さっき情報を書き換えて、主人を私にしたんです。あと、ちょっとだけ機能を追加しておきました」
「……よくわかんねえけど、すげえな……」
「いやー、私一人では流石に無理でした。ドリーさんがそういった事に詳しかったので、色々教えてもらって。徹夜して頑張った甲斐がありましたー」
「あの指輪か?」
「はい、予め呪文を指輪に組み込んでおいたんですー」
あの隠れ家で鏡ごしに会ったドリーさんも魔法使いだったのか。そして、リリアンはここに居るのがゴーレムだと、あの頃からわかっていたのか……
色々とわからない事だらけで、少し混乱している。何より頭の中の半分以上が、さっきの唇の感触の余韻で上手く働こうとしない。
リリアンはするりとベッドから出て立ち上がった。
「おい、大丈夫か?」
「流石にクエストとかは行けませんが、普通に動く分には大丈夫です。ここの契約をしてきましょうー」
玄関を出ようとすると、ゴーレムは玄関先まで来て俺たちを見送ってくれた。
『行ってらっしゃいませ』
ゴーレムに感情はないと、リリアンから聞いていたが…… なんだか名残惜しそうに見えるのは気のせいだろうか。
「アニー、また来るからね」
それを受けて、ゴーレムは深く頭を下げた。
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「買っていきますか?」
あの氷菓子の事らしい。
「いや、家に帰ればお前のアップルパイがあるだろう?」
そう言うと、彼女はにこりと笑ってみせた。
「さっきの、あのアニーってのはゴーレムの名前なのか?」
「あの子の名前はアンドレです。女性形の時には愛称でアニーと呼ぶんです。機能が増えたので、料理なんかも出来ますよ」
「えっと…… メイドみたいなもんか?」
「そうですね。それでいいと思います」
なんで彼女があのゴーレムの名前を知っているのか。
それ以前にあそこにゴーレムが居るのを知っていたのか。
そのクリエイターとはどんなヤツで、どんな関係なのか。
やっぱり、また以前の仲間が関係しているんだろうか。
聞きたい事、知りたい事は沢山ある。
でも今の俺には、さっき彼女にただキスをしてしまった引け目もあって。あんなにぐったりとしていた彼女に、結局は自分の欲望をぶつけてしまった罪悪感もあって。
ひとまずは問題を解決できて、彼女の希望の家が見つかって良かったと、そんな顔だけをしてみせる事にした。
そして俺にはまた、ため息をつかせる夢が増えた。
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(メモ)
ドリー(#29、46)
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