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故郷へ向かう旅
16 あのひとの居ない町/ニール(2)
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※性的な内容を意味している表現があります。ご注意下さい。
◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。故郷に向けての旅の途中。
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属するAランクの冒険者で、リリアンの先輩
・ニール…冒険者見習いとして活動している、貴族の少年
・アラン…デニスの後輩の冒険者。ニールの「冒険者の先生」をしている。
・ミリア…『樫の木亭』の給仕(ウエイトレス)をしている狐獣人の少女
==============================
ここは元々は人間族の国だ。他種族も居るには居るが、決して多くはない。
そして獣人は特に数が少ない。この西の冒険者ギルドにも獣人の冒険者は居るが、30人集めて一人居るかどうかというくらいだ。
その所為か、獣人の生態などについて世間的にはあまり知られておらず、情報が少ない。
でも知られていないというだけで、当の獣人に聞けばわかるだろう。そこへ丁度、狐獣人のミリアさんが空いた食器を下げに来た。
「なぁ、ミリアさん。『獣使い』のスキルってどうやったら取れるか知ってる?」
そう尋ねると、何故かデニスさんが一瞬俺を止めようとしたように見えたが、すぐに諦めたように苦い顔をしてそっぽを向いた。ミリアさんに聞いちゃダメだったのか?
「私は幼少の頃から王都で育ってますから、そういった事は知らないんですよ。でも確か、大人の獣人は大抵持っていたようにと思います。幼いうちは持っていない者もいましたし、私も持っていないです」
お役に立てなくてごめんなさい、と、ミリアさんは会釈をして戻って行った。
デニスさんが、ちょっとだけだが不機嫌になっているのがわかる。
「……デニスさん、ごめん。俺、なんかまずい事を言っただろうか?」
それを聞くと、デニスさんは額に少し手を当てながら、俯いた。
「あー……、いや悪い。俺がちゃんと言っておけば良かったな。俺が悪い」
そして今度は顔をあげて、俺とアランを見て話した。
「さっきミリアが言ったように、あいつが王都に来たのは本当に幼い頃だ。故郷の思い出は殆ど無い。あいつが育ったのはこの王都だし、育ててくれたのも人間だ。だから…… 昔の事とか故郷の事とか、そういった事はあまり訊かないでやってほしいんだ」
なんだろう? 何かを曖昧にしているような言い方だとか、なんでデニスさんがミリアさんの事をそんなに気にしているかとか、気になる事はある。でも聞いてはいけない事がその辺りにあるんだろうと、そう思えた。
「とすると、大人の獣人に聞かないと、だな……」
もう一度店内を見回すと、少し離れたテーブルにラーシュさんが居るのに気付いた。
ラーシュさんは獅子の獣人だ。一度クエストに手伝いで同行させてもらった事があるので、俺も面識がある。どうやら仲間たちと飲んでいたみたいだったけど、デニスさんが声をかけてこちらに連れて来てくれた。
席についたラーシュさんに新しいエールを勧めて話を聞く。
「『獣使い』スキルについて聞きたいんだが、あれはどうやったら取得出来るんだ??」
デニスさんが単刀直入に聞くと、ラーシュさんはエールを一口呷ってからニヤリと笑った。
「なんだ? リリアンか?」
「まあ、それも理由のひとつだ」
「ふむ…… リリアンの為に取ろうってんなら、彼女とつがいになってヤればいい」
「「「え!?」」」
……なんて言った? やる、って? どういう意味……、だ?
「『獣使い』は、本来ならば狩りの為のスキルだ。リーダーの格や素質がある者は、生まれながらにして持っている。俺みたいにな。あとは成人してつがいになる事でも発現する。群れでなくつがいで狩りをする獣もいるので、それでだろう。だから獣人以外の種族が『獣使い』を取得するには、獣人とつがいになればいいのさ」
つがいになり交わる事で、『獣使い』が取得できるのだと……
ヤるって…… 交わるって…… つまり……
頭の中に邪な想像が浮かぶ。こういう時にばかり、自分の想像力はやたらと性能が良くなる。
「この話は他に言うなよ。昔『獣使い』スキルを取る為に、獣人を誑かしてヤるだけヤって捨てるなんて事が横行した。獣人側が相手に本気になっていれば条件は成立しちまうからな。特に貴族にはそういう事をしようとするヤツが多い。あいつらは『英雄』になる為に、出来る事はなんでもしようとするからな」
ラーシュさんは、ジョッキに残ったエールを一気に飲み干した。
「まあ、この話に勘違いをするやつも居てな。ただ獣人とヤればいいんだろうって、獣人の娼館に行くヤツもいるらしい。そんなんで取得できてたら、町中『獣使い』持ちだらけになるさ」
そう言って、ラーシュさんは笑いながら戻って行った。
「娼館か……」
デニスさんが真面目な顔で呟いた。いやいや、今それじゃダメだって言われただろ?
「アラン、今晩空いてるか??」
「空いてますが。何故ですか? デニスさん」
「娼館に行くから付き合えや。ああ、ニールはまだ子供だから留守番な」
娼館がどんな事をする所かくらいは、俺だって知っている。
「なんで私が? 一人で行けばいいでしょうに」
「お前と一緒に行けば、彼女にばれた時に言い訳が立つだろう」
「え!! デニスさん、恋人がいるの!?」
ちょっと待て、初耳だ。確かに居ないとも聞いてはないけれど、居る話も聞いた事がない。リリアンやミリアさんは知っているんだろうか……
デニスさんは「善は急げだ」とか言って、アランを連れてさっさと店を出ていってしまった。
善……って…… 何がだ、おい。
落ち着かない気持ちを抱えながら、独り帰路についた。
さっきラーシュさんが言っていた言葉が頭から離れない。
リリアンと……? つがいって…… ヤるって……
家に帰ると、メイドに「風邪でもひいてませんか?」と心配された。
頬が熱い。熱でもあるかのように見えたのだろう。体調が悪いので早めに寝ると伝えて、部屋に入った。
その夜は早めに床についたが、興奮しすぎてそのままじゃ眠れなかった。
そして、アランは朝まで帰らなかった。
==============================
(メモ)
『獣使い』スキル(#7)
ニールの家(#4、#9)
◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。故郷に向けての旅の途中。
・デニス…王都シルディスの西の冒険者ギルドに所属するAランクの冒険者で、リリアンの先輩
・ニール…冒険者見習いとして活動している、貴族の少年
・アラン…デニスの後輩の冒険者。ニールの「冒険者の先生」をしている。
・ミリア…『樫の木亭』の給仕(ウエイトレス)をしている狐獣人の少女
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ここは元々は人間族の国だ。他種族も居るには居るが、決して多くはない。
そして獣人は特に数が少ない。この西の冒険者ギルドにも獣人の冒険者は居るが、30人集めて一人居るかどうかというくらいだ。
その所為か、獣人の生態などについて世間的にはあまり知られておらず、情報が少ない。
でも知られていないというだけで、当の獣人に聞けばわかるだろう。そこへ丁度、狐獣人のミリアさんが空いた食器を下げに来た。
「なぁ、ミリアさん。『獣使い』のスキルってどうやったら取れるか知ってる?」
そう尋ねると、何故かデニスさんが一瞬俺を止めようとしたように見えたが、すぐに諦めたように苦い顔をしてそっぽを向いた。ミリアさんに聞いちゃダメだったのか?
「私は幼少の頃から王都で育ってますから、そういった事は知らないんですよ。でも確か、大人の獣人は大抵持っていたようにと思います。幼いうちは持っていない者もいましたし、私も持っていないです」
お役に立てなくてごめんなさい、と、ミリアさんは会釈をして戻って行った。
デニスさんが、ちょっとだけだが不機嫌になっているのがわかる。
「……デニスさん、ごめん。俺、なんかまずい事を言っただろうか?」
それを聞くと、デニスさんは額に少し手を当てながら、俯いた。
「あー……、いや悪い。俺がちゃんと言っておけば良かったな。俺が悪い」
そして今度は顔をあげて、俺とアランを見て話した。
「さっきミリアが言ったように、あいつが王都に来たのは本当に幼い頃だ。故郷の思い出は殆ど無い。あいつが育ったのはこの王都だし、育ててくれたのも人間だ。だから…… 昔の事とか故郷の事とか、そういった事はあまり訊かないでやってほしいんだ」
なんだろう? 何かを曖昧にしているような言い方だとか、なんでデニスさんがミリアさんの事をそんなに気にしているかとか、気になる事はある。でも聞いてはいけない事がその辺りにあるんだろうと、そう思えた。
「とすると、大人の獣人に聞かないと、だな……」
もう一度店内を見回すと、少し離れたテーブルにラーシュさんが居るのに気付いた。
ラーシュさんは獅子の獣人だ。一度クエストに手伝いで同行させてもらった事があるので、俺も面識がある。どうやら仲間たちと飲んでいたみたいだったけど、デニスさんが声をかけてこちらに連れて来てくれた。
席についたラーシュさんに新しいエールを勧めて話を聞く。
「『獣使い』スキルについて聞きたいんだが、あれはどうやったら取得出来るんだ??」
デニスさんが単刀直入に聞くと、ラーシュさんはエールを一口呷ってからニヤリと笑った。
「なんだ? リリアンか?」
「まあ、それも理由のひとつだ」
「ふむ…… リリアンの為に取ろうってんなら、彼女とつがいになってヤればいい」
「「「え!?」」」
……なんて言った? やる、って? どういう意味……、だ?
「『獣使い』は、本来ならば狩りの為のスキルだ。リーダーの格や素質がある者は、生まれながらにして持っている。俺みたいにな。あとは成人してつがいになる事でも発現する。群れでなくつがいで狩りをする獣もいるので、それでだろう。だから獣人以外の種族が『獣使い』を取得するには、獣人とつがいになればいいのさ」
つがいになり交わる事で、『獣使い』が取得できるのだと……
ヤるって…… 交わるって…… つまり……
頭の中に邪な想像が浮かぶ。こういう時にばかり、自分の想像力はやたらと性能が良くなる。
「この話は他に言うなよ。昔『獣使い』スキルを取る為に、獣人を誑かしてヤるだけヤって捨てるなんて事が横行した。獣人側が相手に本気になっていれば条件は成立しちまうからな。特に貴族にはそういう事をしようとするヤツが多い。あいつらは『英雄』になる為に、出来る事はなんでもしようとするからな」
ラーシュさんは、ジョッキに残ったエールを一気に飲み干した。
「まあ、この話に勘違いをするやつも居てな。ただ獣人とヤればいいんだろうって、獣人の娼館に行くヤツもいるらしい。そんなんで取得できてたら、町中『獣使い』持ちだらけになるさ」
そう言って、ラーシュさんは笑いながら戻って行った。
「娼館か……」
デニスさんが真面目な顔で呟いた。いやいや、今それじゃダメだって言われただろ?
「アラン、今晩空いてるか??」
「空いてますが。何故ですか? デニスさん」
「娼館に行くから付き合えや。ああ、ニールはまだ子供だから留守番な」
娼館がどんな事をする所かくらいは、俺だって知っている。
「なんで私が? 一人で行けばいいでしょうに」
「お前と一緒に行けば、彼女にばれた時に言い訳が立つだろう」
「え!! デニスさん、恋人がいるの!?」
ちょっと待て、初耳だ。確かに居ないとも聞いてはないけれど、居る話も聞いた事がない。リリアンやミリアさんは知っているんだろうか……
デニスさんは「善は急げだ」とか言って、アランを連れてさっさと店を出ていってしまった。
善……って…… 何がだ、おい。
落ち着かない気持ちを抱えながら、独り帰路についた。
さっきラーシュさんが言っていた言葉が頭から離れない。
リリアンと……? つがいって…… ヤるって……
家に帰ると、メイドに「風邪でもひいてませんか?」と心配された。
頬が熱い。熱でもあるかのように見えたのだろう。体調が悪いので早めに寝ると伝えて、部屋に入った。
その夜は早めに床についたが、興奮しすぎてそのままじゃ眠れなかった。
そして、アランは朝まで帰らなかった。
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(メモ)
『獣使い』スキル(#7)
ニールの家(#4、#9)
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