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王都へ帰る旅
37 迷惑と覚悟/ニール(1)
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◆登場人物紹介(既出のみ)
・ニール…主人公リリアンの友人で、冒険者見習いとして活動している自称田舎貴族の少年
・アラン…ニールのお供兼「冒険者の先生」をしている騎士
・ミリア…『樫の木亭』の給仕(ウエイトレス)をしている狐獣人の少女
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属する、Aランクの先輩冒険者
====================
十日に一度くらいのペースで、爺様の下での勉強会がある。ここで学ぶのは学校で教わるような事だけではない。主に一族の者として歴史や知識を学ぶ場になっている。
俺はこの勉強会が嫌いだ。いや、爺様は本当に俺に良くしてくれるし、感謝している。それにこの場で学ぶのも大切な事だと理解はしている。
嫌いなのは……従兄殿だ……
従兄殿は会った事もないうちから、俺の事が気に入らなかったらしい。その理由は俺自身なのか、俺の父なのか、それとも田舎で療養している俺の母なのか。
毎回のように、勉強会が終わるとわざわざ俺の横に来てイヤミや悪口を言っていくのだ。やれ、田舎者だとか、素質のない奴は山に帰れだとか、人殺しの息子だとか……
流石に母の悪口を言われた時には腹がたって反論したが、ああ言えばこう言う体で始末に負えない。
が、今日はちょっと違った。
「お前、最近可愛い獣人の女と、随分と仲が良いんだってな」
ミリアさんの事か? それともリリアンの事か……? どこでそれを知ったのか。でもそんな事お前には関係ないじゃないか。俺があからさまに無視をしていても、一人でぺらぺらと話を続けている。
「で、お前、もうヤッたのか?」
思いがけない一言に、不快感が沸き上がった。
「ふん。どうせスキル目当てで口説いてるんだろう? お前みたいな田舎者になびく女も居ないと思うけどな。その女、俺に寄越せよ」
その言いぶりに流石に我慢できずに俺が睨み付けると、相手にされた事がむしろ面白いようでニヤニヤと笑った。
「お前なんざ、とっとと田舎に帰ればいいんだよ。こんな勉強しても無駄でしかねえし。『獣使い』なんて取っても意味がねえ。だから、その女は俺に抱かせろよ。女もお前みたいな田舎猿を相手にするよりも、俺の方がずうっといいだろうよ。ベッドでもきっと満足させてやるぜ」
その言葉に、思い当たるところがあった。
「……お前、ギルドに尋ね人の照会をしたか?」
「はは。なんだ知ってるのか。でも今は王都には居ないらしいな。なあ、いつ戻ってくるんだ?」
あれは……あの騒ぎはこいつのせいだったのか…… 湧き上がる不快感と苛立ちでムカムカしてくる。
「ニール様!」
後から追ってきたアランに声をかけられ、少し我に返った。
「……家に帰りましょう」
おそらくこの場で何かがあったのだろうと察したアランに促され、ようやくそこから足が動いた。
「失礼致します」
アランは形だけの礼をし、俺の腕をとってその場から歩き去った。あいつがフンッと、面白くないように漏らした声だけが後ろの方で聞こえた。
あいつから大分離れたのを見計らって、足を止めた。
「アラン、待ってくれ」
そう声をかけると、アランが俺の腕を掴む手と歩調をゆるめた。
「……いつもは彼の言う事にも耳を貸さずに無視出来ているのに…… 今日はいったいどうされたんですか?」
「……あいつだった…… マイルズさんのところに、リリアンの照会をだした貴族ってやつ」
「ええ?」
「あいつも『獣使い』を取ろうとしてるらしい。それでリリアンに目をつけたみたいだ」
「……成程……やりかねませんね…… 貴方への当てつけもあるんでしょう……」
当てつけ…… そう言われて気が付いた。
「そうか、俺の所為でもあるのか……」
そう言うと、アランの表情がちょっと強張ったように見えた。
「……まあ、今それを考えても何の解決になりません。ひとまずこの件をどうにかしないとですね……」
「ああ……」
「そういう話であれば、やはりミリアさんにも警戒をしていたのは正解のようですね。デニスさんが戻れば頼れますが、今は居ないですし」
「こんな時に……デニスさんはどこに行ってるんだ?」
「……それについては、後程お話します。ただ、ずっと護衛を付けていてもきりがないですし、元から対処できるのが良いのですが……」
爺様に言うというのも手段の一つなのだろう。しかし、残念な事に爺様は等しく孫たちを可愛がっている。あんな奴でも、だ。俺が爺様にこの事を伝えても、少なくとも喜びはしないし、告げ口をするようで気が進まない。
「どうかしたのかな?」
ふいに、視界の外から声がかかった。
====================
(メモ)
尋ね人(#16、#26)
『獣使い』(#16)
・ニール…主人公リリアンの友人で、冒険者見習いとして活動している自称田舎貴族の少年
・アラン…ニールのお供兼「冒険者の先生」をしている騎士
・ミリア…『樫の木亭』の給仕(ウエイトレス)をしている狐獣人の少女
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属する、Aランクの先輩冒険者
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十日に一度くらいのペースで、爺様の下での勉強会がある。ここで学ぶのは学校で教わるような事だけではない。主に一族の者として歴史や知識を学ぶ場になっている。
俺はこの勉強会が嫌いだ。いや、爺様は本当に俺に良くしてくれるし、感謝している。それにこの場で学ぶのも大切な事だと理解はしている。
嫌いなのは……従兄殿だ……
従兄殿は会った事もないうちから、俺の事が気に入らなかったらしい。その理由は俺自身なのか、俺の父なのか、それとも田舎で療養している俺の母なのか。
毎回のように、勉強会が終わるとわざわざ俺の横に来てイヤミや悪口を言っていくのだ。やれ、田舎者だとか、素質のない奴は山に帰れだとか、人殺しの息子だとか……
流石に母の悪口を言われた時には腹がたって反論したが、ああ言えばこう言う体で始末に負えない。
が、今日はちょっと違った。
「お前、最近可愛い獣人の女と、随分と仲が良いんだってな」
ミリアさんの事か? それともリリアンの事か……? どこでそれを知ったのか。でもそんな事お前には関係ないじゃないか。俺があからさまに無視をしていても、一人でぺらぺらと話を続けている。
「で、お前、もうヤッたのか?」
思いがけない一言に、不快感が沸き上がった。
「ふん。どうせスキル目当てで口説いてるんだろう? お前みたいな田舎者になびく女も居ないと思うけどな。その女、俺に寄越せよ」
その言いぶりに流石に我慢できずに俺が睨み付けると、相手にされた事がむしろ面白いようでニヤニヤと笑った。
「お前なんざ、とっとと田舎に帰ればいいんだよ。こんな勉強しても無駄でしかねえし。『獣使い』なんて取っても意味がねえ。だから、その女は俺に抱かせろよ。女もお前みたいな田舎猿を相手にするよりも、俺の方がずうっといいだろうよ。ベッドでもきっと満足させてやるぜ」
その言葉に、思い当たるところがあった。
「……お前、ギルドに尋ね人の照会をしたか?」
「はは。なんだ知ってるのか。でも今は王都には居ないらしいな。なあ、いつ戻ってくるんだ?」
あれは……あの騒ぎはこいつのせいだったのか…… 湧き上がる不快感と苛立ちでムカムカしてくる。
「ニール様!」
後から追ってきたアランに声をかけられ、少し我に返った。
「……家に帰りましょう」
おそらくこの場で何かがあったのだろうと察したアランに促され、ようやくそこから足が動いた。
「失礼致します」
アランは形だけの礼をし、俺の腕をとってその場から歩き去った。あいつがフンッと、面白くないように漏らした声だけが後ろの方で聞こえた。
あいつから大分離れたのを見計らって、足を止めた。
「アラン、待ってくれ」
そう声をかけると、アランが俺の腕を掴む手と歩調をゆるめた。
「……いつもは彼の言う事にも耳を貸さずに無視出来ているのに…… 今日はいったいどうされたんですか?」
「……あいつだった…… マイルズさんのところに、リリアンの照会をだした貴族ってやつ」
「ええ?」
「あいつも『獣使い』を取ろうとしてるらしい。それでリリアンに目をつけたみたいだ」
「……成程……やりかねませんね…… 貴方への当てつけもあるんでしょう……」
当てつけ…… そう言われて気が付いた。
「そうか、俺の所為でもあるのか……」
そう言うと、アランの表情がちょっと強張ったように見えた。
「……まあ、今それを考えても何の解決になりません。ひとまずこの件をどうにかしないとですね……」
「ああ……」
「そういう話であれば、やはりミリアさんにも警戒をしていたのは正解のようですね。デニスさんが戻れば頼れますが、今は居ないですし」
「こんな時に……デニスさんはどこに行ってるんだ?」
「……それについては、後程お話します。ただ、ずっと護衛を付けていてもきりがないですし、元から対処できるのが良いのですが……」
爺様に言うというのも手段の一つなのだろう。しかし、残念な事に爺様は等しく孫たちを可愛がっている。あんな奴でも、だ。俺が爺様にこの事を伝えても、少なくとも喜びはしないし、告げ口をするようで気が進まない。
「どうかしたのかな?」
ふいに、視界の外から声がかかった。
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(メモ)
尋ね人(#16、#26)
『獣使い』(#16)
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