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獣人の国

25 3人の1日(1)

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◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。他の種族の長たちの前では魔法石の力で大人の戦士に化けていた。
・カイル…リリアンの兄で、灰狼族の若き族長。銀の髪と尾を持つ。
・イリス…リリアンの姉で、三つ子の真ん中。銀の髪と尾を持つ。

====================

 日の昇る少し前に起きると、イリスとカイルは私を挟むようにしてまだ眠っていた。二人とも自分の部屋があるのに、また今晩も一緒に寝るんだって。
 またしばらく私と会えない事を惜しんでくれている。そういえば、14歳で家を出た前の日もそんな感じだった。

 外の世界は朝になりきれずにまだぼんやりとしていて、でもこの澄んだ森の空気を懐かしくも感じた。こうして早起きしてひととおり運動をするのが、幼い頃からの私の日課だった。
 いつものように集落を出て森に入る。木々の間を駆け抜け、沢を渡り、その先の草原を二回り程した頃には両の手で持つ程にウサギとヤマキジを捕まえることが出来た。今日の夕飯に、ローストにするかシチューにするのが良さそう。

 その頃になると、遅れて追って来たカイルと合流する。
「おはよう、相変わらず早いね。今日は流石にゆっくり寝てるかと思ったよ」
「昨日は寝坊しちゃったからね」
 そう言って、カイルの差し出した手に獲物の半分を渡した。こうして手分けして持ち帰るのもいつもの流れ。
 そうして帰り道には別の道を回り、季節の食材を探して帰る。今日は杏子あんずとハニーベリーの実を集めることが出来た。帰ったらジャムにしようかな。

 朝ご飯を食べた後は、イリスが食事の片づけを、カイルと私は洗濯を。お母さんが「普段カイルは手伝いなんかしないのに、リリが帰ってくるといい格好したがるのね」って笑うものだから、カイルは顔を真っ赤にしていた。
 今日は天気が良いので、魔法で乾かす必要もないだろう。お日様の下にめいっぱい洗濯物を広げた。

 昼までまだ時間がたっぷりあるので、久しぶりに蔵にこもって本を眺めたり、魔法石や魔道具の確認をする事にした。
 昔はただ雑多に物が詰め込まれていたこの蔵を、私が何年もかけて整理して、今はどこに何が仕舞われているかちゃんとわかるようになっている。

 ここには昔からの「拾い物」が集められていた。おそらく狩りやダンジョン探索で入手した物がほとんどだ。獣人はこういった物への探求心をあまり持たない。
 パッと見て判る物以外は、こうして全てここに投げ込んでいったのだろう。それが私には有り難い事だったのだけど。

 そんな拾い物の中には、変わった物や珍しい物もいくつかあった。
 『変姿の魔法石』を見つけたのもこの蔵の中だ。これはかなり珍しい魔法石で、扱いも難しいよう。この集落内でも発動できる者は私しか居なかった。人間の国でも話に聞いたことがある程度で、どうやら一部の教会関係者が持ってはいるらしい。
 実際に使ってみて判ったのだけど、その効果を継続する為には、わずかずつずっと魔力を流し込んでいないといけない。これでは使いこなせる者も少ないのだろう。

 私が色々な魔法石や魔道具を並べている横で、カイルとイリスは色々な魔道具に魔力を流して遊んでいる。中には魔力を流すと、絵が出たり音楽が流れたりするようなものもある。
 二人とも獣人にしては魔力が高いのは、こうして私と子供の頃から魔力を使っていたからだろう。
 イリスは特に性に合ったようで、今では集落で二番目に魔力が高い。巫女は魔力が高いものがなるのが習わしになっている。
 カイルもイリスも、私が集落を出られるように、一番手の役を自らかってくれた。


 昼食を食べた後はジャムを作ってクッキーを焼く。そのクッキーをおやつに持って草原に向かうと、集落の子供たちが狩りに行くところに出会った。
 15歳の若さで族長になったカイルは、当然ながら子供たちからの人気も高い。にーちゃん、にーちゃんと皆に囲まれてそのまま狩りに同行させられてしまった。その様子が可笑しくて、イリスと笑いながら手を振って見送った。

 カイルが居ない間は、二人で花を摘んだり、虫を追ったり、歌を歌ったりして過ごした。
 イリスは二人きりになっても、私に何も聞かないで居てくれる。先日の旅の最中でも、高位魔獣の住処に行っても、カイルと不穏ふおんな話をしてても、イリスから何かを尋ねてくる事はなかった。
 カイルは私の話を聞く事で、私のそばに居てくれようとしてくれる。イリスはえて話を聞かない事で、居場所を作ってくれようとしている。そんな兄と姉の優しさが、とても嬉しい。

 しばらくすると、カイルたちが大きい鹿を仕留めて、満足そうな笑顔で戻って来た。集めておいた杏子の実と、昼に焼いたクッキーを出して、皆でおやつにした。
 明日、カイルは大人たちの狩りに同行する予定だそうだ。「いい予習になったよ」とカイルが言うと、子供たちも満足げに笑った。
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