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獣人の国
27 『樫の木亭』にて/アラン(2)
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◆登場人物紹介(既出のみ)
・アラン…騎士団に所属しながら、ニールの「冒険者の先生」をしているBランク冒険者
・ニール…主人公リリアンの友人で、冒険者見習いとして活動している自称田舎貴族の少年
・ミリア…『樫の木亭』の給仕(ウエイトレス)をしている狐獣人の少女
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。王都を離れ故郷に帰省中。
====================
まだまだ仕事終わりまで時間があるようなので、帰り時間の予定を聞いて自分は一度帰る事にした。リリアンさんが帰ってくるまで、おそらくあと十日程か。それまでの間、夕方は『樫の木亭』の手伝いがあるのなら、それに合わせて予定を組み直さないと。
夕食は不要な事、帰りが遅くなることをメイドにも伝えておいた方が良いし、家庭教師にも課題などを少し加減してもらった方が良いだろう。クエストもしばらく遠出は出来ないだろうし、ある程度時間の都合が付きやすい訓練の時間を増やした方が良いかもしれない。
家に帰ると、ニール宛てに大きな荷物が届いていた。そういえば今朝爺様が差し入れを届けると言っていた事を思い出した。
今日は色々な事があったので、今朝の出来事がまるで数日も前の事の様に感じられている。自室で一息つき、家庭教師や騎士団長に宛てる手紙を書いているうちに、もう約束の時間が近づいたので『樫の木亭』に向かった。
『樫の木亭』は食事の店にしては比較的遅い時間まで営業している。ある程度遅い時間になると、夕食をというより酒を愉しむ客が増えて来る。そのくらいがミリアさんの仕事終わりだそうだ。後に残った酒飲みたちはご主人と奥さんで相手をするらしい。
迎えに行った頃には、丁度ミリアさんがてきぱきと片づけをしているところだった。ニールも最後の洗い物を頑張っているらしい。カウンターで軽く1杯頂きながら、二人の仕事終わりを待つ。
「今日は本当に助かっちゃったわ」
奥さんのシェリーさんがニコニコとしながらエールを注いでくれた。
「まだしばらくお世話になりますが、よろしくお願いします。今日のニールの様子はどうでしたか?」
奥さんによると、不慣れながらも一生懸命だったと。皿を2枚ほど割ってしまったそうだが、誰もがする失敗なんだからそのくらいは仕方ないわよね、と笑ってくれた。
「動き方とか見ていると、本当に家事とかした事がないのがわかるわ。でもミリアが色々声をかけてくれたから、だいぶ慣れてきたみたいね。どういう切っ掛けかわからないけど、ああして自分から色々やる気になるのは良いわね。うちのジャスパーなんて、家の手伝いもロクにしないうちに家を出てっちゃったわ」
ジャスパーと言うのは、ご夫婦の一人息子だそうだ。冒険者になって外にいってばかりで、ある日旅に出てしまってそれきり帰って来ないらしい。
そんな話を聞いているうちに、二人の片づけが終わったようで、ご主人と奥さんに礼を言って店を出た。
ミリアさんの帰る部屋は、中央の公園に向かってしばらく歩いた後、細目の路地を少し入った所にあった。
歩いても四半時間程の距離でそう遠くもないが、路地裏は街灯もなくかなり暗いので、やはりご一緒して正解だろう。
「ありがとうニールくん、また明日も宜しくね。アランさんもありがとうございます」
礼を言われてニールはとても嬉しそうだ。会釈をすると「おやすみなさい」の言葉と共に扉は閉まった。
二人の帰り道。ニールがぽつりと今日1日の事を話してくれた。
ミリアさんと町で会って、食事をした事。
その席でミリアさんの生い立ちを聞いた事。
自分の知らない世界の話のようでひどく驚いた事。
すっかり凹んでしまったニールを、元気づけようとミリアさんが『樫の木亭』に連れて行ったと。
「ミリアさんの方が嫌な思いをしたはずなのに、なんだか俺の方が慰められてさ。情けないなあって思った……」
ああ、彼の覇気がないと思えたのはそういう経緯があったからなのか。
「貴方はまだまだ知らない事が多いですからね。勉強もしなければいけませんし、色々と話しておかないといけない事も多いでしょう」
勉強と聞くと、ニールは苦い顔になった。本当にニールは感情がすぐに顔に出る。それが彼の美点でもあるし、弱点でもあるのだが。
「でもまずは一つ。今日の出来事を話してくれたのは良いのですが、ミリアさんの生い立ちについては、私に話す事ではなかったはずです。彼女はニールにだから話をしてくれたのでしょうが、それを私に知られて良いかどうかはわからないでしょう? それは彼女の個人的な事なのですから」
ニールが、あ……と言うような表情になるのを見て、さらに続ける。
「だから先日デニスさんもはっきりと話をするのは避けたのでしょう。そういう配慮も出来るようにならないといけませんね」
今回、私は聞かなかった事にしますから。そう言うと、ニールは黙って項垂れた。
でもちゃんと反省はしている。それがわかったので、デニスさんの真似をしてニールの頭を撫でてやると、少し驚いた表情でこちらを見た。
「貴方はちゃんと理解はできる人ですから、大丈夫です。私もちゃんとお教えします。今日は帰ったら早めに休んで。また明日も頑張らないとですね」
そう言うと、ニールは少し恥ずかしそうな顔をして頷いた。
今日はだいぶ頑張っていたし、明日の朝は少しくらいなら寝坊しても煩く言わないようにしよう。
====================
※四半時間…1時間の1/4=15分
(メモ)
先日のデニス、ミリアの生い立ち話についての配慮(#16)
・アラン…騎士団に所属しながら、ニールの「冒険者の先生」をしているBランク冒険者
・ニール…主人公リリアンの友人で、冒険者見習いとして活動している自称田舎貴族の少年
・ミリア…『樫の木亭』の給仕(ウエイトレス)をしている狐獣人の少女
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。王都を離れ故郷に帰省中。
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まだまだ仕事終わりまで時間があるようなので、帰り時間の予定を聞いて自分は一度帰る事にした。リリアンさんが帰ってくるまで、おそらくあと十日程か。それまでの間、夕方は『樫の木亭』の手伝いがあるのなら、それに合わせて予定を組み直さないと。
夕食は不要な事、帰りが遅くなることをメイドにも伝えておいた方が良いし、家庭教師にも課題などを少し加減してもらった方が良いだろう。クエストもしばらく遠出は出来ないだろうし、ある程度時間の都合が付きやすい訓練の時間を増やした方が良いかもしれない。
家に帰ると、ニール宛てに大きな荷物が届いていた。そういえば今朝爺様が差し入れを届けると言っていた事を思い出した。
今日は色々な事があったので、今朝の出来事がまるで数日も前の事の様に感じられている。自室で一息つき、家庭教師や騎士団長に宛てる手紙を書いているうちに、もう約束の時間が近づいたので『樫の木亭』に向かった。
『樫の木亭』は食事の店にしては比較的遅い時間まで営業している。ある程度遅い時間になると、夕食をというより酒を愉しむ客が増えて来る。そのくらいがミリアさんの仕事終わりだそうだ。後に残った酒飲みたちはご主人と奥さんで相手をするらしい。
迎えに行った頃には、丁度ミリアさんがてきぱきと片づけをしているところだった。ニールも最後の洗い物を頑張っているらしい。カウンターで軽く1杯頂きながら、二人の仕事終わりを待つ。
「今日は本当に助かっちゃったわ」
奥さんのシェリーさんがニコニコとしながらエールを注いでくれた。
「まだしばらくお世話になりますが、よろしくお願いします。今日のニールの様子はどうでしたか?」
奥さんによると、不慣れながらも一生懸命だったと。皿を2枚ほど割ってしまったそうだが、誰もがする失敗なんだからそのくらいは仕方ないわよね、と笑ってくれた。
「動き方とか見ていると、本当に家事とかした事がないのがわかるわ。でもミリアが色々声をかけてくれたから、だいぶ慣れてきたみたいね。どういう切っ掛けかわからないけど、ああして自分から色々やる気になるのは良いわね。うちのジャスパーなんて、家の手伝いもロクにしないうちに家を出てっちゃったわ」
ジャスパーと言うのは、ご夫婦の一人息子だそうだ。冒険者になって外にいってばかりで、ある日旅に出てしまってそれきり帰って来ないらしい。
そんな話を聞いているうちに、二人の片づけが終わったようで、ご主人と奥さんに礼を言って店を出た。
ミリアさんの帰る部屋は、中央の公園に向かってしばらく歩いた後、細目の路地を少し入った所にあった。
歩いても四半時間程の距離でそう遠くもないが、路地裏は街灯もなくかなり暗いので、やはりご一緒して正解だろう。
「ありがとうニールくん、また明日も宜しくね。アランさんもありがとうございます」
礼を言われてニールはとても嬉しそうだ。会釈をすると「おやすみなさい」の言葉と共に扉は閉まった。
二人の帰り道。ニールがぽつりと今日1日の事を話してくれた。
ミリアさんと町で会って、食事をした事。
その席でミリアさんの生い立ちを聞いた事。
自分の知らない世界の話のようでひどく驚いた事。
すっかり凹んでしまったニールを、元気づけようとミリアさんが『樫の木亭』に連れて行ったと。
「ミリアさんの方が嫌な思いをしたはずなのに、なんだか俺の方が慰められてさ。情けないなあって思った……」
ああ、彼の覇気がないと思えたのはそういう経緯があったからなのか。
「貴方はまだまだ知らない事が多いですからね。勉強もしなければいけませんし、色々と話しておかないといけない事も多いでしょう」
勉強と聞くと、ニールは苦い顔になった。本当にニールは感情がすぐに顔に出る。それが彼の美点でもあるし、弱点でもあるのだが。
「でもまずは一つ。今日の出来事を話してくれたのは良いのですが、ミリアさんの生い立ちについては、私に話す事ではなかったはずです。彼女はニールにだから話をしてくれたのでしょうが、それを私に知られて良いかどうかはわからないでしょう? それは彼女の個人的な事なのですから」
ニールが、あ……と言うような表情になるのを見て、さらに続ける。
「だから先日デニスさんもはっきりと話をするのは避けたのでしょう。そういう配慮も出来るようにならないといけませんね」
今回、私は聞かなかった事にしますから。そう言うと、ニールは黙って項垂れた。
でもちゃんと反省はしている。それがわかったので、デニスさんの真似をしてニールの頭を撫でてやると、少し驚いた表情でこちらを見た。
「貴方はちゃんと理解はできる人ですから、大丈夫です。私もちゃんとお教えします。今日は帰ったら早めに休んで。また明日も頑張らないとですね」
そう言うと、ニールは少し恥ずかしそうな顔をして頷いた。
今日はだいぶ頑張っていたし、明日の朝は少しくらいなら寝坊しても煩く言わないようにしよう。
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※四半時間…1時間の1/4=15分
(メモ)
先日のデニス、ミリアの生い立ち話についての配慮(#16)
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