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二度目の帰還
47 仲間(1)
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◆登場キャラ紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。ニールの家に仮居候中。15歳。
・ニール…冒険者見習いとして活動している自称貴族の少年。14歳。
・アラン…騎士団に所属しながら、ニールの「冒険者の先生」をしているBランク冒険者
====================
昨日町に着いたのが大分遅い時間だったので、今朝の鍛錬は控えめで。ニールの朝練時間に合わせて一緒に体を動かす程度にしておいた。
「リリアンさんが居てくれるお陰で、ニールも張り合いが出ているようで助かります」
と、アランさんが言ってくれるので、迷惑をかけてないかと砕いていた気持ちが少しだけ軽くなった。
「リリアンも朝練するんだなー」
ランニングをしている時に、ニールが嬉しそうな顔で呑気な事を言ってきた。
「うん、いつもはもっと早く起きてやってるよー」
それを聞いたニールの口がへの字に曲がった。
「アラン! 俺も明日からはもっと早く起きて朝練やるから!」
どうやら対抗意識を刺激したらしい。そう宣言すると、さっさと走って先に行ってしまった。あーあ、あれだとすぐにバテちゃうだろうなあ。
張り切るニールを見て、アランさんは可笑しそうに口に手を当てた。何故だかアランさんは朝から機嫌が良い。
「リリアンさん、早朝練習の時には声をかけて下さい。私もご一緒しますので」
「わかりました。でもかなり朝早いですよ、大丈夫ですか? それに朝なら心配はいらないんじゃないですか?」
「まだ人の少ない時間ですから、一応用心しましょう。それに私も早い時間から朝練をしていますから」
朝なら護衛の必要はないと思っていたのだけれど、確かに早朝の人気はない。
そうか。今更だけどデニスさんもそれ程に私を気にしてくれていたんだろう。
あの時、黙ってデニスさんの部屋を抜け出して本当に悪い事をしてしまった。
* * *
「今日は少しのんびりしようと思って」
朝食の席で、ニールの誘いをそう言って断ると、ニールはひどく残念そうな顔をした。
ニールって本当に思う事が顔にでるのよね。ポーカーフェイスとか、絶対に出来ないと思う。
「長旅から帰ってすぐに、またお出掛けされていたんですから。無理をさせたらいけませんよ」
「それもありますし、あと住む場所を探さないと……」
アランさんのフォローに続いてそう言うと、ニールが不思議そうな顔をした。
「まだここに居ればいいじゃないか」
「ええ、でも悪いし……」
「そうですね。せめて安全が確認できるまではここに居ていただいた方が、用心も出来るので都合が良いでしょう」
ニールはともかく、アランさんにまでそう言われると、ちょっと心が緩んだ。
「部屋も空いてるしさ。俺とリリアンの仲なんだから遠慮すんなよ!」
って、ニール!? いったいどんな仲よー!?
多分アランさんも同じような事を思ったのだろう。もう笑いを堪えきれない様子で、口元に手をあててニヤついている。
「それにリリアンさんが居ると、ニールの気合が全然違うんですよ。もうしばらく、いい刺激を与えてやって下さいな」
そんな風にアランさんが言うものから、朝錬の事を思い出して私まで吹き出してしまい、ニールはそんな私たちを見て、なんだよーと不貞腐れた。
「お出掛けされる時には、あまり人気のないところには行かないように、用心して下さいね」
そう言って、二人は出掛けて行った。今日は近場のクエストでも受けてくるそうだ。
洗濯など身の回りの事を済ませると、一人で町にでた。
1年以上住んでいる町の風景が、今は少しだけ別の色で色付けされている。
ドリーさんが記憶の整理をしてくれたからだ。今の街並みに昔の思い出が重なって見えている。
そして何故かずっと足が向いていなかった場所がある事にも気が付いていた。
季節は日差しが痛いほどに眩しい頃を迎え、町中の樹々では夏の虫が死にもの狂いで聲を上げて競い合っている。でもそんな聲も今の私の心には響かなくて。まるで分厚いカーテンを頭から被っているかの様に、遠くの方に聞こえている。
今、心の中に響くのは別の声で……
なかなか美味かったな。
食べ過ぎちゃった。どうしよう太っちゃう。
そんな気にする程じゃねえのに。
気に入ったのなら、また皆で行こうか。
もう一軒、良い店知ってるのよー
今度はそこにも行ってみましょう!
なあ、今度は二人で行かないか?
何抜け駆けしてんだよ!
じゃあ、私と一緒に行こう?
ずるいー 私も行くわよー
ええっ なら、私たちも二人で一緒に……
ははは。これじゃあ結局皆で一緒に行くようだな。
それを聞いて、皆で笑った。
嗚呼、良かった。皆が笑っていて良かった。
思い出を数えながら道を辿ると、懐かしい場所に行きついた。
でも顔を上げても、目の前が滲んで良く見えなくて……
何かがぽろぽろと頬を伝って落ちていった。
====================
(メモ)
朝練(#9)
あの時(#40)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。ニールの家に仮居候中。15歳。
・ニール…冒険者見習いとして活動している自称貴族の少年。14歳。
・アラン…騎士団に所属しながら、ニールの「冒険者の先生」をしているBランク冒険者
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昨日町に着いたのが大分遅い時間だったので、今朝の鍛錬は控えめで。ニールの朝練時間に合わせて一緒に体を動かす程度にしておいた。
「リリアンさんが居てくれるお陰で、ニールも張り合いが出ているようで助かります」
と、アランさんが言ってくれるので、迷惑をかけてないかと砕いていた気持ちが少しだけ軽くなった。
「リリアンも朝練するんだなー」
ランニングをしている時に、ニールが嬉しそうな顔で呑気な事を言ってきた。
「うん、いつもはもっと早く起きてやってるよー」
それを聞いたニールの口がへの字に曲がった。
「アラン! 俺も明日からはもっと早く起きて朝練やるから!」
どうやら対抗意識を刺激したらしい。そう宣言すると、さっさと走って先に行ってしまった。あーあ、あれだとすぐにバテちゃうだろうなあ。
張り切るニールを見て、アランさんは可笑しそうに口に手を当てた。何故だかアランさんは朝から機嫌が良い。
「リリアンさん、早朝練習の時には声をかけて下さい。私もご一緒しますので」
「わかりました。でもかなり朝早いですよ、大丈夫ですか? それに朝なら心配はいらないんじゃないですか?」
「まだ人の少ない時間ですから、一応用心しましょう。それに私も早い時間から朝練をしていますから」
朝なら護衛の必要はないと思っていたのだけれど、確かに早朝の人気はない。
そうか。今更だけどデニスさんもそれ程に私を気にしてくれていたんだろう。
あの時、黙ってデニスさんの部屋を抜け出して本当に悪い事をしてしまった。
* * *
「今日は少しのんびりしようと思って」
朝食の席で、ニールの誘いをそう言って断ると、ニールはひどく残念そうな顔をした。
ニールって本当に思う事が顔にでるのよね。ポーカーフェイスとか、絶対に出来ないと思う。
「長旅から帰ってすぐに、またお出掛けされていたんですから。無理をさせたらいけませんよ」
「それもありますし、あと住む場所を探さないと……」
アランさんのフォローに続いてそう言うと、ニールが不思議そうな顔をした。
「まだここに居ればいいじゃないか」
「ええ、でも悪いし……」
「そうですね。せめて安全が確認できるまではここに居ていただいた方が、用心も出来るので都合が良いでしょう」
ニールはともかく、アランさんにまでそう言われると、ちょっと心が緩んだ。
「部屋も空いてるしさ。俺とリリアンの仲なんだから遠慮すんなよ!」
って、ニール!? いったいどんな仲よー!?
多分アランさんも同じような事を思ったのだろう。もう笑いを堪えきれない様子で、口元に手をあててニヤついている。
「それにリリアンさんが居ると、ニールの気合が全然違うんですよ。もうしばらく、いい刺激を与えてやって下さいな」
そんな風にアランさんが言うものから、朝錬の事を思い出して私まで吹き出してしまい、ニールはそんな私たちを見て、なんだよーと不貞腐れた。
「お出掛けされる時には、あまり人気のないところには行かないように、用心して下さいね」
そう言って、二人は出掛けて行った。今日は近場のクエストでも受けてくるそうだ。
洗濯など身の回りの事を済ませると、一人で町にでた。
1年以上住んでいる町の風景が、今は少しだけ別の色で色付けされている。
ドリーさんが記憶の整理をしてくれたからだ。今の街並みに昔の思い出が重なって見えている。
そして何故かずっと足が向いていなかった場所がある事にも気が付いていた。
季節は日差しが痛いほどに眩しい頃を迎え、町中の樹々では夏の虫が死にもの狂いで聲を上げて競い合っている。でもそんな聲も今の私の心には響かなくて。まるで分厚いカーテンを頭から被っているかの様に、遠くの方に聞こえている。
今、心の中に響くのは別の声で……
なかなか美味かったな。
食べ過ぎちゃった。どうしよう太っちゃう。
そんな気にする程じゃねえのに。
気に入ったのなら、また皆で行こうか。
もう一軒、良い店知ってるのよー
今度はそこにも行ってみましょう!
なあ、今度は二人で行かないか?
何抜け駆けしてんだよ!
じゃあ、私と一緒に行こう?
ずるいー 私も行くわよー
ええっ なら、私たちも二人で一緒に……
ははは。これじゃあ結局皆で一緒に行くようだな。
それを聞いて、皆で笑った。
嗚呼、良かった。皆が笑っていて良かった。
思い出を数えながら道を辿ると、懐かしい場所に行きついた。
でも顔を上げても、目の前が滲んで良く見えなくて……
何かがぽろぽろと頬を伝って落ちていった。
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(メモ)
朝練(#9)
あの時(#40)
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